食品・薬品

安全性研究ニュース

第19号



目次
  1. 卵巣摘除泌乳ラットの骨組織に対するゲニステイン作用の二面性
  2. 有機溶媒作業者の妻の妊娠まで
  3. 殺虫剤使用農家の妻の妊娠まで―有機農業の強精伝説
  4. スウェーデン漁業婦人の血漿中 PCB:出産児体重との関係
  5. スウェーデン人母乳中有機塩素化合物,1972年から1992年の変化
  6. マウスにおけるダイオキシン投与の影響の特徴
  7. ヘキサクロロベンゼンは人乳中のダイオキシン活性を高めている
  8. DDT の雌マウスにおけるエストロゲン様作用
  9. 北ドイツ住民の母乳中有機塩素殺虫剤と PCB.1986〜1997年の変化
  10. p‐ノニルフェノールのラットにおける亜慢性(90日)毒性試験
  11. 家庭用殺虫剤 吸入毒性の評価
  12. ガスストーブ排気の変異原性,染色体異常誘発性
  13. タバコと喫煙は生体防御反応に影響を与える環境因子となり,健全な歯根膜に影響を与えるか?
  14. 飲料水滅菌副成物トリハロメタン類の生殖および発達への影響
  15. ジクロロメタンのホルムアルデヒドへの代謝とホルムアルデヒドと核酸の反応の齧歯類とヒトとの比較:肝臓発癌の可能性の推定


「卵巣摘除泌乳ラットの骨組織に対するゲニステイン作用の二面性」
Biphasic Effects of Genistein on Bone Tissue in the Ovariectomized, Lactating
Rat Model (4423)
 Anderson JJB1, Ambrose WW2, Garner SC3
  (North Carolina 大学,1医学公衆衛生学部・栄養学教室, 2歯科学研究センター,
  Chapel Hill; Duke 大学医学センター・3外科学教室, Durham, North Carolina,
  USA)
 Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine 217 : 345-350 (1998)
 Key words : 植物エストロゲン/骨/ゲニステイン/泌乳/卵巣摘除/ラット


 大豆に含まれるゲニステインなどの植物性エストロゲンは, 循環器病やある種の癌の発生を軽減することや, 実験的に卵巣を摘除したラットの骨量や骨密度の低下を改善するといった効用から注目が集められている. 一方, 植物性エストロゲンを含む植物を餌として摂取した羊の生殖組織にエストロゲン作用も認められることから, 出産年齢の婦人がゲニステイン等を摂取したとき望ましくない影響が出るのではないかと心配されるかも知れないが, 実際問題として, そういうことは量的に起こり得ない. ただし, 少量のゲニステインの摂取でも破骨細胞を抑制して骨吸収を防止することはあり得ると考えられる.
 著者らは, 分娩2日後の母ラットの卵巣を摘除して, 泌乳を継続させたまま低カルシウム食で飼育すると, 2週間で骨塩量が50%あまり低下するが, エストロゲン投与は大腿骨量(灰重量)の減少を抑えることを明らかにしている. 本研究では, 骨量および骨構造の維持にとって有用なゲニステイン量と, それが子宮に及ぼす影響を知るために, この卵巣摘除された泌乳ラットに高用量(5.0 mg/d), 中用量 (1.6 mg/d), 低用量 (0.5 mg/d)の3用量のゲニステインを, 低カルシウム飼料に混ぜて2週間にわたって与え, 大腿骨の灰分重量, および子宮重量を測定し, コーン油(媒体対照群)あるいは合成エストロゲンであるプレマリン16μg/d (陽性対照群)を混ぜた餌で飼育された卵巣摘除泌乳ラットのそれと比較した. また, 脛骨骨頭の走査型電子顕微鏡(SEM) 検査を行った.
 その結果, SEM から (1) 脛骨骨端下断面の骨梁数および密度から判断して, 低用量のゲニステインにはエストロゲンと同等の海綿骨組織維持効果が認められるが, 高用量では乏しいこと,(2) 低用量のゲニステイン投与を受けたラットは, エストロゲン投与ラットと同様に, 対照群の動物と比較して, 骨内膜の表層が粗になり骨内膜面の小孔が小さくなることが明らかになった. 大腿骨の平均灰分重量は, 低用量投与群が対照群と比較して最も高く, 中および高用量投与群よりも高く, SEM による観察結果とよく一致した. すなわち, この卵巣摘除泌乳モデルでは, ゲニステインの用量による二面的反応が認められた. ゲニステインは, 低用量ではエストロゲン受容体に対してエストロゲンと相同な作用を示すが, 高用量ではその効果は乏しく, むしろ骨細胞に対して悪影響を及ぼすであろうと考えられる. こうしたゲニステインの二面的作用(いわゆる逆U字型効果)は, 分離した骨細胞や生殖組織に対するゲニステインの作用とも一致している. 一方, 子宮重量や乳児の発育にはゲニステインの影響は認められなかった.
 要約すると, 大豆性食品に含まれているゲニステインは,低用量では骨組織に対してエストロゲンのような有益な作用を示すが, 高用量になると,骨細胞の機能や骨組織に悪影響を及ぼす可能性が考えられる.



