食品・薬品安全性研究ニュース第43号目次 |
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喫煙は糖尿病発病の誘因となるか?−大規模コホート調査の結果− Cigarette smoking and diabetes mellitus: evidence of a positive association from a large prospective cohort study Key Words : 糖尿病/喫煙/前向き調査 著者らは喫煙と糖尿病の因果関係について調査するため,1959年から1972年まで,米国癌学会によって実施された100万人以上を使用した大規模コホート調査の結果を解析し,男女とも1日2箱以上の喫煙を習慣とする被験者では,糖尿病のリスクが上昇することを明らかにした. 米国癌学会による Cancer Prevention Study 1 は,発癌の危険要因を明らかにする目的で,1959年10月から1960年3月まで,アメリカ25州で男性45万3,872人,女性58万9,811人を対象に実施された.この時,対象者は30歳以上で,個人の趣向や病歴等について質問されている.その後,1961年,1963年,1965年と追跡調査され,最終的には1972年まで調査が続けられている.本報告ではこの調査を基に,喫煙者 (男性4万8,199人,女性8,663人) と糖尿病の罹患(男性1万75人,女性1万753人)の関係について調査している.その結果,男女とも喫煙量が多い層は平均年齢が低く,肥満もしくは肥満傾向にあり,黒人より白人の方が,また,運動量の少ない人でヘビースモーカーが多くなる傾向が認められた.また,男性では脂肪の多い食事を好み,女性では多量の飲酒をするものが多かった. 各喫煙量の全対象者を平均すると,男女とも1日1箱(20本)以上の喫煙者は非喫煙者に比較して約2割 (男性19%,女性21%) 糖尿病に罹患するリスクが高く,1日2箱 (40本) 以上喫煙する被験者ではさらにこのリスクが高まった (男性45%,女性74%). また,肥満あるいは肥満傾向は糖尿病の危険因子であるが,喫煙はこれを増悪させた.即ち,肥満傾向 (体脂肪率25%以上30%未満) の喫煙をしない男性では,糖尿病のリスクは非喫煙男性の1.83倍であり,肥満 (体脂肪率30%以上) の喫煙をしない男性での糖尿病のリスクは男性平均の3.56倍であったが,1日2箱以上喫煙する男性被験者では,肥満傾向の場合2.56倍,肥満の場合には5.24倍のリスクがあった.同様の傾向は女性でも認められた. 1年当たりの喫煙箱数で統計すると,年10箱以上20箱未満の喫煙者のリスクはほぼ平均並みであったが,年間60箱を上回る喫煙者は1.40倍にまでリスクが増加した.また,禁煙期間によるリスクの推移をみると5年以下の禁煙ではリスクは依然として高かった (非喫煙者の1.20倍) が,5年以上10年未満の禁煙では軽減し (1.12倍),10年以上の禁煙ではリスクは非喫煙者並み (0.99倍) であった.女性でも5年以上の禁煙でリスクは軽減した. 喫煙による糖尿病罹患リスク上昇のメカニズムは体脂肪の変化や膵臓への直接の毒性によると考えられるインスリン耐性の上昇や脂肪や骨格筋細胞中へのグルコース輸送の変化等が提唱されているが明らかではない. 本報告の結果には,基になった調査の糖尿病の判定が自己診断であり喫煙者と非喫煙者にバイアスがかかっていた可能性が考えられることや,社会情勢の変化により喫煙者が減少したり,タバコに含まれるタールやニコチン量が変化したこと等の問題点は含まれるものの,1日2箱以上といった大量の喫煙が糖尿病のリスクを増加させる可能性は示されていると考えられる. International Epidemiological Association 30 : 540-546 (2001) Will JC1, Galuska DA1, Ford ES1, Mokdad A1, Calle EE2 (1疾病管理予防センター, 米国国立慢性病予防・健康増進センター, 2米国癌学会, Atlanta, GA, USA) 大気汚染と心血管病リスク Air pollution and blood markers of cardiovascular risk
