食品・薬品

安全性研究ニュース

第2号



目次
  1. カフェインの摂取と生殖・発生障害についての文献調査
  2. 喫煙と肺胞内マクロファージ
  3. 間接喫煙による心筋梗塞のリスク
  4. 喫煙と肥満
  5. 妊娠中の喫煙と死亡率
  6. DNA付加体による発癌性の予測
  7. 食品由来の発癌物質IQのDNA付加体形成と発癌
  8. 向精神薬を服用すると虚血性心疾患のリスクが増加するか?
  9. 腎毒性 Penicillium の同定
  10. 金属投与はラットの赤血球膜に変化を起こす




「カフェインの摂取と生殖・発生障害についての文献調査」
Reproduction and caffeine consumption - a literature review

Golding, J. (Institute of Child Health, Royal Hospital for Sick Children, Bristol UK): Early Human Development 43: 1-14 (1995)
Key Words : カフェイン /催奇形性/ 成長/ 胎生学

 文献を調査し,カフェイン摂取とヒトの生殖・発生障害について検討した結果,カフェイン摂取が奇形の発現や早産に関与している可能性は低いが,受胎能力の低下や,妊娠早期の流産,胎児の成長阻害を引き起こしている可能性が示唆された.
 目的:カフェイン含有飲料は,現在でも多くの妊婦が摂取しているが,カフェイン摂取と生殖・発生障害の危険性に関して,結論が出ているわけではない.FDAは1980年,主に動物実験の結果に基づき,カフェイン含有飲料を妊婦が摂取することについて警告を発しているが,1986年9月,カフェイン摂取と生殖・発生障害は無関係であるとし,それ以降,証拠不充分であるとする態度を続けている.英国では,妊婦のカフェイン摂取がアメリカの2倍も多いにもかかわらず,公式に警告されたことはない.この総説の目的は,カフェイン摂取と生殖・発生障害の危険性に関連する,現在入手可能な,疫学調査の論文について,その方法論的問題点を検討し,評価をすることである.
 動物実験:動物実験においては,カフェインの投与によりマウスで四肢奇形や口蓋裂が発生したとする報告を始め,ラット,ウサギ等の動物や鶏胚で催奇形性を認めたとする報告がみられる.しかし,これらの成績はいずれも,例えば1日のカフェイン摂取量が,ヒトでコーヒー60〜90杯分に相当する等,ヒトでの常用量をはるかに凌駕した量においてのみの結果である.行動奇形学的には,妊娠期間中に高用量のカフェインを投与することによって,活動性の亢進を中心とした用量依存的な行動異常が新生児に認められる.奇形や行動奇形学的変化は,カフェインの成長阻害に伴う二次的な影響と考えられ,ヒトへの外挿は困難なものと判断される.また,動物実験ではカフェインには,X線や他の薬物等での催奇形作用や,発癌作用の増強作用が認められているが,ヒトでは妊娠期において他の因子による作用に対する相乗効果は認められていない.
 疫学調査:母親のカフェイン摂取に対する危険性は,ずっと以前,例えば1930年頃から叫ばれてきたが,これらの警告の根拠は科学的なものに拠るよりも,むしろ動物実験の結果や,状況証拠に拠る部分が大きかった.状況証拠の1例としては,カフェイン含有飲料を摂取する習慣のあった母親の多くが,妊娠初期には吐き気を催すため,こうした飲み物を摂取しなくなることが挙げられている.これは,ヒトに自然に備わった,胎児防衛能力に拠るものとする推定が存在するのである.しかし,妊娠初期に多くの飲食物に対する母親の味覚が変化し,吐き気を感じることは一般的に良く有ることであり,また,吐き気を訴えた母親がこぞって,特別にコーヒーを嫌った訳でもない.