「有機溶媒作業者の妻の妊娠まで」
Time to Pregnancy among the Wives of Men Exposed to Organic Solvents.
 Sallmen M et al.
  (フィンランド産業衛生研究所,疫学・生物統計学部,Helsinki, Finland)
Occupational and Environmental Medicine 55 : 24-30 (1998)



 n-ヘキサン,酢酸エチルやキシレンは,動物実験では精巣障害を生じることが知られている.こうした有機溶剤を扱う人に職業的影響があるかどうか,妊娠までの期間(妻が妊娠するまでの月経の回数で表す)を調査した.この指標は,妊娠に必要な機能の障害のいくつかを反映するもので,精子卵子の異常,輸送,受精過程,卵の輸送,発生初期の異常が関係する.この指標は感度が高いが,種々の混乱因子(社会的影響,企図的調節,嗜好品など)の影響を受けやすい欠点はある.
 この研究では,1965年から1983年まで,有機溶剤を扱う作業に従事し,身体検査,生物学的モニタリングを受けている男性労働者の夫婦について,妊娠についての回顧的調査を行った. (この対象については,さきに出生児の奇形についての調査を行っている.)
 対象者 (438組) に対して質問表調査を行ったもので,産児制限を行っていない場合の妊娠状況を調査した.調査には 316組 (72.1%)の夫婦が応答した.避妊をしていない 282組の夫婦の相対受胎率(relative fecundability density ratio: FDR, 妊娠するまでの月経回数の対照群との比)は,高度曝露群および軽度曝露群それぞれ 0.80 (95%CI = 0.57-1.11) および 0.74(0.51-1.06) であった.妊娠までの期間の曝露による差は主として初回妊娠について大きく (0.36 と 0.53),第2子以降は差が認められなかった.有機溶媒の種類ごとの集計でも差はなかった.結論として,有機溶剤作業の繁殖能に及ぼす影響は明確ではなかった.




「殺虫剤使用農家の妻の妊娠まで有機農業の強精伝説」
Time to Pregnancy and Exposure to Pesticides in Danish Farmers.
 Larsen SB et al. (Aarheus 大学病院,産業医学教室,Aarheus, Denmark)
Occupational and Environmental Medicine 55 : 278-283 (1998)

 有機農業を営んでいる農家の男性は精子数が多いという話があるが,それは状況証拠あるいは期待であって,まともな調査に基づいた話ではない.精子数が実際に多ければ,妊娠しやすいと言えるから,妊娠までの期間が短縮すると考えられる.そこで,デンマーク農務省に登録された有機農業農家と通常の農家(殺虫剤を使用しているか否かは調査の結果による)とから対象を選抜し,調査を行った.
 18-50 歳の既婚農業男性 904名(Jutland 地方の有機農業従事者 381名と通常の農業従事者 523名)について電話による調査を行った.有機農業登録農家から抽出した男性は全体で 441名であり,90.5%が調査に協力した.(これは不妊など問題を有する人たちに予想される調査忌避などの事前選択偏向が少ないことを示す.)
 結果に影響し得る混乱因子(夫と妻の喫煙,年齢,結婚年数,避妊)に注意して算定した妊娠率は,殺虫剤使用農業と有機農業との比で示すと,1.03 (95%CI = 0.75-1.40)となり,妊娠までの「待ち期間」には差は認められなかった.計算上「不妊」の夫婦は除外した.それは有機農業群では9%,通常農業群では12%であった.殺虫剤が不妊症を起こすとすれば,この除外処置は算定結果に影響したおそれがあるが,不妊症を起こすものが,妊娠を遅らせないと言うのも考えにくいことである.結論として,殺虫剤使用による男性生殖能に対する影響は認められず,有機農業従事者の生殖能が高い証拠もなかった.