Environmental Health Perspective 109 (Supple 3) : 405-409 (2001) Schwartz J (Harvard 大学 公衆衛生学科 環境保健, Boston, MA, USA) ダニとネコアレルゲンおよびエンドトキシンの室内曝露と呼吸器症状の関係 Respiratory symptoms in relation to indoor exposure to mite and cat allergens and endotoxins
調査は,ドイツの2都市,エルフルトおよびハンブルグで25〜50歳の有症者と非有症者の計405名を対象に,問診と対象者宅のダストサンプル中のアレルゲンレベルを調べ,これらの関係を解析した.この有症者は,European Community Respiratory Health Survey (ECRHS) の条件に従って,(1) ECRHS の設問に従って内科医が喘息と診断した場合,(2) 牧草,カバノキ (花粉),ネコのふけ,ダニ (Dermatophagoides pteronyssinus),および真菌 (Cladosporium herbarum) のうち少なくとも一つの特異的血清 IgE 抗体が陽性である場合,(3) スキンプリックテストにおいて同様の抗原に対し少なくとも一つが陽性である場合,(4) 1秒間努力呼気量が 2.0 mg 以下のメサコリン誘発試験で20%低下する場合あるいは気管支拡張薬が有効な場合のどれか一つ以上に該当する者とした. アレルゲンとエンドトキシン含量 本研究においては,ダニ抗原として Dermatophagoides pteronyssinus (Der p 1) 抗原と D.farinae(Der f 1)抗原を調べたが,ハウスダスト中には後者が前者の2〜3.5倍多く含まれていた.また,マットレス中の含量が居間の床より5〜6.5倍多かった. 過去12か月間,ネコを飼育していた家庭は,15.6%に過ぎなかったが,97.5%の家庭からネコ主要抗原(Fel d 1)が検出された.他の報告でも,ネコのいない家庭のハウスダストからも呼吸器症状を引き起こすレベルの Fel d 1 が見出されている.また,ネコアレルゲン含量は,寝室より居間のレベルが高かった. ダニアレルゲンと呼吸器衛生 本研究では,ダニアレルゲンの濃度を高低のみに分類したため,段階的増加に伴う喘息発作および呼吸器症状の変化をとらえられなかった.ハウスダスト中のダニアレルゲン (Der p 1 + Der f 1) が 10 _g/g (1 gのハウスダストあたり,以下同様) を超える場合,また,Der f 1 だけで 10 _g/g を超える場合が,呼吸器症状における危険因子と判断され,後者の方が影響が強かった.Der p 1 単独では危険因子とはならなかった.Der p 1 と Der f 1 は抗原としての生物学的性状は類似しているのだが,このような結果が得られたのは,調査対象地域では Der f 1 が優勢種であるからかもしれない. ネコアレルゲンと呼吸器衛生 Fel d 1 が 8 _g/g を超えるレベルは,感作されていない者に対しても夜間の咳の危険因子と判断され,感作されている者に対しては喘息発作と呼吸器症状の危険因子と判断された.これらの判断結果は,ネコの飼主の場合における他の報告と同様であった.また,ネコのふけに対するスキンプリックテスト陽性者は,喘息の発症に関し,陰性者やネコを飼育していない者に比較して顕著に危険性が高かった.なお,成人における Fel d 1 と喘息の重篤度との関係はネコアレルギーの有無に関わらず認められなかったが,冬季の寒気を伴わない咳,夜間の咳,夜間の無呼吸の危険性はネコアレルギーに対する感作に関わらず高まったという報告がある. エンドトキシンと呼吸器衛生 ダニアレルゲンに感作された者において,ハウスダスト中のエンドトキシン含量が,喘息の重篤度を決める重要な因子であるとの報告がある.未公表データでは,マットレス中のエンドトキシンが呼吸器に影響を及ぼすようなことは直接的には高濃度アレルゲンレベルの補因子としても認められなかった.しかし,高エンドトキシン環境下の者は,喘息発作および呼吸器症状の頻度が増す傾向があり,マットレスダスト中のダニおよびネコアレルゲンと居間の床におけるダスト中のエンドトキシンの間には弱いが確かな相関性がみられた.