 ヒトにおけるカフェインの胃腸管からの吸収は早く,摂取後3 〜120 分でピークに達する.分布は速やかであり,胎児移行性も極めて良い.ただ,乳汁中移行濃度は母体血中濃度よりも低く,哺乳中の児に対する危険性は少ないものと考えられる.一方,排泄についてみると,通常ヒトでの血中濃度半減期が約3時間であるのに対して,妊婦においては延長が認められる.また,新生児における血中濃度半減期は80時間以上と極めて長い.
 ヒトにおいて母親のカフェイン摂取が,受胎能力に影響を及ぼすか否かについては,今まで6本の疫学調査が実施されており,そのうち5本の調査でなんらかの影響が認められている.カフェイン摂取が,ヒトにおいて流産等の早期胎児死亡を引き起こすか否かについての調査の結果においては,影響ありとする結果がいくつか認められる.しかし,胎児が死亡した時期とコーヒーを摂取した時期の時間的関係を明確にした追加検討が必要であると考えられる.
 カフェイン摂取による奇形の発現の可能性については,6本の調査が行われている.このうち1本の調査では,コーヒーを飲まない母親に比較して,コーヒー1日3杯以上を摂取した母親では,統計学上,新生児に心奇形が発生した確率が,有意に増加したかのような結果が得られた.しかし,この有意差は偶発的であると考えられる.他の5本の調査結果に,統計学的有意性を持つ変化は認められず,疫学調査の結果からカフェイン摂取による催奇形作用の可能性はないものと判断された.また,カフェイン摂取により,早産が引き起こされる可能性はないものと考えられた.
 カフェイン摂取が胎児の成長阻害を引き起こすか否かについての疫学調査の結果では,喫煙者におけるコーヒーの多量摂取は明らかに胎児の成長阻害を引き起こすことが,複数の調査から明らかとなったものの,非喫煙者においては明らかではなかった.
 症例報告として,高用量のカフェインを摂取した母親から産まれた新生児に不整脈が現れ,カフェイン摂取をやめることによって症状が消失した報告が3例あり,また,カフェインを摂取している母親からの新生児では,刺激に対する反応性の異常が報告されている.しかし,生後長い期間に渡ってのこうした問題に関する調査は,現在まで1本しか行われておらず,その調査では問題は認められていない.
 これらの疫学調査を調査し,カフェインによる生殖・発生障害の可能性を評価する場合,結果に影響を与える偏りがいくつか存在する.その第1は,「公表」という行為に関連した偏りであり,影響ありとする結果が得られた場合,影響なしの場合よりも公表されやすいことによる.第2には調査規模の問題がある.これには全体の例数が少ない場合の他,カフェイン摂取量の特に多い例数が少ない場合もある.第3の偏りは,カフェイン摂取量の評価が各試験でまちまちなことである.コーヒーの量だけについて考慮している研究者もいれば,コーヒーと紅茶,さらにはチョコレートやカフェイン含有の薬物についても問題にする研究者,コーヒーの種類にこだわる場合もある.また各飲料中のカフェイン見積り量も報告によって異なっている.第4に,調査に含まれる因子への考慮が足りない場合や多すぎる場合があることによる統計学上の問題がある.これらの統計調査においては,すべからく母親の年齢,経歴,出産経歴,社会的状況,身長,体重,タバコや覚醒剤あるいは麻薬等の使用状況について考慮すべきである.一方,因子について考慮しすぎると,カフェインによって引き起こされた影響についても,結果から排除してしまう可能性がある.第5に考慮すべきことは,障害はカフェインそれ自体だけではなく,カフェインとあるものの混合によって発現した可能性のあることである.第6番目には,バイアスを除くのに最善の方法は,地理学的特徴の類似した集団の,カフェインの摂取と妊娠への悪影響についての情報を集めることであるが,この場合,有用な例数を集めることが困難であることが挙げられる.
 結局,母親のカフェイン摂取の妊娠への影響と言う未解決な問題を解くためには,大きな規模の因子の制御のしっかり行われた疫学調査の実施を待たねばならない.