「スウェーデン漁業婦人の血漿中 PCB:出産児体重との関係」
Polychlorinated Biphenyls in Blood Plasma among Swedish Female Fish Consumers
in Relation to Low Birth Weight.
 Rylander L et al. (Lund 大学病院実験医学部,産業環境医学教室; 同臨床化学教室,
             Lund; 国立労働生活研究所,分析化学教室,Solna, Sweden)
American Journal of Epidemiology 147 : 493-502 (1998)

 この研究は,新生児の生下時低体重は母親の体内 PCB 総量と関係があるという仮説を検証したものである.スウェーデン東海岸(バルト海沿岸)の漁業家族の主婦で,1973-91年の間に出産した 757名とその 1501名の出生児について調査した.この内,出生時体重が 1500-2750 gで大きな奇形のなかった児(2回以上出産している場合は第1子)の母親 57名について調査した.対照として同地域で同時期に出生時体重 3250-4500 gの子を出産した母親 135名を調査した.今回の調査の採血は 1995年に行った.
 1995年採血血中 PCB 値 (代表として dioxin 様作用を持つと言われる 2,2',4,4',5,5'-hexachlorobiphenyl (IUPAC No.: CB-153)を測定) は,全例 (192例) を通して見れば,80-4300 pg/g の範囲にあり,中央値 940 pg/g であった.そのうち低体重児母群の中央値は 1000 pg/g (範囲 290-3960)で,対照群の中央値 920 pg/g (80-4300) より高かった.これらの値は,オランダで調べた Koopmanらの報告(1994)のものとほぼ同等であり,その報告でも児の低体重との関係が認められている.
 なお,スウェーデンでは風疹の影響調査のために産後の母親から採血して地域ごとに集めているが,本研究の対象者でも 1975-91年のあいだに採血したものが一部保存してあった.その試料で検査した値は,今回の測定値とよく相関し,それをもとに計算すると,PCB (CB-153)の生物学的半減期は15年と推定された.関連する変化として,魚の PCB は年々3-5%ずつ減少しており,また,PCB の体内蓄積量は授乳で33%減少するという.



「スウェーデン人母乳中有機塩素化合物,1972年から1992年の変化」
Polychlorinated Naphthlenes and Other Organochlorine Contaminants
in Swedish Human Milk, 1972-1992.
 Lunden A, Noren K (Karolinska 研究所,医化学・生物物理学部,Stockholm, Sweden)
Archives of Environmental Contamination and Toxicology 34 : 414-423 (1998)


 Stockholm 母乳センターから 10-20人分の乳汁試料を入手し,混和してポリ塩化ナフタレン(PCN), ポリ塩化ビフェニル (PCB),ポリ塩化ジオキシン(PCDD),ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF),ビスクロロフェニールトリクロロエタン (p,p'-DDT), ビスクロロフェニールジクロロエチレン(p,p'-DDE),ヘキサクロロベンゼン (HCB) の濃度を測定した.
 人体に蓄積する有機塩素化合物としては,まず DDT,その代謝物 DDE,HCB が代表的であり,その後 PCB やダイオキシン類が問題となったが,PCN 類も同様な動態を示す物質である.これまであまり注目されず,測定されなかった.
 母乳中の PCN 等有機塩素化合物濃度は,1972年から 1992年に掛けて著明に減少した.PCN は単位乳脂肪重量あたり 3081 pg/gから 481 pg/g に,ダイオキシン類を毒性当量で比較すると100 pg/gから 39 pg/g まで低下していた.
 一般市民にとって有機塩素化合物の汚染源は食物であり,重要な(効果的な)排泄の経路としては乳汁がある.有機塩素類の汚染状況を把握するには必要な項目である.




「マウスにおけるダイオキシン投与の影響の特徴」
Characterization of the Effects of 2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo- -dioxin
in B6C3F1 and DBA/2 Mice Following Single and Repeated Exposures
 Morris DL et al. (米国 Virginia 医科大学薬理学毒性学教室ほか)
Archives of Toxicology 72 : 157-168 (1998)


 ダイオキシンの毒性の発現は,動物種によって,また系統によって大きな差があり,マウスでもB6C3F1 (Ah-受容体の感度が高い) と DBA/2 (感度が低い) とでは,ダイオキシン (2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-dioxin: TCDD)投与による免疫機能の抑制の様相が異なることが観察された.この影響は1回投与よりも反復投与でより強く現れ,総量 4.2-42 mg/kg で用量依存的に免疫抑制 (PFC 試験,胸腺重量) が観察された.変化は両系統のマウスに起こり,DBA/2 でも明らかに (B6C3F1 よりもむしろ強く) 起こった.一般に TCDD の免疫抑制作用は Ah-受容体を介するものとされているが,介さない影響もあることが指摘されている.一方,この実験では,肝重量の増加が B6C3F1 マウスで観察され,それは DBA/2マウスでは起こらなかった.Ah-受容体を介する肝薬物代謝酵素 CYP1A1 の誘導が起こったためである.




