食品・薬品

安全性研究ニュース

第33号



目次
  1. リン酸入り飲料は閉経後女性の低カルシウム血症のリスク因子
  2. フラボノイドの過剰摂取の健康への影響
  3. 飲酒パターンと飲酒関連疾患
  4. トランスジェニックアニマルの癌原性試験への適用
  5. 発癌物質アクリルアミドは加熱調理によって生ずる?
  6. カテコールエストロゲン亜慢性投与時のラット肝ミクロゾームにおける活性酸素種産生に及ぼす影響
  7. 齧歯類を用いた子宮肥大試験で調べた結果,食品保存剤として使用されているパラベンにはエストロゲン活性は無かった
  8. 胎児期にビスフェノールAを投与されたラットの行動
  9. 生殖毒性物質の標的にされるセルトリ細胞
  10. 環境化学物質と性比の変化:1751年から1997年までのフィンランドにおける調査報告




「リン酸入り飲料は閉経後女性の低カルシウム血症のリスク因子」
Consumption of soft drinks with phosphoric acid as a risk factor for the development of hypocalcemia in postmenopausal women Fernando G-R1, Martha R-M1, Evangelina R2 (1メキシコ社会保障研究所, 2Durango 州立大学化学学部, Durango, Mexico) Journal of Clinical Epidemiology 52 : 1007-1010 (1999) Key Words : 清涼飲料/リン酸/低カルシウム血症/炭酸飲料

 先に著者らは,リン酸含有清涼飲料を週 1.5 L 以上飲んでいた児童に低カルシウム(Ca)血症が多いことを報告しているが,今回閉経後女性について低 Ca 血症の調査を行った.
 閉経後女性で低 Ca 血症(血清 Ca≦8.8 mg/dl)を呈している症例21人と,年齢,閉経後期間の対応する対照例64人について調査した.これらから,喫煙,飲酒,コーヒー嗜好者,腎障害,栄養不良,薬物治療中の者,ホルモン補充,ミネラル摂取を行っている者は除外した.両群間で,世帯の収入,学歴に差はなく,日常の食餌摂取も清涼飲料摂取量以外には,総カロリー,蛋白,脂肪,Ca の摂取量に差はなかった.
 低 Ca 群の血清 Ca 濃度は 7.8±0.6 mg/dl,対照群では 9.1±0.4 mg/dl であった.[この値は蛋白量で補正していない.血清蛋白濃度には両群間で差はなかった.] 低 Ca 群では対照群に比し,血清パラソルモン(PTH)濃度,尿リン排泄量が有意に高く,血清リン濃度,尿 Ca 排泄量には有意差がなかった.1,25-dihydroxy-vitamin D は増加していなかった.
 調査の結果,両群間でリン酸清涼飲料の摂取習慣に明瞭な差が認められた.すなわち,低 Ca 群の摂取量は週に3.85±3.6本で,対照群では1.98±2.1本であった.ここで1本とは 375 mL である.Coca Cola は 19.7 mg/dL,Pepsi Cola は 16.1 mg/dL の無機リンを(リン酸の形で)含んでいる.低 Ca 群は,リン酸飲料の摂取量が多く,尿中リン排泄が増加するとともに Ca の排泄も増加し(測定値は有意差はなかったが),活性ビタミン D が上昇してこないため Ca の腸管吸収が高まらず,低 Ca 血症を呈し,PTH の分泌が高まり,二次的副甲状腺機能亢進症の状態になったと理解される.閉経直後の時期には,ホルモンの異常に適応していないので骨変化が起きやすく,本研究では骨の検査はしていないが,リン酸の過剰負荷には注意すべきであろう.
 この問題は早くから取り上げられ,米国において The Rancho Bernardo Study と言われる大規模な研究がある.これでは高齢女性の炭酸飲料摂取と骨密度には関連がないという結論を出している.しかし,そこでは炭酸飲料一般を扱っており Cola に注目していないこと,対象者が栄養良好な健康女性だったこと,コーヒー嗜好など介在因子を考慮していないこと,さらに閉経後の期間を考慮していないこと,等が本研究と異なる.


「フラボノイドの過剰摂取の健康への影響」
Potential health impacts of excessive flavonoid intake Skibola CF, Smith MT (California 大学 Berkelay 校 公衆衛生学部 環境保健科学科,Berkeley, CA, USA) Free Radical Biology & Medicine 29 : 375-383 (2000) Key Words : フラボノイド/毒性/変異原性/ケルセチン/フリーラジカル