「喫煙と肺胞内マクロファージ」
Subpopulations of alveolar macrophages in smokers and nonsmokers : Relation to the expression of CD11/CD18 molecules and superoxide anion production

Schaberg, T., Klein, U., Rau, M., Eller, J. and Lode, H. (Chest Hospital Heckeshorn - Zehlendorf, Berlin, Germany) : American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 151: 1551 - 1558 (1995)
Key Words : 肺胞内マクロファージ/粘着分子/CD11/CD18

 喫煙者では非喫煙者より肺胞内マクロファージ(alveolar macrophages ; AM)数が多く,その細胞機能も異なる.喫煙者ではマクロファージ細胞膜上に存在する粘着分子である CD11/CD18 の発現量が増加し,これが機能と関係するらしい.これまでの研究では,細胞膜表面分子,機能的特徴および密度により AM を分類して,喫煙との関係が調べられてきた.本報告では密度勾配遠心法(densitygradient centrifugation ; DGC) により分類した AM の CD11/CD18 発現量および超酸素イオン生成能に対する喫煙の影響について調べている.
 AM は喫煙者(32人)および非喫煙者(20人)から気管内洗浄(bronchoalveolar lavege ; BAL)により採取し,PercollTM DGC により4分画(分画1〜4の密度は;1.030, 1.040, 1.050 および 1.070 g/ml)に分類し,それぞれの分画中 AM のCD11/CD18 の発現量を peroxidase-antiperoxidase 染色法により、超酸素イオン生成能は cytochrome C 還元法により調べた結果,BAL 中の細胞数は喫煙者では26.4±5.3×104/ml,非喫煙者では 10.3±2.4×104/ml であり,喫煙者では好中球の割合が多く,非喫煙者ではリンパ球が多く認められた.DGC による分類後,BAL 中の AM は喫煙者で 2.4±0.3×105 AM/ml,非喫煙者では 0.92±0.1×105 AM/ml であった.さらに,喫煙者の分画3および4におけるAM(4.37×106 および2.05×106)が非喫煙者(1.26×106 および 0.7×106)に比べ有意に多かった.CD11/CD18 分子の発現率は喫煙および非喫煙者ともに分画3および4では分画1および2より高かった.CD11a+,CD11b+,CD11c+ および CD18+ を用いて測定した全分画中の CD11/CD18 発現率は喫煙者で有意に高かった.LeuCAM 発現率については違いは認められなかった.喫煙者の高密度分画の AM(>1.040 g/ml)では低密度分画の AM(≦1.040 g/ml)に比べて超酸素イオン生成が有意に高かった(高密度分画 AM では 26.3 nmol/106 cells/120 min,低密度分画 AM では 12.7 nmol/106 cells/120 min).
 以上の結果より,高密度 AM が低密度のものと比較して CD11/CD18 分子を多く発現し,超酸素イオン生成能の増加などの単球様特徴を示すことが明かとなった.また,喫煙者では未分化で非常に活性型の AM が蓄積されることが明かとなった.さらに,喘息患者では健常なヒトと比べて,抗原投与による高密度 AM の増加が高いことを考え合わせると,高密度 AM の増加は炎症反応の亢進を示唆する.さらに単球の超酸素イオン生成が ICAM−1により爆発的に亢進することから高密度 AM の増加が炎症反応を憎悪するとも考えられるが,本研究では各分画の AM における CD11/CD18分子発現量と超酸素イオン生成能の関係については検討していないので,炎症反応との関係については,今後,検討が必要である.



「間接喫煙による心筋梗塞のリスク」
Exposure to environmental tobacco smoke and the risk of heart attack

Muscat, J. E. and Wynder, E. L. (Division of Epidemiology, American Health Foundation, USA) :
International Journal of Epidemiology 24(4): 715-719(1995)
Key Words : 間接喫煙/心筋梗塞/小児期暴露

 いくつかの疫学調査から間接喫煙が心疾患のリスクを増すことが知られている.しかし,過去に行われた調査は配偶者の喫煙の影響を評価したものに限られていた.この研究ではそれ以外の間接喫煙の機会について調べ,暴露原因ごとに心筋梗塞発症との関連について検討した.
 調査は,1980年から1990年の間に,ニューヨーク,フィラデルフィア,シカゴ,デトロイトで心筋梗塞と診断された患者のうち非喫煙者144人に,間接喫煙の機会, 暴露期間などを質問して行った.また,比較対照とするため心疾患,癌,脳卒中,気管支炎を除く非喫煙者の入院患者の中から人種・性別・年齢などを考慮して158人を選び,同様に調査した.
 比較対照者の間接喫煙の機会は,職場(56%),成人以前(66%),成人以後の家庭(48%),自動車内(20%),その他交通機関(4%)であった.対照群全体の33%は配偶者からも暴露を受けていた.これを心筋梗塞群の頻度と比較すると,危険率は成人以後の家庭での暴露では,男性で1.3,女性で1.7,両方を合わせた場合1.5であり統計学的に有意ではないものの増加していた.しかし,暴露期間の長さとの間に関連は認められなかった.自動車内での暴露でも女性で危険率が2.6と統計学的に有意ではないものの増加していた.また,成人以前の暴露における危険率は女性で0.92,男性で0.97であり,職場での暴露と同様に間接喫煙との関連は認められなかった.成人以前の間接喫煙は呼吸器を障害し,肺機能を低下させることが知られている,筆者らは成人以前の暴露が心臓血管系にも同様に影響を与えるのではないかと考えていたが,それには否定的な結果となった.しかし,成人以前の間接喫煙に関する記憶があいまいなため,信頼性に欠ける部分もあるのでさらに調査を行う必要があるとしている.