「ヘキサクロロベンゼンは人乳中のダイオキシン活性を高めている」
Hexachlorobenzene as a Possible Major Contributor to the Dioxin Activity
of Human Milk
 van Birgelen APJM (米国国立 環境保健科学研究所 (NIEHS),NC, USA)
Environmental Health Perspectives 106 : 683-688 (1998)



 ダイオキシン類化合物は,Ah-受容体と結合することによって有害効果を現すと考えられているが,そのような性質のあるものは「ダイオキシン」に限らず,PCB のあるものも Ah-受容体と結合活性を持っている.それらの強さは,ダイオキシン中最も強い 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) の活性を1としたときの比較活性 (toxic equivalents; TEQ) で示されている.Hexachlorobenzene (HCB) は,穀物の防黴剤として用いられていたが,1970年代に大部分の国で使用が中止された.しかし,チュニジアでは1986年まで使用されていた.また,HCB は四塩化炭素その他の化学物質の副産物として,あるいは廃棄物焼却の際に発生し,環境中に放出される.HCB は,TCDD の10000分の1の活性ながら Ah-受容体と結合する.動物実験でダイオキシンと同様の影響を示すことも認められている.従ってHCB はダイオキシン類似物質として扱うべきである.
 HCB は食物とくに動物性のもの(乳製品,肉,魚)やピーナッツに多く含まれ,一般的に 1970年代以降減少しつつあるものの,食品中濃度は産地によっては高い (3-6 ppb)ものもある.米国人の一日摂取量は 0.04-0.3 pg TEQ/kg/day と算定される.因みに,その他のダイオキシン類の摂取量は 1.2-3.6 pg TEQ/kg/dayである.しかし,乳児の母乳からの HCB 摂取量は高くなり,各国の試料を基に計算すると1.8-510 pg TEQ/kg/day となる.(スペイン,チェコ,スロヴァキア,インドが高い.) 母乳中 HCB 濃度の比較的低い国(カナダ,デンマーク,ドイツ,日本,オランダ,米国)では,乳汁中総TEQ の10-60%が HCBによるものと算定されるが,濃度の高い国では,他のダイオキシン類の数倍に相当する TEQ が HCB によっている計算になる.




「DDT の雌マウスにおけるエストロゲン様作用」
Estrogenic Effect of DDT in CBA Female Mice
 Morozova OV et al. (N.N. Blokhin 癌研究センター,Moskow, Russia)
Experimental and Toxic Pathology 49 : 483-485 (1997)

 DDT のエストロゲン様作用については,これまでにも研究があり,ラットで着床と妊娠維持を助ける,ラットで子宮重量増加効果がある,in vitro で 3H-estradiol のエストロゲン受容体への結合に拮抗する,あるいはマウスで 2-acetylamidophenanthrene の乳癌誘発を増強する,などの報告がある.この研究では,CBA 雌マウスに DDT を投与して子宮重量への影響を観察した.動物は投与に先立つ15日前に卵巣摘出を行い,1週間膣粘膜細胞の観察を行って性周期が欠如したことを確かめた.工業用 DDT (o'p-DDT 20.3%含有) を DMSO に溶解した上でオリブ油で濃度を調整し,500 および 375 mg/kgを単回強制経口投与した.対照として diethylstilbestrol (DES) 1 mg/kgを用いた.DDT 投与後 24, 36, 48時間で検査して,いずれの時期にも子宮重量が増加したことを認めた.36時間が最も影響が大きかった.DES の方が増加効果は著明であった.DDT では肝重量(体重比)も増加した.DDT 500 mg/kg は量が多すぎて死亡例も出た.それでも子宮重量は増加していた.これは,明らかに DDT のエストロゲン様作用を示している.