もし,マットレスダスト中のエンドトキシンを測定していれば,これとアレルゲンが強く相関し,この相関により感作されていない者でさえ,症状の危険性が増加することを説明できるかもしれない. ダニとネコアレルゲン混合物と呼吸器衛生 高濃度のいずれかのアレルゲンに曝露された者の危険率に比較して,高濃度の両方のアレルゲンに曝露された者は危険率が高く,感作されていない者の7倍の危険率であった. European Respiratory Journal 18 : 553-563 (2001) Gehring U1,2, Heinrich J1, Jacob B1, Richter K3, Fahlbusch B4, Schlenvoigt G4, Bischof W5, Wichmann H-E1,2, for the Indoor Factors and Genetics in Asthma (INGA) Study group (1ドイツ国立環境衛生研究センター, 疫学部, Neuherberg, 2Ludwig-Maximilians 大学 Munich 校 生物統計学・疫学部 医療情報管理部, Munich, 3Grosshansdorf 病院 肺疾患研究所 呼吸器学・胸部外科センター, Grosshansdorf, 4Friedrich-Schiller 大学 Jena 校 臨床免疫学教室, Jena, 5Friedrich-Schiller 大学 Jena 校 職業・社会・環境医学教室, Erfurt, Germany) ホルモンは脳の性分化に影響を与える? The influence of hormones and hormone antagonists on sexual differentiation of the brain Key Words : 生殖行動/性行動/性分化 古代ギリシャの哲学者であり科学者である Empedokles による“温度仮説”に始まり (紀元前460年),アリストテレス(紀元前384〜322)が,羊や山羊の受胎時に南風が吹くと雄,北風が吹くと雌が生まれやすいと考えていたことなど,古くから男女を決定づける胎生期の要因は何であるかが議論の的となっている. 近年になって,カエル (Piquet, 1930),トカゲ (Short, 1982),カメ (Pieau, 1975) 等では,温度によって性の決定が左右されることが明らかにされた.その他,カエルでは性の決定に水中のカリウム,カルシウム・イオン濃度が影響を与えることも明らかにされている.哺乳類でもY染色体が発見され,性は基本的には遺伝的に決定されていることが明らかとなっているが,生殖索,外陰部等の発達は胎生期のホルモンによって影響を受けることが知られてきた. ホルモン分布,性行動,社会行動等男女で異なる機能は,その多くが脳によって制御されており,構造的にも特に前視交叉領域で著しい雌雄差がみとめられることが,ヒトを含む多くの動物で明らかにされている.特に性的二型核 (SDN-POA) と呼ばれる神経核は雌に比較すると雄の方が数倍大きく,その大きさは性分化の重要な時期である妊娠後期のホルモン環境に依存している. 脳の構造と機能の性分化に関する研究は,この30年間に著しく進歩した.この間,ラットでは生前の数日と生後約10日間に性ホルモンに対し高い感受性を示し,雌ではアンドロゲンあるいはエストロゲンにより性腺刺激ホルモン放出因子 (GnRH) の放出が永久的に失われ,性行動に雄化がみられること,一方,新生児期に去勢すると,テストステロンに対する反応が消失し,雌化が認められることが明らかになった. 性腺刺激ホルモン(GTH) は,性成熟に達すると脳の前視交叉領域および視床下部基底領域の支配により雌では周期的に,雄では持続的に分泌される.生後早い時期にテストステロン,あるいは大量のエストロゲンを投与された雌の GTH 分泌様式は持続型に変化し,新生児期のテストステロン単回処理により,性的二型核の容積は増大し,この変化は成熟後も持続する.一方,胎生期あるいは新生児期に抗アンドロゲン処置をされた雄の GTH は周期的に分泌され,新生児期に去勢された雄あるいはエストロゲン活性物質を投与された雄では半永久的に性的二型核の容積が減少する.