「喫煙と肥満」
Impact of chronic cigarette smoking on body composition and fuel metabolism

Jensen, E. X., Fusch, CH., Jaeger, P., Peheim, E. and Horber, F. F. (Klinik Schloss Mammern (F.F.H.), Mammern; and Medizinische Universitatspoliklinik(E.X.J., C.F., P.J.) and Chemisches Zentrallabor (E.P.) Berne University Hospital, Berne, Switzerland) : Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 80(7) : 2181-2185(1995)
Key Words : 喫煙/肥満/コレステロール/グルコース

 心血管障害の増悪因子として体脂肪の分布と喫煙習慣が重要であることは,すでに明らかにされている.一方,体脂肪の分布の異常中心性肥満(四肢に比較して身幹部に過剰の脂肪が蓄積すること)と心血管障害の進展に関与する異常脂質血症あるいは高インスリン血症等の脂質代謝異常が密接に関連していることも明らかにされている.さらに耐糖能の低下および脂質代謝異常は,しばしば喫煙者に観察されている.また最近では慢性的な喫煙が中心性肥満に関係している可能性も示唆されている.そこで,(1).喫煙者の耐糖能の低下と異常脂質血症が体脂肪の分布の変化に関連するか否か,(2).若年者の慢性的な喫煙が脂質代謝(脂肪酸化)に影響するか否かを明らかにすることを目的として,以下の研究を実施した.
 喫煙歴5年以上の健常な男性ボランティア(14人,24±1才,1日平均喫煙本数30±4 本/日)と喫煙しない健常な男性ボランティア(13人,24±1才)を被験者として食事からのたんぱく質,炭水化物および脂肪等の栄養成分の摂取量や各種の生体成分等について比較・検討した.
 その結果,body mass index(体重(kg) /身長2 ( m2))*1アルコールの摂取量(ml/day),食事摂取量(kcal/day)とそのたんぱく質、炭水化物と脂肪の摂取量(%),安静時必要エネルギー量(kcal/day),たんぱく質と炭水化物および脂肪の燃焼率(g/kg)ならびにウエスト・ヒップ比率(腹囲/臀囲)については,有意な差は認められなかった.ニコチンの代謝産物であるコチニンの24時間尿中への排泄量は,喫煙者で 72 μmol/l,非喫煙者で 0.8μmol/l であった.喫煙者でのコチニンの排泄量と体重当りの脂肪の燃焼率(g/kg)の間には,直線式Y= 7.7×10-3 X+0.8 ,相関係数 0.57 の関係があった.その他については,コチニンの排泄量との相関関係はなかった.血漿の生化学検査の結果は,血漿中のインスリン(mU/l),高比重リポプロティンーコレステロール(mmol/l)トリグリセライド(mmol/l),およびアポリポプロティンAI(mmol/l)の濃度については,両者に有意差は認められなかった.しかし,グルコース(mmol/l,危険率 0.01),総コレステロール(mmol/l,危険率0.02),低比重リポプロティンーコレステロール(mmol/l,危険率 0.02 ),低比重リポプロティン/低比重リポプロティンーコレステロール比(危険率 0.05 ),アポリポプロィン B(mmol/l,危険率 0.03 )およびアポリポプロティンALとアポリポプロティン Bとの比(AL/B,危険率 0.05 )では、有意な差が認められた.
 以上の結果から次の結論を得ることができた.喫煙者に観察される耐糖能の低下あるいは異常脂質血症は,肥満およびニコチン摂取量との間に相関性がなく喫煙者に観察されるこれらの変化はむしろタバコの煙中のその他の成分が要因である可能性が示唆された.対象的に喫煙者では、ニコチンの摂取量の増加に伴って脂肪の燃焼率が増加していたが,このことは喫煙を止めたあとに時々観察される体重増加を説明するに足りる所見と考えられる.従って,喫煙がおよぼすコレステロールおよびグルコースの代謝への作用と脂肪の燃焼への作用にはそれぞれ異なった機構が関与していることを示唆している.
 なお,日本における肥満度は,厚生省で発表している標準体重表に基づいて(実測体重−標準体重)/標準体重で算出され,肥満度が20%以上を肥満としている。通常の肥満では,女性は西洋なし型といわれ下腹部に皮下脂肪が蓄積する.一方,男性ではりんご型といわれ腹部に脂肪が蓄積することが多い.
*1body mass index : 肥満の程度を示す指標の一つ(体重(kg) /身長2 ( m2
日本人成人男性では 20 〜25,女性では19〜24,26.4以上は肥満.