「北ドイツ住民の母乳中有機塩素殺虫剤と PCB.1986〜1997年の変化」
Organochlorine Pesticides and Polychlorinated Biphenyls in Human Milk of Mothers
Living in Northern Germany: Current Extent of Contamination, Time Trend
from 1986 to 1997 and Factors that Influence the Levels of Contamination
 Schade G, Heinzow B (国土庁自然環境保護局,Germany)
Science of Total Environment 215 : 31-39 (1998)


 ドイツ Schleswig-Holstein 州において,1886年から1997年まで12年間に3660名の産婦から乳汁各 10-20 mL の提供を受け(産後 3〜6 月,家庭において用手搾乳,48時間以内に検査室に輸送),質問表調査で(産児体重,哺育状況,本人の身長体重,等について)回答を得た.乳汁試料について hexachlorobenzene (HCB),hexachlorocyclohexane の異性体α-,β-,γ-,ε-HCH,DDT (p,p'DDE + p,p'DDT) および PCB を測定した.
 1995-97年の2年間の 246名の調査を行ったが,乳汁試料の分析では,PCB は乳脂肪あたり0.118-1.81 (中央値 0.50) mg/kg含まれており,β-HCH は 0.004-0.25 (0.04) mg/kg,DDT は0.027-1.54 (0.20) mg/kg であった.これらの値は,過去12年間で相当に低下してきており,PCB の中央値は 1986年は 1.28 mg/kg, DDT は 1986年には 0.92 mg/kg であった.HCB とβ-HCHは80%以上低下していた.
 これらの値は,母親の年齢,体重の変化(妊娠前後での),出産数,授乳期間と相関(正または負)が認められたが,これは他の研究でもすでに知られている事実である.HCB とβ-HCH の乳汁中濃度と出生児体重低値とに関係が認められた.この関係は女児でより著しかったがこの点は今後検討を要する.出生児の性比とこれらの物質の濃度との関係は認められなかった.




「p‐ノニルフェノールのラットにおける亜慢性(90日)毒性試験」
Subchronic Toxicity (90 Day) Study with para-Nonylphenol in Rats
 Cunny HC et al. (Rhone-Poulenc, Research Triangle Park, NC, USA ほか)
Regulatory Toxicology and Pharmacology 26 : 172-178 (1977)


  ノニルフェノール (NP) は,非イオン性界面活性剤として広く用いられている nonylphenol ethoxylate (NPE) の製造時の中間生成物である.NP は単独で利用されることは少ないが,環境中に検出され,弱いエストロゲン作用を有することから,NPE とともに,内分泌攪乱物質の可能性が懸念される.NP はエストロゲン受容体と弱い結合性が認められ,in vitro 試験系でエストロゲン作用が認められる.作用の強さは estradiol の10-4〜10-7倍程度である.また,ラット子宮重量試験では陽性で,経口投与での最小作用濃度 (LOEL) は50−100 mg/kg/day である.この作用をさらによく検討するために 90 日間投与試験を行った.米国 EPA の TSCA ガイドラインに従って GLP 基準で行った.Sprague-Dawley 系ラットを用い,NPを餌に混入し 0, 200, 650, 2000 ppmとして与えた.それぞれ 0, 15, 50, 150 mg/kg に相当する.試験の結果,最終的に内分泌器官には異常がなかった.雄の高用量群で腎重量の増加があり,尿細管内 hyalin が認められたが,これは雄ラットに特異的なα-2u-globulinであり,ヒトへの毒性があることを意味しない.NOAEL は 650 ppm (┤50 mg/kg/day) であり,2000 ppm (┤150 mg/kg)でも NP のエストロゲン作用の影響は明らかでなかった.



「家庭用殺虫剤 吸入毒性の評価」
Household Insecticides: Evaluation and Assessment of Inhalation Toxicity:
A Workshop Summary
 Acimadi UF1, Pauluhn J2
  (1インドネシア国立衛生研究所,Jakarta;
   2BAYER 社毒性学研究所,Wuppertal, Germany)
Experimental Toxicology and Pathology 50 : 67-72 (1998)01 
Key words : 家庭用殺虫剤/(殺虫剤による)吸入毒性