 植物フラボノイドには抗酸化作用や細胞増殖抑制作用があることから,天然の癌抑制物質と考える研究者がおり,フラボノイド含有量の多い食品を「毒性のない薬」と誇張した宣伝を行って提供する業者も現れ,まだ臨床試験で確認されていないのに,健康志向の強い人たちの間で使用量が著増しているが,「少量で良いものは大量ではもっと良い」という誤解がある.フラボノイドには実験的には変異原性やほかの遺伝毒性のあることが知られている.フラボノイド豊富な食品は健康に良いという証拠は十分にあるが,健康障害を起こす可能性も考えられる.
 フラボノイドの含有量の多い食品としては,各種の果物,野菜,穀物,茶,ビール,赤ワイン等があげられ,米国人の総フラボノイド摂取量は1日 500〜1000 mg とされるが,健康食品としてのフラボノイドの摂取量は1日数グラムに及ぶのである.
 フラボノイドには flavonols, proanthocyanidins, isoflavonoids, flavones, flavanones 等各種のものがある.主要なものの知見を要約する.ケルセチンは flavonol に属し,タマネギ,リンゴ,キャベツ(ケール),赤ワインや茶に含まれている.通常の摂取量は1日 4〜68 mg とされるが,日本人は茶を飲むためかもっと多い.ケルセチンの生物作用には (in vitro 実験で) 抗ウイルス,抗菌,抗炎症,抗細胞増殖が報告されている.赤ワインや茶には,カテキン類も含まれているが,抗細胞増殖作用,抗酸化作用が認められている.Isoflavonides は「植物エストロゲン」と言われ,弱いエストロゲン活性を有する.ゲニステインとダイゼリンは大豆とその製品(豆腐,味噌,豆乳)に含まれ,日本人等アジア人ではきわめて摂取量が多い.大豆 isoflavons の摂取量は西欧人では 1〜3 mg であるが,アジア人では 20〜240 mg とされる.
 ケルセチン類は以前から変異原性を有することが問題にされていた.これらはミトコンドリア呼吸の調節を破壊して過酸化物の生成を起こし,DNA 傷害,突然変異の誘発に至る.このミトコンドリア酵素の阻害が一方では抗腫瘍作用の機序と考えられる.ゲニステインは in vitro で topoisomerase , 活性を抑制する,蛋白のチロジン燐酸化を抑制する,培養癌細胞の分化を誘発する等の作用が認められている.
 多数の疫学的調査から,野菜,果物,大豆製品の摂取量が多いと,心臓病や癌(乳腺,前立腺,肺,大腸,胃)のリスクが低いと言われている.従って,アジア人や菜食主義者ではこれらのリスクは低い.彼らの摂取量程度までならば健康障害を生じることはないように思える.現在,ヒトに有害な影響を生じる用量を確認した研究はなく,長期摂取の影響を調べたものもないが,通常の食生活では食物中のフラボノイドが変異原性や遺伝毒性を発揮することはないと思われる.しかし,健康食品 (dietary supplements) として菜食主義者の摂取量より10倍も20倍も多く摂取するとなると問題であり,規制されないままでは,有害な影響が起こることが懸念される.


「飲酒パターンと飲酒関連疾患」
Drinking pattern and alcohol-related medical disorders
Wetterling T, Veltrup C, Driessen M, John U
(Lubeck 医科大学 精神科, Lubeck, Germany
Alcohol & Alcoholism 34 : 330-336 (1999)
Key Words : 飲酒/飲酒パターン/アルコール中毒/身体疾患


 大量の飲酒が肝疾患,膵臓炎,胃腸疾患,および神経性疾患を起こすが知られているが,飲酒パターンによるこのような疾患への影響は殆ど調査されていない.本研究はアルコール中毒者の飲酒パターンと飲酒に関連のある疾患の関係について調査した.
 精神科での連続的解毒治療を指示された,241人の慢性アルコール中毒患者を,過去6か月の飲酒パターンによって,継続的飲酒者(毎日のアルコール摂取),頻繁な大量飲酒者(週3日以上の大量飲酒),および一時的飲酒者(しらふの期間の長い不規則な飲酒)に分け,この3グループ間の患者の疾患を比較した.頻繁な大量飲酒者が一番多く(44.4%),つぎに継続的飲酒者(33.6%),最も少なかったのが一時的飲酒者(22%)であった.また,大量飲酒者の91.6%,継続的飲酒者の75%,一時的飲酒者の60%が,ICD-10 基準でアルコール依存症と診断された.大量飲酒者は一時的飲酒者より若い時に飲酒を始め,他の2グループの患者よりも若い時に初めての酩酊を体験している.しかし,健康的ではない飲酒を続けた平均期間は,継続的飲酒者が一番長かった.過去6か月の一回あたりのアルコール摂取量は,大量飲酒者(290 g)が他のグループの患者(169 または 186 g)より多かった.
 検査パラメーターにおいては,継続的飲酒者の平均赤血球容積のみが統計学的有意に高く(99.8±7.0 fl),次に大量飲酒者(95.4±4.6 fl),一時的飲酒者(94.8±6.4 fl)と続いた(Scheffe-test, P < 0.05).飲酒関連の疾患においては,継続的飲酒者および大量飲酒者に膵臓炎,食道静脈瘤,ポリニューロパシー,または勃起障害が,一時的飲酒者より多くみられ,大量飲酒者で胃炎や消化管出血がより頻繁に認められた.結論として,継続的飲酒者と大量飲酒者の間には,上部消 化管疾患と神経性疾患を除いて,飲酒関連の疾患の発病には違いは認められなかった.しかし,大量飲酒者は,救急(救命)処置が必要な状態に陥ることがより多く,意識喪失を伴う脳障害の経験がより頻繁にあり,自殺未遂も継続的飲酒者より多かった.譫妄や発作の禁断症状に関しては,グループ間で違いは見られなかった.Stepwise logistic regression の結果,飲酒パターンはポリニューロパシーおよび脳障害発生のみと関連があった.
 累積アルコール摂取量と飲酒関連疾患の関係を調べるため,一生涯アルコール摂取予測値をもとめたところ,大量飲酒者の一生涯アルコール摂取予測値は,継続的飲酒者とほとんど変わらなかったが,一時的飲酒者の予測値は統計学的有為に低かった.また,飲酒関連疾患と一生涯アルコール摂取予測値には強い関連が認められた.女性の飲酒量は男性よりも有為に低かったが,飲酒関連疾患においては,男女差は認められなかった.
 結論として,検査パラメーターでは,飲酒関連疾患と強い関係のある,頻繁な大量飲酒者を見分けることができないので,AUDIT など飲酒パターンを示す試験が,アルコール中毒診断に適用されるべきであると言える.