しかし,a)雄ラットでは,合成エストロゲン diethylstilbesterol を投与すると SDN-POA の容積が増加すること,b)出生前後にアンドロゲン拮抗剤酢酸シプロテンを投与された雄ラットの生殖器官は雌型になるが SDN-POA の容積は対照雌とほぼ同じ大きさに減少すること,さらにタモキシフェンは細胞内のエストロゲン受容体と結合して,エストロゲンの取り込みを抑制することなどから,SDN-POA の分化はアンドロゲンよりはむしろエストロゲンによって制御されており,特に脳内でのアンドロゲンのアロマティゼーションに依存していると考えられている. SDN-POA はアドレナリン作動性神経支配を受けており,セロトニン様あるいはアドレナリン様神経作動の変化は,SDN-POA の発達分化に強い影響を与え,例えばα2受容体刺激薬クロニジンは雌ラットの SDN-POA に対するテストステロンの作用を増強し,_2-受容体刺激薬サルブタモールは,雌雄いずれの,SDN-POA の容積をも増大させることが明らかにされている.その他,モノアミンオキシダーゼ阻害剤,オピオイドアルカロイド等も SDN-POA の発達・分化に影響を及ぼすことが明らかにされているが,コリン作動系,ドーパミン作動系による脳の成分化に対する影響については十分な研究成果が得られていない. これらの SDN-POA の発達・分化への影響に伴う機能的変化としては,前述の GTH および LH の周期的な分泌様式の変化,性成熟の遅延の他に,雄の騎乗行動,射精行動あるいは体躯前屈行動等性行動の変化が起きることも知られている. 以上の様に脳の多くの構造および機能は性的に二型を示し,特に周産期には性ホルモンあるいは神経伝達物質に対し高い感受性を示し,脳の構造および機能の発達,分化が影響を受けることが明らかにされている.特に雄の脳では SDN-POA の構造分化がエストロゲン作用に強く依存しているが,脳の性分化における神経伝導物質の関与および性ステロイドホルモンとの相互作用に関しては未知な点も多い.いずれにしても中枢神経系の性分化は,様々な内分泌および神経内分泌関連物質が時間的あるいは量的な相互作用により複雑に統合された過程を経て成立するものであり,組織発達・分化の過程で起きる環境要因によるホルモンバランスの微妙な変化が,性に関連した解剖学的あるいは機能的維持に永久的な変化を起こし得ると考えられる. Journal of Clean Technology, Environmental Toxicology, & Occupational Medicine 7(2) : 195-220 (1998) Dohler KD1, Jarzab B2 (1Pharma Bissendorf Peptide, Hanover, Germany; 2Silesian Academy of Medicine 一般外科クリニック, Bytom, Poland) ダイオキシンは器官培養されたヒトのケラチノサイトの分化を促進する 2,3,7,8-Tetrachlorodinenzo-p-dioxin alters the differentiation pattern of human keratinocytes in organotypic culture
そこで,TCDD のヒトの皮膚への影響を調べるモデル実験系を確立するため,ヒトのケラチノサイトの不死化細胞系である NIKS 細胞を,ヒト胎児線維芽細胞を含む Type 1 コラーゲンゲル上に播種し,試験管内で3次元器官培養(three-dimensional organotypic culture)を行った.TCDD 存在下(10-8 M)で8日間および11日間器官培養を行い,培養によって分化した組織を観察したところ,培養11日目での非角質化層に対する角質化層(ケラチノサイトの分化を表す)の厚さの比率は,溶媒対照群(ジメチルスルホキシド処理)の0.57に対して,TCDD 処理群では1.6と高い値となった.しかし,培養8日目に溶媒対照と TCDD 群との間でケラチノサイト核の DNA 断片化や caspase-3 の発現に両群間で差はみとめらず,ケラチノサイトのブロモデオキシウリジン(BrdU) の取り込みにも差がみとめられなかった.したがって,TCDD 処理群の角質化が TCDD によるケラチノサイトのアポトーシス促進および細胞分裂促進によるものとは考えにくい.このことから TCDD がケラチノサイトの分化そのものを促進する可能性を調べるため,ケラチノサイトの分化マーカーである filaggrin,involucrin,transglutaminase-1 および keratin 1 の発現を組織免疫学的手法を用いて調べた.