 家庭用殺虫剤の安全性の問題についてインドネシア保健省が主催してワークショップが開かれた.現地の研究者,行政担当者,台湾,香港,WHO 代表,欧州の製造企業の研究者ら51名が参加した.
 家庭用殺虫剤は世界中で用いられているが,とくに熱帯地方では蚊その他の昆虫に日々対処することが疾病の伝搬を予防するために重要である.家庭用殺虫剤として用いられているのは主として合成 pyrethroids であるが,一部の製品にはカルバミン酸剤,有機リン剤,有機塩素剤も用いられている.殺虫剤は種々の様態の製品,缶入り噴霧剤,蚊取り線香,除放性揮発剤(蚊取りマット)の形で提供されている.個々の主成分の一般的な毒性は試験されて,安全性は確認されているが,試験法は,使用の実態に添っていないと批判される.
 蚊取り線香はもっぱらアジア,アフリカ,南アメリカで使用されているが,年間使用量は300億本に達しようとしている.合成の pyrethroid 製剤も多数現れている.スプレー方式の殺虫剤(急性毒性のデータが重要)とは異なり,蚊取り線香方式では慢性の吸入毒性が問題である.また,殺虫剤成分以外の煙の成分についても安全性の検討が必要であろう.気道粘膜に対する刺激性の影響によって他の物質の経粘膜吸収を高めるなど,相互作用を起こすことも考えられるが,十分に検討されていない.
 蚊取り線香の安全性確保のためには,低濃度の長期吸入毒性試験が必要であるが,試験はもっぱらラットにおける標準的な方法(煙流に対する鼻のみの,6 hr/day, 5 day/week の曝露)で行われている.使用の実際により近い曝露方法(とくに長時間連続の)を求めることで諸家の意見は一致していたが,上記の吸入毒性試験の標準的な曝露方法は,小動物における試験では,全身曝露法に比べて再現性が高く,均一の濃度の気流を作りやすい利点は認められるので,採用されている.当面この方法によるべきであろう.
 蚊取り線香の煙そのものの検査は困難であるため行われていないが,配合する成分は非遺伝毒性,非刺激性,非肺毒性のものとすべきである.成形するための基剤として木材やヤシ殻,糊着剤などが用いられているがそれらの燃焼による生成物が問題となる.




「ガスストーブ排気の変異原性,染色体異常誘発性」

Mutagenicity and Clastogenicity of Gas Stove Emissions in Bacterial
and Plant Tests
 Monarca S et al. (Brescia 大学,実験応用医学部,衛生学科,Brescia, Italyほか)
Environmental and Molecular Mutagenesis 31 : 402-408 (1998)
Key words : 室内汚染/ガスストーブ燃焼ガス/変異原性/Ames 試験

 暖房具の使用によって室内の空気が汚染され,大気汚染よりもはるかに高度な,健康を障害するおそれがある汚染になることもある.とくにガスストーブからの燃焼ガスや浮遊粒子(煙)には種々の有毒物質が混入している(酸化窒素,二酸化窒素,一酸化炭素,多環芳香族炭化水素 (PAH),フォルムアルデヒドなど). それらの物質を個別に測定することも必要であるが,ここではガスストーブ排気を一括して変異原性を調査した.
 メタンガスを用いるガスストーブ2台(新品で燃焼が完全なものと古くなって燃焼が不完全なもの)について,排気ガスの CO, NO, NO2 測定,またファイバーグラス膜フィルターで捕捉した浮遊粒子の PAH を分析し, 一方, ガスと捕捉粒子の変異原性を, 細菌を用いる復帰変異試験 (TA98, TA100 株および YG1024 株を用いた Ames 試験,S9 による代謝活性化試験を含む) および植物 (ムラサキツユクサ #4430 株) を用いた染色体異常試験(小核試験)で検討した.
 ガス分析では,とくに古いストーブの排気から大量の CO, NO, NO2 が,検出された.菌を植えたペトリ皿を入れたデシケータに排気ガスを通して行った Ames 試験は陰性であった.排気ガスを水または DMSO に通して得た液も Ames 試験は陰性であった.しかし,古いストーブ排気をジクロロメタン (DCM) に通して得た液は明らかに陽性 (S9 活性化試験) であった.捕捉粒子の抽出物は Ames 試験は陰性であった.より感度の高い Kado 試験では,代謝活性化を行った TA98 での試験で陽性となった.
 このように,有害性は明白ではなかったが〔また,実験は僅か2台の同種のガスストーブの測定と,ごく限られたものであったが〕,ガス暖房機の不適切な使用によって,有害なガスまたは粒子(煙)の放出が起こり,健康を害する恐れはある.職業的な曝露,幼児,病者,高齢者などにはとくに考慮が必要であろう.