「トランスジェニックアニマルの癌原性試験への適用」
Use of transgenic animals for carcinogenicity testing: Consideration and implication
for risk assessment
Gulezian D1, Jacobson-Kram D2, McCullough CB3, Olson H4, Recio L5, Robinson D6,
Storer R7, Tennant R8, Ward JM9, Neumann DA10
(1Taconic 農園会社, Madison, CT, 2BioReliance, Rockville, MD, 3Aventis 医薬品生産工業,
Collegeville, PA, 4 Pfizer 中央研究所, Groton, CT, 5化学産業毒性研究所,
Research Triangle Park, NC, 6ILSI 健康・環境科学研究所, DC, 7Merck 研究所,
West Point, PA, 8国立環境衛生科学研究所 (NIEHS), Research Triangle Park, NC, 9国立癌研究所,
Frederick, MD, 10ILSI 評価科学研究所, DC, USA )
Toxicologic Pathology 28: 482-499 (2000)
Key Words : トランスジェニックマウス/ノックアウトマウス/遺伝子組み換え/癌原性試験/
安全性試験/発癌物質


 癌原性試験は,ラットとマウスの2種類の齧歯類にその生涯期間に相当する2年間,試験する化学物質を餌や水に混ぜて投与し,発癌性の有無を調べる安全性試験の方法であり,癌原性試験ガイドラインは過去25年以上ほとんど変わることがないまま現在に至っている.この方法によって化学物質のヒトに対する発癌性が外挿できるかどうかについては色々議論のあるところである.
 癌原性試験の安全性に関する国際専門家会議で,従来の長期癌原性試験の代替法として齧歯類1種類の試験にして,短,中期試験としてトランスジェニック動物を使った試験法の提言がなされた.最近20年間の遺伝子工学の進歩は著しく,遺伝子組み換え技術によって癌遺伝子や癌抑制遺伝子を導入したり(トランスジェニック),ある遺伝子の働きを抑制させたり(ノックアウト)という遺伝子操作が可能となってきている.
 これらのトランスジェニックマウスやノックアウトマウスの中で,活性型 v-Ha-ras 癌遺伝子導入トランスジェニックマウス(Tg.AC),p53 癌抑制遺伝子ヘテロ欠損ノックアウトマウス(p53+/-),ヒトプロト型 c-Ha-ras 癌遺伝子導入トランスジェニックマウス(rasH2),ヌクレオチド除去修復機構欠損ノックアウトマウス(XPA-/-)の4系統が安全性試験の視点から検討対象に上げられている.Tg.AC では,発癌プロモーターである TPA のみを皮膚に塗布することにより乳頭腫,扁平上皮癌が発生することが知られており,皮膚発癌のイニシエーション過程が導入遺伝子によって代替えされていると考えられる.rasH2 は,ヒトの癌の30%で点変異による活性型 ras 癌遺伝子が見られているが,ヒトプロト型 c-Ha-ras 癌遺伝子を導入した rasH2 は18ヶ月齢で半数に自然発生肝臓腫瘍(主に血管肉腫)が見られ,発癌物質を投与すると対照より早期に腫瘍が発生し,発生率も高いことが知られている.元来 p53 が DNA 傷害に反応することから,p53+/- では変異原物質,ガンマー線で腫瘍発生時期が早まる.XPA-/- はヒトの色素性乾皮症モデルとして作製され,紫外線,皮膚化学発癌に感受性が高い.ベンゾピレン投与でリンパ腫の発生が早まり,頻度も高いことが知られている.
 これらのマウスを使用した発癌試験の試みは1996年,NIEHS を中心とした国際協力のもとで始まっている.しかしながら実際の発癌性の評価をトランスジェニックマウスやノックアウトマウスで実施するには,遺伝的に均質でクリーンな動物の確保,使用動物数,陰性対照や陽性対照群の設定,投与期間や投与量設定,腫瘍発生率や組織所見の分析,統計処理など多くのことに注意を払わなければならないし,クリアしなければならない点も多くある.これらの遺伝子組み換え動物を用いた研究により,分子レベルでの発癌メカニズムの解明が進んできている.こうした研究により得られた知見の集積は発癌メカニズム自体ばかりでなく化学物質の発癌性評価においても貢献するだろう.トランスジェニック動物の使用により,発癌試験に要する時間や資源が節約でき,より安全性が高く,有効な薬剤や化学物質を今より早く一般市場に出すことが可能となるであろう.