その結果,keratin 1 以外のマーカーについては,両群間で分布の差異がみとめられた.とくに,filaggrin 発現は,溶媒対照群においては顆粒層内で均一にみとめられるが,TCDD 処理群では組織内で蛍光強度の強弱が異なっており,加えてその発現は基底層の細胞にまで至った.また,involucrin については,溶媒対照では基底層よりも上層の細胞で発現がみられるが,TCDD 処理群では基底層のケラチノサイトにおいても発現がみとめられた.また,transglutaminase-1 の発現パターンも溶媒対照群と比べて TCDD 処理群では不規則であり,これは細胞膜の崩壊が TCDD 処理群において顕著であることを意味する.これらの発現パターンの違いは,TCDD がケラチノサイトの分化そのものを促進することを示唆している. TCDD や他の芳香族炭化水素が,細胞膜上のレセプター(AhR)を介して遺伝子発現を誘導することについてはよく知られているが,具体的に TCDD 曝露からどの遺伝子が発現し,どのような経路を経て皮膚病変につながるのかについては今後の研究に委ねられる.試験管内におけるケラチノサイトの器官培養法は,それを調べるための強力なツールとなるであろう. Toxicology and Applied Pharmacology 175 : 121-129 (2001) Loertscher JA1, Sattler CA2, Allen-Hoffmann BL3 (州立ウィスコンシン大学 医学部 1病理学科, 2McArdle 癌研究所, 3環境毒性学センター, Madison, WI, USA) ポリ塩化ビフェニル (PCB) による胎児の骨格筋形成阻害について−3種のアロクロールで処理された培養筋芽細胞の試験管内分化について− Polychlorobiphenyls inhibit skeletal muscle differentiation in culture Key Words : PCB/アルクロール/筋芽細胞/発生 工業用化学物質であるポリ塩化ビフェニル (PCB) の分子種は,動物やヒトの神経系,免疫系,内分泌系,生殖系への毒性のみならず,発癌性も有するといわれている.また,発生期にある胚や胎児は PCB に対する感受性が高く,曝露された母親には影響が現れなくても,その子孫に深刻な影響をもたらす.そのひとつとしてよく知られているのが胎児および新生児の体容積の減少であり,PCB が胎児の骨格筋形成にどのような影響を及ぼすかを調べることは急務である. 本研究ではラット由来培養筋芽細胞の細胞系である L6 細胞に対する PCB の作用を調べた.この細胞は10%牛胎児血清を含む DMEM 培地で培養され,細胞がコンフルエントになる前に無血清 DMEM 培地(脂肪酸フリーの1%牛血清アルブミン,100 nM アルギニンバソプレッシンおよび 100 nM インシュリンを含む)に移されると筋組織への分化誘導が起こり,L6 細胞が融合して多核の筋管が形成される.しかし,PCB のひとつであるアロクロール1254(塩素含有量:54%)0.1-4 mg/mL 存在下で6日間培養すると,濃度依存的に L6 細胞の融合が阻害された.また,細胞溶解後の溶解液単位容積あたりの相対 DNA 量および顕微鏡1視野あたりの核数が,共に 10 mg/mL 未満の濃度でコントロールレベルの値を示したことから,アロクロール1254処理による L6 細胞の融合阻害は,アロクロール1254の細胞毒性による細胞密度の低下が原因ではないことが判明した. 次に,PCB による L6 細胞の融合阻害が L6 細胞の筋組織分化阻害によるものか否かについて調べるため,塩素含有量の異なる3種の PCB 分子種,すなわちアロクロール1232,1254および1262(塩素含有量はそれぞれ32%,54%および62%)存在下で L6 細胞を培養したところ,筋組織分化マーカーであるクレアチンキナーゼの活性が培養6日目で阻害され (p < 0.05),阻害の程度は塩素含有量に依存 (50%阻害濃度はそれぞれ 0.01 mg/mL,2 mg/mL および8mg/mL) した.