「タバコと喫煙は生体防御反応に影響を与える環境因子となり,健全な歯根膜に影響を与えるか?」

Tobacco and Smoking : Environmental Factors that Modify the Host Response
(Immune System) and Have an Impact on Periodontal Health
 Barbour SE1, Nakashima K1,2, Zhang J-B1, Tangada S1,3, Hahn C-L1,
 Schenkein HA1, Tew JG1
  (1Virginia 連合州立大学医学校, 歯学部, 歯周病臨床研究センター, Richmond,
   Virginia, USA; 2東京医科歯科大学, 歯学部・歯周病学教室, Tokyo, Japan;
   3Baxter Biotech, Duarte, California, USA)
Critical Reviews in Oral Biology and Medicine 8 : 437-460 (1997)
Key words : タバコ/喫煙/免疫/歯根膜


 最近の喫煙者における歯根膜疾患(歯周病)の発症率の調査報告をみると,ヘビースモーカーの歯根膜はいずれも正常であったという報告があるものの,ほとんどが喫煙者では歯根膜疾患が有意に多く,また,人種差,年代差などが取り上げられている.さらに,難治性歯根膜炎の患者の9割は喫煙者であるという報告,喫煙者の歯根膜疾患が治療により好転し難いという報告がある.一方,難治性歯根膜疾患罹患者の調査で, タバコの使用と歯根膜の健康は生体防御反応を介して関係している可能性が指摘されている.このレビューでは喫煙とタバコの免疫系に及ぼす影響をまとめ,さらに,歯周病との関係について述べている.
 喫煙とタバコが免疫系(生体防御反応)に与える影響は,細胞レベル(肺マクロファージ,好中球,ナチュラルキラー細胞,Bリンパ球,Tリンパ球)で詳細に調査され,多くの場合,喫煙やタバコによって免疫系細胞が機能低下すると考察されている.細胞性免疫の変動のほか,液性免疫に対する喫煙とタバコの影響については,さらに研究調査が必要である.そのほか,喫煙とタバコは免疫系の変動を介して肺気腫,肺癌,微生物感染に影響しているものと考察されている.
 歯周病の発生と進行には大きく分けて4つの因子が関与していると考えられる.それは,(1)加齢,健康状態といった後天的な生体側の因子,(2)口腔内の衛生状態,口腔内の病原体,タバコの使用といった環境因子,(3)組織修復機能,貪食機能,リンパ球機能を規定する遺伝 的因子,(4)最終的にこれらの因子と関係する組織修復反応や今回喫煙との関係で注目した免疫反応といった生体反応である.
 今後,さらに免疫学的,疫学的,遺伝学的,分析化学的手法をはじめとして学際的な検討が必要である.また,受動喫煙の及ぼす影響も考慮しなければならない.
 喫煙はいつのまにか生体防御反応を傷つけ,歯周病を始めとする様々な疾患を引き起こす可能性を含んでいる.タバコの使用という公衆衛生上の問題も含めて注目する必要がある.




「飲料水滅菌副成物トリハロメタン類の生殖および発達への影響」

Reproductive and Developmental Effects of Disinfection By-products in Drinking Water
 Reif JS1, Hatch MC2, Bracken M3, Holmes LB4, Schwetz BA5, Singer PC6
   (Colorado 州立大学, 1環境衛生学部, Fort Collins, CO;
    Columbia大学・2疫学教室, New York, NY; Yale 大学, 3疫学・公衆衛生学教室,
    New Haven, CT; Massachusetts総合病院,4遺伝・生殖部, Boston, MA;
    国立環境衛生科学研究所,5環境毒性研究部, Research Triangle Park, NC;
    North Carolina大学,6環境科学工学部, NC, USA)
Environmental Health Perspectives 104 : 1056-1061, (1996)
Key words : 出産疾病/塩素処理/飲料水/未熟/生殖/奇形発生/
        トリハロメタン類(THMs)