「発癌物質アクリルアミドは加熱調理によって生ずる?」
Acrylamide: A Cooking Carcinogen?
Tareke E1, Rydberg P1, Karlsson P2, Eriksson S2, Tornqvist M1
(1Stockholm 大学 環境化学科, Stockholm, 2AnalyCen nordic AB, Lidkoping, Sweden)
Chemical Research in Toxicology 13 : 517-522 (2000)
Key Words : アクリルアミド/ヘモグロビン付加物/加熱調理/発癌リスク


 アクリルアミド (AA) はヘモグロビンのN末端のバリンに付加して,N-(2-carbamoylethyl)-valine (CEV) を形成するので, CEV を N-alkyl Edman 法により誘導体化したもののマススペクトルを測定することにより, AA への曝露量を測定することができる.
 AA の曝露量調査において, AA に曝露されていない対照群の被験者からも 40 pmol/g globin という高濃度の CEV が検出された. CEV の濃度は非喫煙者や放牧された牛で低いことから,CEV が加熱調理の結果食物中に生じた AA に由来するのではないかと考え, 飼料を180〜220℃で加熱した時の飼料中の AA 量および加熱した飼料を与えたラットの血中 CEV 濃度を測定した.飼料中の AA を GC/MS 法により測定した時, 非加熱の飼料の AA は検出限界 (10 /?)以下であったのに対し, 加熱した飼料では平均 150 /? であった.ラット赤血球の CEV を GC/MS/MS 法により測定した時, 加熱した飼料を1か月ないし2か月間摂取したラットの CEV は非加熱の飼料を摂取したラットのそれに比べて約10倍高く, 試験期間中に摂取した飼料に含まれる AA の量から予想した濃度とほぼ一致していた. また,GC/MS/MS 法により得られたピークはリテンションタイムおよび生じたイオンの種類から,CEV と同一であることが確認された.以上の結果から,曝露量調査の対照群の被験者から検出された CEV は加熱調理した食物の摂取によるものと考えられた.
 AA は一般的に神経毒として知られているが, 体内で代謝を受けると変異原および発癌イニシエーターであると考えられているエポキシ体の glycidamide を生成する.今回対照群の被験者から検出された量は発癌リスクを増加させるに十分な量であった.


「カテコールエストロゲン亜慢性投与時のラット肝ミクロゾームにおける活性酸素種産生に及ぼす影響」
Influence of subchronic administration of catechol estrogens on the formation of
reactive oxygen species in rat liver microsomes
Barth A, Muller D, Karge E, Klinger W
(Friedrich-Schiller 大学, 医学部,薬理毒性研究所, Jena, Germany)
Experimental and Toxicologic Pathology 52 : 323-328 (2000)
Key Words : カテコールエストロゲン/エストラジオール/エストラジオール吉草酸/
エチニルエストラジオール/肝ミクロゾーム/活性酵素/過酸化脂質