更に,MLC3F/nLacZ トランスジェニックマウス(核局在性β-ガラクトシダーゼの発現プロモーターである myosin light chain 1/3-fast promoter が組み込まれたマウス)の胎児に由来する筋芽細胞を初代培養し,アロクロール1254で3日間処理(4 mg/mL)し,筋組織分化マーカーである核局在性β-ガラクトシダーゼの活性を X-Gal で染色後,顕微鏡下で観察したところ,β-ガラクトシダーゼが蓄積した核が減少したことから,PCB は MLC プロモーターの活性レベルを低下させることが示唆された. 上記の in vitro における筋芽細胞培養実験から,胎児(in vivo)における骨格筋形成阻害が PCB の細胞毒性効果によるものではなく,筋芽細胞の分化阻害によると推論された.加えて,PCB による培養筋芽細胞の分化阻害を低濃度で検出できるため,当実験システムは環境汚染レベルにおける PCB の生物学的影響を評価するために有効であると思われる. Toxicology and Applied Pharmacology 175 : 226-233 (2001) Coletti D1, Palleschi S2, Silvestroni L2, CannavA1, 2, Vivarelli E1, Tomei F3, Molinaro M1, Adamo S1 (La Sapienza 大学 医学部 1組織学発生学科, 2生理病理学科, 3法医学研究所, Rome, Italy) マウスにおけるトキシコプロテオミクス−ペルオキシソーム増殖因子ジエチルヘキシルフタレートによる肝臓への影響− Quantitative proteomic analysis of mouse liver response to the peroxisome proliferator diethylhexylphthalate (DEHP)
ペルオキシソーム増殖因子は脂肪酸結合蛋白質,アシル CoA オキシダーゼ等の脂肪酸輸送関連蛋白質やペルオキシソーム性β酸化酵素の調整に変化を与え,齧歯類においては肝細胞を増殖し,アポトーシスを抑制,肝腫瘍を誘発することが知られている,その作用の発現には,ペルオキシソーム増殖因子受容体α (PPARα) が介在することが知られており,実際,PPARα 欠損マウスでは,ペルオキシソーム増殖因子による肝腫瘍の発現は認められていない. 本報において著者らはペルオキシソーム増殖因子による肝腫瘍誘発の初期段階に関連した分子毒性学的プロファイルを明かにするために,ペルオキシソーム増殖因子の一つであるジエチルヘキシルフタレートの 1150 mg/kg を2日間にわたり経口反復投与した場合の,野生型マウスと欠損マウスの肝臓のプロテオーム解析を,二次元電気泳動法と質量分析法を用いて実施した. 肝腫瘍の発現はペルオキシソーム増殖因子への曝露の有無ならびに,PPARα の有無に依存しているので,解析はペルオキシソーム増殖因子および PPARα に関連した変化に焦点をあてて行なわれた.ジエチルヘキシルフタレート投与の有無あるいは PPARα の有無によって量が変動した蛋白質は全部で74種みられたが,このうち,スーパーオキサイドデスムターゼなど9種類の蛋白質の量は,ペルオキシソーム増殖因子の有無によって PPARα 欠損マウスにおいては変化したが,野生型では変化がなかったため,今回の検討に直接関係する蛋白質とは考えられなかった.一方,カタラーゼやグルタチオンSトランスフェラーゼ等,6種の蛋白質では,PPARα 欠損マウスを野生型マウスの間で発現量に差があり,この受容体により合成量が調節されている可能性が示されたが,いずれのマウスでもジエチルヘキシルフタレート投与による差は認められないことから,ペルオキシソーム増殖因子による催腫瘍性とは無関係であると考えられた.これらの蛋白質を除外した59種の蛋白質で,ペルオキシソーム増殖因子の有無によって合成量が変化したと考えられるが,これらの中には,フェニルアラニン4ハドロキシラーゼ,フルクトース1,6ジフォスファターゼなどの脂質,アミノ酸や炭水化物等の代謝酵素や,ミトコンドリア ATP シンセターゼ等のミトコンドリアのエネルギー産生系関連酵素さらにストレス応答関連酵素等,今までペルオキシソーム増殖因子との関連が報告されていなかった蛋白質が多く含まれていた.