 原水を塩素処理法で消毒して飲料水にする過程で発生するトリハロメタン類(THMs)が,胎児に様々な異常, 例えば中枢神経障害, 心臓欠陥, 口唇裂を誘発したり, 新生児の発育遅延や低体重, あるいは流産, 死産を招く原因になっているかどうかを, 疫学的観点から調査した4つの代表的報告を統計学的に検討してみた.
 THMs の代表的ものとしてクロロホルム,ジブロモクロロメタン, ブロモジクロロメタンおよびブロモホルムの4つが挙げられる. それらの発生量は, 天候や季節によって変動する可能性があり, また, THMs の含まれる飲料水の供給条件, 家で飲むのか,ほかの条件下の場所で飲むのか, 生水か沸騰水か, 妊娠期と哺乳期の住居場所などを考慮して,慎重に解析することが必要である. 上記報告の解析結果では, クロロホルム量やブロモジクロロメタン量が10 μg/L 以上であると子宮内発育が遅延することが報告されている. THMs が 100 μg/L 以上になると妊娠中断, 胎児死亡, 超低体重児出産などの例が報告されているが, 他方, 早産は THMs 濃度には関係しないとする報告もある.
 THMs の影響評価をする場合, 母親の妊娠期間中の住居や授乳期間中の住居は何処なのか, 母親が飲料水として摂取した水や風呂水は, 市水道水のみなのか, 家庭に給水された水道水は活性炭ろ過はしていないか, 母親はビン詰めの水は飲まず水道水を飲んでいたか, また, THMs 量はその期間中の市水道水に表示された公的値を用いるなどの条件を考慮する必要がある. また, 社会・経済状況, 母親の職業, 飲酒量, その他の環境条件, 妊娠歴なども, リスク評価の因子として考慮する必要がある. このような種々の素因を考慮すると, 塩素処理過程から生じた THMs を含む飲水の摂取と, 異常妊娠の発生との間には, 明らかな関連を見出すことは非常に稀である.
 しかし, 短期的には現在あるデータベースを詳細に解析し, データ収集を強化し, 水の定量評価を進めることが重要である. 長期的には, 飲料水の汚染度を評価する方法を規準化し, ヒトの生殖について研究を進め, 発育遅延, および種々の先天奇形発生に関わる研究を進めることが必要である.
 結論的には, 飲料水消毒の副生成物である THMs の健康影響評価は始まったばかりである為, 不十分であり, この種の研究の結論は出し難い. 飲料水の滅菌処理は必要であるが塩素処理以外に適切な消毒法が現在のところない. 動物実験を今後も続け, その中で, 危険性の同定, 用量・反応関係, 新しいバイオマーカーなどを考慮する必要がある. ヒトの健康影響に関する調査には限界があり, 多面からの検討が重要である.




「ジクロロメタンのホルムアルデヒドへの代謝とホルムアルデヒドと核酸の反応の齧歯類とヒトとの比較:肝臓発癌の可能性の推定」

Dichloromethane Metabolism to Formaldehyde and Reaction of Formaldehyde
with Nucleic Acids in Hepatocytes of Rodents and Humans
with and without Glutathione -transferase and Genes
 Casanova M1, Bell DA2, Heck H-d'A1
   (1化学工業毒性学研究所 (CIIT), 2国立環境衛生科学研究所 (NIEHS),
    Research Triangle Park, NC, USA)
Fundamental and Applied Toxicology 37 : 168-180 (1997)
Key words : ジクロロメタン (DCM)/ホルムアルデヒト (HCHO)/DNA-蛋白質結合物 (DPX)/
        RNA-ホルムアルデヒト付加体 (RFA)/肝細胞/発ガン


 ジクロロメタン (DCM) による発癌には種差があり, また DCM 代謝に個人差がある. 従ってヒトにおける DCM の発癌性リスクの検討, 評価が必要である. たとえば, B6C3F1 マウスでは2000 あるいは 4000 ppm の DCM 投与で, 肝細胞や肺の腺腫や癌を発生し, F344 ラットでは良性乳腺腫瘍の頻度が増加するが, シリアンゴールデンハムスターでは 3500 ppm の高用量のDCM 投与によっても癌は発生しなかった. DCM に曝露された労働者の疫学的調査では, 肺癌や肝臓癌との関連を示されてはいないが, ヒトではグルタチオンS−トランスフェラーゼ (GST) を介する DCM の代謝能に遺伝的な個人差が認められた.
 肝細胞が DCM を代謝することにより, 生じる HCHO が, RNA と結合し付加体 (RFA) を形成したり DNA−蛋白結合物 (DPX)を生成することが発癌につながると考えれば, DCM による発癌は遺伝的な感受性の差が存在することが推測された.
 この研究では,マウス (B6C3F1), ラット (F344), ハムスター (SYR) およびヒト (白人男女計3例)の単離肝細胞を用いて, DCM から HCHO への代謝活性と核酸 RFA との結合量を測定した.その結果, マウス肝細胞でのみ DPX の生成が検出され,また,各動物で生成が認められたが, その生成量は, マウスに比べ, ヒトは約1/7, ラットは1/4, ハムスターは1/14であった.
 今回およびこれまでの結果を統計学的, 推計学的に考察すると, DCM がヒトに肝臓癌をおこすリスクは, 現在の曝露環境では極めて低いと推定された.