 エストロゲンが体内において代謝酵素作用を介して遊離ラジカルを産すること,そしてその代謝物のカテコールエストロゲン(CEs) の 2-および 4-ヒドロキシカテコールエストロゲン (2-OHおよび 4-OHCEs) はさらに肝の P450 により代謝され,親電子性代謝物 (キノン型タイプ) を産生し,DNA との付加体を形成することが知られている. また,CEs の酸化/還元反応過程においてフェリチンから Fe が遊離し,これにより二次的にヒドロキシルラジカル(・OH) が産生される.一方,CEs は抗酸化作用を有し,これまでに肝がん発生抑制効果を示すことが知られているが,著者らは,先にラットにエストロゲンを慢性投与した時,肝ミクロゾムのプロ酸化活性(体内で変換して酸化作用を示す)と抗酸化活性が上昇することを確認しており,今回は,このプロ酸化活性上昇がカテコールエストロゲン生成によるものか否かについて調べることを目的として,2-OHE2,4-OHE2 およびカテコールタイプでない6α-水酸化エストラジオール (6-OHE2) を30日齢の雄Wister ラットに投与してその肝ホモジネート,9,000 g 上清およびミクロゾームを用い産生する活性酸素種を調べた.また,エストラジオール (E2),エストラジオール吉草酸エステル (E2V), エチニルエストラジオール (EE2) を投与し,比較した.
 これらの結果から,従来から全く報告がなされていなかった 6-ヒドロキシエストラジオールが最も抗酸化作用が強いことが明らかとなり,また,2-OHE2 投与では過酸化脂質上昇がほとんど認められなかった. 一方,CEs によるプロ酸化能の指標としてのミクロゾームのルシゲニン発光能 (LUC-CL) と過酸化水素 (H2O2) 産生能の効果から判断すると E2 や E2V の方が CEs よりもより強いプロ酸化作用を有することが示され,LUC-CL や H2O2 レベルの上昇は E2 からの 2-OHE2 や 4-OHE2 産生の結果によるものではなく,別の cytochrom P450 サブファミリーを介して生じる可能性が示された.このような E2 と CEs 投与時の作用発現の違いについては,モノオキシゲナーゼ阻害に対する違いにおいても指摘されており,異なる P450 サブファミリーを介する結果と考えられている.
 一方,Butterworth ら (1997) によりハムスターでは E2 投与胆汁中からカテコールエストロゲン−グルタチオン(CEs-GSH) 抱合体が検出されること,また,E2 を介して発現する腎毒性がγ-グルタミンペプチターゼ活性に依存していること,あるいは Change ら (1998) により CEs のキノイド型がグルタチオン-S-転移酵素活性を不可逆的に阻害することが報告されており,CEs の酸化/還元サイクルとグルタチオン抱合体生成機序と E2 投与による毒性発現との関係が示唆されている.しかし,今回の実験結果では 2-OH および 4-OHCEs 投与時には肝 GSH 濃度に変化は認められず,また,含量も変化しない (通常,GSH の消長は上述した生体内の酸化反応の指標に影響を与える) ことから,エストロゲン投与による主な毒性作用発現は, 従来言われていたように CEs の代謝物の親電子代謝物産生経路を介して発現するという仮説を支持するような結果は得られず,別の作用機序によると考えられる.
 以上のような観点から E2 や E2V 投与時のプロ酸化作用は CEs 産生機序を介して起こるのではないと結論づけている.


「齧歯類を用いた子宮肥大試験で調べた結果,食品保存剤として使用されているパラベンにはエストロゲン活性は無かった」
Lack of oestrogenic effects of food preservatives (parabens) in uterotrophic assays
Hossaini A, Larsen JJ, Larsen JC
(デンマーク家畜・食品局, 食品安全性・毒性研究所, Soborg, Denmark)
Food and Chemical Toxicology 38 : 319-323 (2000)
Key Words : パラベン/食品添加物/エストロゲン活性/子宮肥大


 Methyl- -hydroxybenzoate (メチルパラベン), ethyl- -hydroxybenzoate (エチルパラベン), propyl- -hydroxybenzoate(プロピルパラベン), buthyl- -hydroxybenzoate(ブチルパラベン) 等のパラベン( -hydroxybenzoic acid (PHBA) alkyl esters)は,防腐剤として食品,薬,化粧品,洗面用品に広く使用されている.ラットを用いた長期投与による毒性試験の結果,ブチルパラベンを除く上記のパラベン類の混餌投与による無影響量が 20,000 ppm(体重あたりの摂取量に換算すると 1000 mg/kg)であったことから,食品添加物に関する FAO/WHO 合同会議において,ヒトの1日あたりの許容摂取量(ADI)はブチルエステルを除く他の3種のパラベン類の総量として体重あたり 0-10 ? と定められている (ただし,ブチルパラベンに関しては ADI を定めるための情報が不十分であると結論している).芳香環のパラ位に水酸基を有する化合物はエストロゲン活性を示す可能性が指摘されているなかで,Lemini らは CD1 マウスを用いた実験で PHBA の用量に依存して,幼若あるいは卵巣摘出動物の腟の角化亢進や子宮肥大がみられ,5 ?/? を3日間投与することで有意な変化が起こると報告している.一方,Routledge らは,酵母を用いた in vitro の系でパラベンはごく弱いエストロゲン作用を示し,その中でもブチルエステルのエストロゲン作用が最も強く,プロピル- ,エチル- ,メチルエステルの順に活性が弱くなることを明らかにし,さらに幼若動物あるいは卵巣摘出ラットを用いた in vivo の系ではブチルエステルを皮下投与した場合にのみエストロゲン作用が認められており,その強さは 17β-estradiol の1/100,000であると報告している.今回の実験では,Lemini の報告と Routledge の報告との間の矛盾点を解決するために,B6D2F1 マウスおよび Wistar ラットを用いて,メチル,エチル,プロピルおよびブチルパラベンのエストロゲン活性を子宮肥大試験により確認した.
 幼若の B6D2F1 マウスに,連続3日間,被験物質(100 mg/kg)を皮下あるいは経口投与し,24時間後に屠殺して子宮重量を測定した.その結果,いずれの被験物質についても 100 mg/kg までの量は,子宮重量を増加させるようなエストロゲン活性は示さなかった.一方,幼若の Wistar ラットに皮下投与した結果,600 mg/kg/day のブチルパラベンで弱いエストロゲン活性が確認された.ブチルパラベンは経口的に摂取されると速やかに PHBA とアルコールに分解され,すみやかに排泄されることが知られており,さらにエストロゲン活性がみられたブチルパラベンの量は著しく高い濃度であることから, パラベンは in vivo では強いエストロゲン活性を示さないと結論される.しかしながら,エストロゲン様作用を有する物質は,胎児期に曝露すると雄の生殖器に異常を来たす可能性が指摘されていることから,パラベンを食品添加物などに使用するには,より適切な時期に投与して安全性を確認する必要がある.