「妊娠中の喫煙と死亡率」
A 28 year follow up mortality among women who smoked during pregnancy

Rantakallio, P., Laara, E. and Koiranen, M. (Department of Public Health Science and General Practice, University of Oulu, Aapistie 1, FIN-90220, Oulu, Finland):British Medical Journal 311: 477-480 (1995)
Key Words : 妊婦の喫煙/死亡率/地域調査

 妊娠中に喫煙している母親の子供に対する影響は多く報告されているが,母親に対する影響については関心をもたれてこなかった.そこで,フィンランドで11944 人の妊婦を対象に,1996年から1993年までの28年間,妊娠中の喫煙と死亡率との関係を分析した.
 調査期間中に571 人が死亡した.年齢,居住地,就学年数,婚姻状態を配慮して死亡率を調べた結果,妊娠中に喫煙していた人の死亡率は,非喫煙者の2.3 倍,妊娠前まで喫煙していた人では1.6 倍であった.喫煙者では,喫煙に起因すると考えられる疾病(呼吸器または食道癌,脳・心臓血管系および消化器系疾患)による死亡率が高かった.肺癌で死亡した12人のうち8人が妊娠中に喫煙していた人で,心臓血管系疾患による死亡率は,妊娠中の喫煙者では非喫煙者の3.2 倍,妊娠前まで喫煙していた人では2.1 倍であった.脳血管系疾患による死亡率は,妊娠中の喫煙者では非喫煙者の2.2 倍,妊娠前まで喫煙していた人では1.6 倍であった.生活習慣に起因する死亡率は,妊娠中の喫煙者,妊娠前まで喫煙していた人では,非喫煙者のそれぞれ3.5 倍,2.7 倍であった.
 調査の結果,いずれも喫煙者の死亡率が高かった.しかし,この結果が喫煙だけによるものではなく,仕事の種類,健康に対する意識の違い,ストレスのかかる生活および環境等,人々に喫煙を促し,各種疾患を発病させ,事故死,自殺へ導く様な心理状態に陥らせる多くの要因が存在すると考えられる.喫煙が及ぼす健康に対する教育,法律による規制,喫煙習慣のコントロールだけでは,たぶん妊娠中に喫煙している人に対して,一時的な禁煙を促すことはできないであろう.彼らは,生活の中でのストレスをより効果的に処理する方法を学ぶ必要があるのだ.



「DNA付加体による発癌性の予測」
DNA adduct formation by mineral oils and their fractions as indicated by 32P-postlabelling : is adduct formation truly indicative of carcinogenic potential?

Ingram, A.J.,1 Phillips, J.C.2 and Lee, R.2 (1IPTS, UK; 2BIBRA Toxi-s cology International, UK) :
Journal of Applied Toxicology 15(4): 275-283 (1995)
Key Words : ミネラルオイル/32P−ポストラベル法/DNA付加体/発癌性