「胎児期にビスフェノールAを投与されたラットの行動」
Perinatal exposure to the estrogenic pollutant bisphenol A affects behavior in male and female rats
Farabolline F1, Porrini S1, Dessi-Fulgheri F1,2
(1Siena 大学 人体生理学部, Siena, 2Florence 大学 動物生体・遺伝学部, Florence, Italy)
Pharmacology Biochemistry and Behavior 64 : 687-694 (1999)
Key Words : ビスフェノールA/胎児期曝露/行動/注意力の低下


 脳の性が決定される胎児期にエストロゲンを曝露すると,性ホルモンが関与する行動に変化が生じる可能性が示唆されている.しかし,行動は,様々な過程を経て起こる最終的な表現形であることから,単純な検査でその影響を捕らえることは難しい.特に,齧歯類では胎児期の性ホルモンが生殖行動や様々な行動に影響を与えており,雌においては幼若期の同居動物からも影響を受けることが知られている.
 ビスフェノールAは,重要な環境エストロゲン様物質であり,環境中に広がっているだけでなく,ヒトが口にする可能性のある物質である.ビスフェノールAは,妊娠マウスに投与すると,生まれた雄マウスに生殖器の形態異常や生殖障害を来すことが報告され,同著者は,縄張り行動にも影響を及ぼすことを報告している.  本実験では,ヒトに曝露する可能性のある低濃度のビスフェノールAをラットに投与した群,すなわち,40 μg/kgのビスフェノールAを交配前から妊娠期および授乳期を通して,子が離乳するまで投与した低用量群と,ラットでは脳の性分化に最も重要な時期と考えられている妊娠14日から哺育6日までに 400 μg/kgのビスフェノールAを投与した高用量群を設け,さらに対照として油を低用量群と同じ期間投与した群を設定した.生まれてきた子ラットは生後21日に離乳させ,投与群および雌雄を混在させた状態で暫く飼育し,行動検査の3週間前から雌雄別に飼育した.行動検査は生後85日に2種類の検査法を用いて行った.一つは「ホールボード」と呼ばれる検査で,63×63×43 cm の箱に直径 3.8 cm の穴を4つ空けた装置に動物を5分間入れて,頭を上下に動かす回数,毛づくろいの回数などを数えて,活動性や探索行動の指標とした.もう一つは「エレベータ・プラス迷路」と呼ばれる試験で,2つのオープンアーム(枠のない細長い板,50×10 cm)と2つのクローズドア−ム(高さ 34 cm の枠付きの細長い板,50×10 cm)が中央で十字に交わった走路を,地上から 60 cm の位置に設置して,アームが交わった部分に動物をおいてから5分間,それぞれのア−ムに入った回数および時間を計測して,活動性と注意性を観察した.
 その結果,ホールボード試験では,毛づくろいの回数が雌雄に関係なくビスフェノールAの投与群で増加し,頭を上下に動かす回数および立ち上がり回数はビスフェノールA投与群の雌のみで減少した.エレベータ・プラス迷路では,オープン・アームに滞在する時間がビスフェノールA投与群の雄で長くなり,ビスフェノールA投与群の雌では両方のアームに入った回数が減少した.今回の実験では,予想に反して,雌の雄化した行動は観察されなかった.雄でエレベータ・プラス迷路でのオープン・アームに滞在する時間が長くなったことは,緊張度の低下を意味し,ビスフェノールAの投与により雄の注意力の低下が示唆された.雌では,同様の変化がみられなかったが,ホール・ボード試験で活動性が低下したことや,オープン・アーム迷路でアームへの入る回数が減少したことから,ビスフェノールAの投与により一般的な活動量の低下が示唆された.今回の実験では,低用量群と高用量群に分けて実験をしたが,両群間に明らかな差はみられなかったことから,低用量の長期曝露は,脳の性分化に最も重要な時期に高用量を曝露することで代替できると考えられた.


「生殖毒性物質の標的にされるセルトリ細胞」
Sertoli cells as a target for reproductive hazards
Monsees TK, Franz M, Gebhardt S, Winterstein U, Schill W-B, Hayatpour J
(Justus Liebig 大学, 皮膚科・男性病科センター, Giessen, Germany)
Andrologia 32 : 239-246 (2000)
Key Words : 環境汚染/重金属/エストロゲン/殺虫剤/生殖毒性


 過去50年間以上にわたる調査で精子数が漸減し,精巣癌,尿道下裂や停留精巣が増加してきたことが注目を浴びており,環境汚染物質への曝露がこれらの変化の一因かもしれないと考えられている.精巣には,精子形成において重要な役割を担っているセルトリ細胞が存在しており,生殖細胞に栄養やホルモンを供給するほか,血液精巣関門を形成している.セルトリ細胞は胎児期,新生児期および思春期前にのみ増殖するが,この細胞の増殖は下垂体からの FSH により調節されており,増殖期に外因性エストロゲンに曝露されると FSH 分泌が減少し,セルトリ細胞の増殖が抑制される.それぞれのセルトリ細胞は限られた数の生殖細胞しか支持する事ができないため,セルトリ細胞数の減少が精子数の減少に直接つながる.一方,セルトリ細胞を標的とする毒物が知られており,それらには,シスプラチンのような化学療法剤,ゴシポールのような薬物,フタル酸エステルのような可塑剤,アルキルフェノール,ヘキサン,ヘキサノン,ジニトロベンゼンなどの有機溶剤,リンデンや DDT などの殺虫剤,重金属特に鉛やカドミウムが含まれる.この研究では,培養したラットセルトリ細胞の生存能,ミトコンドリア脱水素酵素活性,乳酸塩産生,セルトリ細胞特有ホルモンであるインヒビンB分泌に対する,様々な毒物,殺虫剤リンデンおよび DDT,重金属イオンの水銀およびシスプラチン,エチニルエストラジオール (EE) およびビスフェノールA (BPA)の影響を調べた.
 その結果,リンデン,DDT,EE,BPA はセルトリ細胞の生存能に影響を及ぼさなかったが,水銀およびシスプラチンには細胞毒性がみられた.DDT を除き,調べた全ての化学物質をセルトリ細胞に24時間曝露すると,乳酸産生が用量依存的に増加した.20μM 以上の水銀は細胞毒性により乳酸レベルを低下させた.リンデン,EE,BPA はセルトリ細胞特有ホルモンであるインヒビンBの産生を有意に増加させたが,水銀およびシスプラチンはインヒビンレベルを著しく減少させた.  殺虫剤 DDT を除き,この研究での全ての化学物質が,細胞毒性を示さない濃度でセルトリ細胞による乳酸塩の産生を亢進させた.精母細胞を標的とする毒物,ethylene glycol monomethyl ether やその代謝物 methoxyacetic acid などは,培養セルトリ細胞による乳酸塩産生に影響を及ぼさなかった.このことから,セルトリ細胞による乳酸塩産生の増加は,セルトリ細胞毒曝露に対する感度の高い,特異性のある反応であると思える.
 セルトリ細胞は蛋白ホルモン,インヒビンを産生し,ネガティブフィードバックにより下垂体前葉からの FSH の分泌を調節する.水銀およびシスプラチンは,セルトリ細胞により産生されるインヒビンBレベルを劇的に低下させた.この著しい抑制は,水銀あるいはシスプラチンがセルトリ細胞の生存能をわずかに傷害するに過ぎない低い濃度で既に起こっている.
 以上のことから,セルトリ細胞の初代培養は精巣毒性の評価に有用であり,幼若ラットのセルトリ細胞による乳酸およびインヒビンBの分泌は,セルトリ細胞毒を調べるための役に立つ感度の高いマーカーであることが明らかとなった.


「環境化学物質と性比の変化:1751年から1997年までのフィンランドにおける調査報告」
Environmental chemicals and changes in sex ratio: Analysis over 250 years in Finland
Vartiainen T1,2, Kartovaara L3, Tuomisto J4,5
(1国立公衆保健研究所 環境衛生部, 2Kuopio 大学 環境科学部, Kuopio,
3フィランド統計局, 人口統計部, Helsinki, 4国立公衆保健研究所 環境医学部,
5Kuopio 大学 公衆衛生・地域医療部, Kuopio, Finland)
Environmental Health Perspectives 107 : 813-815 (1999)
Key Words : 高度産業発達/男女人口比/殺虫剤/ダイオキシン/PCB


 近年,環境化学物質の汚染が男性人口の減少に関連しているといわれているが,これらの推察は数十年の統計に基づいたものにすぎない.性比は夫婦間の年齢差,両親の年齢,性周期内での受精時期,出産数,ホルモン療法に影響すると考えられているが,本論文ではフィンランドにおける1751年〜1997年までの新生児のデータを解析し,出産時の性比(男性/女性)が環境要因に起因するかを検討している.