 工業用に使われるミネラルオイルは,皮膚癌を誘発することが知られている.近年その精製が進み,産業衛生上の改善もあって,皮膚癌の発生率が減少したが,新しい精製法を評価するためには,精製油の皮膚発癌性を推定する必要がある.ミネラルオイルの発癌性は,主に不純物の多環芳香族化合物によるものと考えられており,その総量と発癌性の強さの間にはある程度の相関が認められる.しかし,改良型エームス試験の結果は,発癌性のある4〜6環の芳香族成分よりも,発癌性のない2〜3環の芳香族成分の方が変異原活性が強く,動物を用いた長期試験の結果と一致しなかった.そこで,32P−ポストラベル法を用いたDNA付加体の検出により,発癌性の推定が可能かどうかを検討した.発癌性の強さが明らかなミネラルオイルとその精製油,およびそれらを分画して得られた各種の画分を脱毛したマウスの皮膚に 50 μl 塗布し,24時間後に32P−ポストラベル法によりDNA付加体の形成を調べた.実験1は,非発癌性の精製油(N11),発癌性の非精製油(N1)および発癌性の芳香族抽出油(CAE)について行った.その結果,非発癌性のN11ではDNA付加体の形成はみられなかったが,発癌性のN1およびCAEでは付加体の形成がみられた.これらの各種画分について解析したところ,飽和画分は陰性であり,2〜6環の芳香族画分に主な付加体形成活性がみられた.この画分を更に2〜3環と4〜6環の画分に分けると,両者とも活性が認められ,スポット数は4〜6環画分の方が多かったが,付加体形成活性は2〜3環画分の方が強く,改良型エームス試験の結果と一致した.これまで,非発癌性の3および4環芳香族化合物がエームス試験で陽性となるのは,in vitro と in vivo の代謝の違い,或いはバクテリアの代謝の特異性によるものと説明されてきた.しかし,今回の結果からはDNA付加体が形成された後の修復能の違いによることが示唆された.この仮説を検証するためには,エームス試験で陽性の非発癌性芳香族化合物が,マウスの皮膚に付加体を形成するか否かを確認する必要がある.実験2では,3段階の粘性範囲に属する,非,弱〜中および強発癌性の,合計9種の油について検討した.その結果,バックグラウンド活性の変動が大きく,付加体形成活性の有無や強さと,発癌性の強さとの間に明確な関連は認められなかった.非発癌性の高粘性油は,どの発癌性油よりも強い活性を示し,主に芳香族画分が関与していて,実験1の結果と符合していた.一方,低粘性の弱〜中発癌性油では,飽和炭化水素画分のスポットを含む4つの強いスポットがみられたが,これらは弱いながらも無処置や陰性対照(N11)でも認められた.これらのスポットが餌に含まれる物質によって生じたのか,或いは内因性物質によるかは今のところ不明である.以上の結果から2つの疑問が生じてきた.
1. 非発癌性の多環芳香族化合物は,本当にDNAに付加体を生ずるのか,そしてそれが速やかに修復されることにより,発癌性の多環芳香族化合物と異なる結果となるのか.
2. 陰性対照に付加体を形成する内因性物質とは何か.また,化学物質による処理が,内因性物質による付加体形成を促進することによる,誤った陽性結果は生じないのか.
 これらの疑問に答えるための研究が,現在進行中である.その結果は,人間への影響の評価に幅広い示唆を与える可能性がある.



「食品由来の発癌物質IQのDNA付加体形成と発癌」
DNA adduct formation of the food carcinogen 2-amino-3-methylimidazo [4,5-f]-quinoline (IQ) in liver, kidney and colo-rectum of rats

Turesky, R. D. and Markovic, J. (Nestec Ltd.Lausanne, Switzerland) :
Carcinogenesis, 16 : 2275-2279 (1995)
Key Words : IQ/DNA付加体/32P-ポストラベル法/発癌

 癌の発生は,遺伝子損傷性の癌原物質とDNA の共有結合が大きな役割を果たしていると考えられている.DNA 付加体の測定は,動物を用いた発癌実験の結果と併用すれば,ヒトの発癌リスクや許容暴露基準を決めるために重要な手段となりうる.
 ヘテロサイクリックアミン(HHA) は,調理した肉や魚中に微量に生成し,タバコ煙の濃縮物にも含まれている.囓歯類の発癌物質である.2-Amino-3-methylimidazo[4,5-f]-quinoline (IQ)はHHA の代表的なもので,サルに肝癌を誘発することが認められている.HHS は肝薬物代謝酵素CYP1A2によって代謝され,アリルヒドロキシアミンとなり,DNA 付加体を形成する.
 IQについて,ラットの肝,腎および結腸−直腸でのDNA 付加体形成を検討した.Fisher系雄ラットにIQ(20 mg/kg)を単回経口投与し,32P-ポストラベル法を用いて投与したIQに由来する付加体の種類と分布を分析したが各臓器でほぼ同様であった.N-(Deoxyguanosin- 8-yl)-2-amino-3-methylimidazo-[4,5f]qunoline (dG-C8-IQ) が主な付加体であり,放射活性の約50-70%を占め,IQの遺伝子損傷性に関しては重要であると考えられる.IQ投与の24時間後には,付加体の形成量は肝,腎,結腸−直腸の順であった.ラットにおける長期混餌投与によるIQの発癌実験での標的臓器は,肝および結腸−直腸であり,腎臓では腫瘍が形成されない.IQが結腸−直腸において、発癌性を示すのは,肝や腎よりも,DNA 合成や細胞分裂が盛んであり,初期のDNA 損傷が固定されやすいことにもよるものと考えられる.さらに,IQによる発癌過程においては,付加体形成量の他に,付加体の持続性やエラーを伴うDNA 修復,腫瘍のプロモーションおよび臓器の感受性などが関与しているものと考えられる.今後,長期の発癌実験におけるDNA 付加体を測定することが重要である.