(1)フィンランドにおける1751年〜1997年までの男児数の推移
 フィンランドの出生数は,1751〜1904年の間は年間平均20,519人であったが,1946〜1950年では年間平均104,716人に増加した.男児出生率は1920年ごろまで増加し,その後減少傾向を示した.男児数のピークは,第一次世界大戦と第二次世界大戦の間および戦後に認められた.また,1970年代の初期にも増加した.流産を含む死産率は1861〜1870年では年間平均2.98%であったが,1991〜1995年の間では0.4%と著しく減少した.しかし,フィンランドにおける新生児死亡のうち男児が占める割合は,1921〜1995年を通して常に0.566〜0.579であった.

(2)両親の年齢
 25歳以下で出産した母親の比率は1921〜1930年では全体の0.251であったが,1961〜1970年には0.433に増加し,その後,1991〜1995年には0.196に減少した.1960年代に若年層の母親数のピークがあったが,同時期に認められた男児出生率の増加との関連は見出せなかった.1990〜1997年の集計結果から,親の年齢や父親と母親の年齢差と男児出生率との間には関連はなかった.さらに,産児数の影響を除くために第一子のみを対象として性比を調べたが,親の年齢と男児数の間に相関性はなかった.しかし,母親の経産回数が増えると男児数が減少する傾向が僅かに認められた.

(3)ホルモン療法
 フィンランドでは1900年代初期に分娩誘発剤としてホルモン療法が導入された.ピルの使用は1960年代になってからで,1965年から排卵誘発剤であるクロミフェンが不妊治療薬として使用されている.その後,1972〜1973年に男児数の増加がみられ,この時期には出産率の減少(1972年;1.27%,1973年;1.22%)が認められた.また,1971〜1975年における第一子の男児出生率は,この前後の時期(1960年;35.5%,1981〜1985年;40.1%)と比較して50.6%と高い値を示した.

(4)産業発達
 第二次世界大戦以前,フィンランドは伝統的な生産手法を用いた農業国で,ほとんど食料の輸入はなかった.1950年以降,産業の発達とともに農薬の使用が増加し1980年にはピークを迎える(それ以降,農薬の利用は減少している).林業はフィンランドの重要な産業の1つであったが,これに伴う公害問題も深刻であった.散布された農薬は土砂に浸みこみ,木材を運搬する水路からバルト海へ土砂とともに流出した.この土砂には polychlorinated dibenzodioxins や polychlorinated dibenzofurans (PCDDs/PCDFs) が含有されていた.流出した土砂中に農薬が含有していたという報告時期と農薬の使用時期は一致していた. PCDDs/PCDFs や polychlorinated biphenyls (PCBs) は,まず魚類,とくにバルト海に生息するニシンに蓄積し,その濃度が一番高い時期は1970年代であった.しかし,この時期には男児数の減少は認められず,むしろ増加していた.スウェーデンにおいても, 1970年以降,DDT, PCBs, dioxins, hexachlorobenzene といった分解しにくい化学物質の乳汁中の濃度は減少している.一方,環境化学物質の使用が少ない時期にもかかわらず,1950年以降,フィンランドを含むスカンジナビア各国や中央ヨーロッパで男性人口の減少が認められた.環境化学物質がヒトの内分泌機能に影響し精子数を減少させるという学説もあるが,フィンランドでは精子数の減少は中央ヨーロッパと比較して少ない.フィンランドのような農業国が産業の発達に伴い,環境が急激に変化した場合,性比に影響すると考えられる環境因子を検出することは困難である.
 1976年にイタリアのセベソで事故により大量のダイオキシンが放出し,男児出生率が減少した.この現象は限局された地域において認められた.また,ステロイドホルモンの代謝に関与するミクロソーム中の酸化酵素の誘導が観察されていることから,高濃度のダイオキシン曝露により男児出生率が減少したと考えられる.しかし,同様に台湾で起こった事故による高濃度の PCBs と PCDDsの複合曝露は性比に影響しなかった.  1751年,ドイツやニュージーランドでは男児数が減少している.18,19世紀の東部の国では煙突がすべての家になかったが,室内の煙が環境要因として男児数の減少に関与している可能性が考えられる.また,喫煙やアルコール摂取,職場や車内での過剰な暖房,ぴったりした下着の着用などの生活スタイルの変化は,公害を含む環境因子と同様に性比に影響する要因であるかもしれない.

(5)戦争
 ヨーロッパでは戦争時に男児数のピークが見られている.スカンジナビア諸国のノルウェーでは1940年代にピークがあったが,戦争に参加しなかったスウェーデンではピークはなかった.フィンランドでは第一次世界大戦 (1914-1918年) と第二次世界大戦 (1939-1945年) の間および戦後に男児数の増加が認められている.1751年から1920年に長期的に男性数の増加が認められ,近年では1850〜1920年に男児数が増加している.デンマークでも同様な傾向が認められたが,1901〜1950年と期間は短く,年代も近年になってからであった.
 本調査結果から,農薬あるいは産業化学物質の曝露による性比への影響を検出することはできなかった.また,両親の年齢,妊娠年齢,両親の年齢差,産児数といった家族要因と過去の男児数の推移との関連も明らかにされなかった.