「向精神薬を服用すると虚血性心疾患のリスクが増加するか?」
Is the use of psychotropic drugs associated with increased risk of ischemic heart disease?

Lapane, K. L.,1 Zierler, S.,2 Lasater, T. M.,1,2 Barbour, M. M.,3-5 Carleton, R.1,4,5 and Hume, A. L.3,6,7
Key Words : うつ病/虚血性心疾患/向精神薬/ベンゾジアゼピン/抗うつ薬

(1Division of Health Education and Departments of 4Medicine and 6Family Medicine, Memorial Hospital of Rhode Island; Departments of 2Community Health,5Medicine, and 7Family Medicine, Brown University School of Medicine; and 3Department of Pharmacy Practice, College of Pharmacy, University of Rhode Island, Kingston, Rhode Island, USA)
Epidemiology 6:376-381 (1995)
 うつ病患者では,虚血性心疾患のリスクが増加しているという報告があり,うつ病が虚血性心疾患発現の原因となっていることが疑われている.また,パニックも二次的虚血性心疾患と関係があるということが示されている.それにもかかわらず,うつ病やパニックに用いられる薬物の影響について,これまでに評価されていない.
 抗うつ薬は,心臓の伝導やリズム,心拍数,左心室機能,および血圧変化による虚血性心疾患に影響を与える.このような作用を持つ向精神薬と心血管系疾患の関係に,関心がもたれているのは,この薬物の使用量が増加しているためでもある.1989年までに,べンゾジアゼピンは1790万例処方され,1970年から1989年までで17倍に増加している.
 ここで行われた向精神薬と虚血性心疾患の関係を評価する研究では,1981年から2年毎に無作為抽出した18〜65歳の回答者を対象にしたスクリーニング面接を行い(N=13185),そのうち7275例(35〜65歳)の心血管系疾患の罹患率および死亡率を調査し,さらにその時点で,あるいは既往症として心血管系疾患を持つ者、糖尿病患者および妊婦を除外して,残った5998例を研究対象としている.また,向精神薬をベンゾジアゼピン(抗不安薬および催眠薬)および抗うつ薬(三環系およびおよび異型)に分類し,虚血性心疾患は,International Classification of disease, 9th revision, Clinical modification(ICD-9-CM)および Coordinating Committee for Community Demonstration Studies (CCCDS)に従い分類している.
 一方,potential confounderとして,1年間の収入を世帯の人数で割った値,職業,学歴,人種,慢性疾患,面接前24時間以内の飲酒,および他の心血管系疾患のリスクファクター(高血圧,血清総リポたんぱく質コレステロール量および高比重リポたんぱく質コレステロール量,肥満,運動不足,および喫煙)も調べられている.
 統計処理を行った結果,臨床的に有意な虚血性心疾患のリスク増加は,ベンゾジアゼピン服用と中程度の相関関係[relative risk(RR)=2.0;90%信頼限界(CI)=1.1〜3.9],抗うつ薬服用とは強い相関関係(RR=5.7;90%CI=2.6〜12.8)があった.



「腎毒性 Penicillium の同定」
Identification of Nephrotoxic Penicillium Species from Cereal Grains

Identification of Nephrotoxic Penicillium Species from Cereal Grains Mills, J. T.,1 Frisvad, J. C.,2 Seifert, K. A.,3 and Abramson, D.1
(1Agriculture and Agri-Food Canada, Research Center, Canada; 2Department of Biotechnology, Technical University of Denmark; 3Centre for Land and Resources Research, Research Branch, Canada)
Mycotoxin Research 11 :25-35 (1995)
Key Words : 穀物/腎毒性/Penicillium /同定法

 ヨーロッパや北アメリカで生産されている穀物種子には, 腎毒性を示す Penicillium 属の菌種の存在が指摘されている. これらの菌種では, ochratoxin A(OA), citrinin (CT), xanthomegnin, viomellein および, 数種の glycopeptids など, 少なくとも10種類以上の腎毒性を示す二次代謝産物の産生が報告されている. 腎毒性を示す Penicillium 属の菌種を同定ことは非常に難しく, 1976年以来、分類学上たびたび変更され, ときには誤った同定がなされてきた. また, コロニー形態が変化しやすいことや, 顕微鏡観察の指標となる明確な特徴がないため, 正確な同定基準について問題が残されていた. これらのことから, 同定のための指標として, マイコトキシンや, 多くの二次代謝産物についての分析法の開発が必要となった. そこで, Frisvad, Filtenborg らは, 寒天培地上で試験菌を発育させた後, 寒天培地からの二次代謝産物の抽出方法と薄層クロマトグラフィー (TLC) による分析方法について開発を試みてきた.
 この方法にしたがった同定システムの手順は, (1)形態学的試験, (2)代謝産物試験,(3)菌種の同定と段階的に実施される. 形態学的試験は, Czapek yeast extract agar (CYA), Yeast extract sucrose agar (YES), Malt extract agar (MEA) の3種類の寒天培地上での発育形態及び, UV照射などによるコロニーの色調を基準とした試験であり, 代謝産物試験は, CYAとYES上で発育させた菌の産生した代謝産物をTLC で分析する試験である. TLCによる分析では, 数種類の抽出溶媒系と発色試薬の組み合わせによる標準品との比較で代謝産物が決定され, これらの結果を総合して最終的な菌種の同定を実施するものである. さらに, Chemotype は, OAのみを産生する菌株を Chemotype I, OAとCTの両方を産生する菌株を ChemotypeIIとして分類している.このシステムによってカナダ産穀物から分離した Penicillium 属の菌株を用い, 腎毒性および非腎毒性菌種についての同定を再検討したところ, 腎毒性を示す11菌種(P. verrucosum Chemotype I, P. verrucosum Chemotype II, P. expansum, P. citrinum, P. aurantiogriseum, P. freii, P. tricolor, P. polonicum, P. viri-dicatum, P. cyclopium, P. melanoconidium) が同定でき, 非腎毒性菌種と区別することが可能であった. この結果をふまえて, 北ヨーロッパや熱帯地域の穀物より分離された既知のPenicillium属の菌種に関する情報にも補足が加えられた. これらの 単純化した同定手順に従った試験方法による腎毒性 Penicillium 属の菌種の同定 は, 従来の形態学やコロニーの性状観察に加えて, 二次代謝産物の解析を実施することで, より正確なレベルでの菌種の同定がなされるものとして評価される.



「金属投与はラットの赤血球膜に変化を起こす」
Metal induced changes in the erythrocyte membrane of rats

Jehan, Z. S., Motlag, D. B. (Department of Biochemistry, University of Madras, Madras, India) : Toxicology Letters 78 : 05127-133 (1995)
Key Words : 鉛/亜鉛/銅/赤血球/ラット

 環境中には種々の金属が混在しているので,金属暴露の研究を行う場合,1つ以上の金属を投与することが一般的である.実際に複数の金属を投与すると,動物体内の組織分布において相互作用を示し,亜鉛の前投与では鉛の吸収が抑制されることが知られている.銅,鉄,亜鉛が適切に摂取されると,成長や血液に対する鉛の悪影響が最小となる.この論文では,鉛,亜鉛および銅をラットの腹腔内に単独または同時に14日間反復投与し,赤血球膜のコレステロール,リン脂質,Hexose,Hexosamineおよびシアル酸量や膜酵素である Acetylcholinesterase(AChE) 活性,NADH 脱水素酵素活性および Na+-K+ ATPase 活性を測定した.この結果,鉛投与群では,劇的な変化が起き,銅投与群では穏やかな変化があり,亜鉛投与群では全く変化がなかった.また,3金属を同時投与すると亜鉛が鉛の変化を軽減させることが明らかとなった.
 コレステロールとリン脂質は赤血球膜の必須な部分を形成している.赤血球膜のコレステロール量の増加は脂質の組成や膜透過性に大きな変化を起こすため,コレステロール/リン脂質比は,膜透過性に急激な変化が起きないよう綿密にコントロールされている.この実験において,鉛や銅の投与群ではコレステロールおよびリン脂質量が変化するが,亜鉛を同時に投与した群では赤血球膜の損傷があまり進まないため,この変化は最小となる.また,赤血球膜の糖タンパクであるシアル酸が銅や鉛の投与群で減少したが,これは金属投与によりシアル酸が自己消化されたためと考えられる.さらに,銅や鉛投与群ではNa+-K+ ATPase 活性が増加したが,これは脂質含量の変化によるものであると思われる.以上のことから,鉛および銅が赤血球膜に与える影響は,赤血球に対する毒性作用であると考えられ,亜鉛の存在によってこれらの毒性作用は緩和されることが明らかとなった.