これらのデータは,ペルオキシソーム増殖因子に関連した新たな代謝経路の存在の可能性を示すものであり,齧歯類肝臓での非変異原性発癌過程における早期発現マーカーを見出せる可能性を示唆している. Archives of Toxicology 75 : 415-424 (2001) Macdonald N1, Chevalier S1, Tonge R2, Davison M2, Rowlinson R2, Young J2, Rayner S2, Roberts R1 (1Syngenta 中央毒性研究所, 2AstraZeneca Pharmaceuticals, Cheshire, UK) 抗腫瘍薬ドキソルビシン誘発心筋症で, エンドセリン-1と心臓性一酸化窒素が増加している Increased plasma endothelin-1 and cardiac nitric oxide during doxorubicin-induced cardiomyopathy
雄性ラットを,生理食塩液単回投与群 (対照群),ドキソルビシン単回投与群(5 および 20 mg/kg)およびドキソルビシン累積投与群 (用量 5 mg/kgを1日おきに投与し,総量が 10, 15, 20 および 25 mg/kg) の7群(1群10匹)に分け,それぞれ腹腔内投与した.最終投与から24時間後にエーテル麻酔下で心臓採血し,血清中 CPK および LDH,および血漿中エンドセリン-1および NO を測定した.また,採血後摘出した心臓をホモジナイズしてサンプルとし,心臓性 NO の測定に用いた. ドキソルビシン 10, 15 および 20 mg/kg の累積投与によって,エンドセリン-1がそれぞれ有意に増加した (85,76および97%).また,ドキソルビシン処置によって,CPK および LDH が用量依存的に有意に増加した.対照的に,ドキソルビシンによる心臓組織での NO 産性増加には,用量依存性がなく,10 mg/kg 累積投与で最大増加(81%)を示した.これは高用量のドキソルビシンを投与した場合には,ドキソルビシン-レドックスサイクルによって形成されたスーパーオキシドラジカルによって,心臓性 NO が高毒性のパーオキシナイトライトとなり減少したことによると考えられる.しかし,血漿 NO レベルは変化しなかったことから,心臓性 NO 増加は組織特異的であることがわかった.さらに,血漿エンドセリン-1と心臓性 NO がドキソルビシン 20 mg/kg 単回投与の24時間後に有意に増加した.従って,ドキソルビシンの累積投与によっても単回投与によっても,血漿エンドセリン-1と心臓性 NO の増加が観られることがわかった.以上をまとめると,心筋症の指標酵素の増加とともに,血漿中エンドセリン-1および心臓性 NO が増加することから,エンドセリン-1,心臓性 NO のどちらも,ドキソルビシン誘発心筋症の進行に伴って増加することが明らかとなった.しかし本研究では,ドキソルビシン誘発心筋症は心臓 NO や血漿エンドセリン-1の増加によるものであるのか,血漿エンドセリン-1と心臓 NO がドキソルビシン誘発心筋症の初期のマーカーであるのかは明らかにはならなかった.従って,心臓性 NO の蓄積阻害やエンドセリン-1作用の抑制が,鬱血性心不全や致命的なドキソルビシン誘発心筋症を含む心筋症の治療手段となりうるか否かについてはさらに研究が必要である. Pharmacology & Toxicology 89 : 140-144 (2001) Sayed-Ahmed MM1, Khattab MM2, Gad MZ3, Osman A-MM1 (1エジプト国立がん研究所 薬学班; Cairo 大学 薬学部 2薬理科 3生化学科, Cairo, Egypt) 既報の毒性試験論文中にもU字型用量反応曲線を示す例はこんなにたくさん存在する The frequency of U-shaped dose responses in the toxicological literature
評価はまず3つの雑誌(Environmental Pollution,The Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology,Life Sciences)の創刊号から1998年までの,すでに公表されている全ての文献 (Life Science だけは,論文があまりに莫大なため3〜4年おきの6年分の全論文にしぼっている) からデータベースを構築し,篩い分けを行なっている.この篩い分けは,まず,先の論文うち,総論,要旨,英語以外の言語による論文,疫学調査,フィールド調査を除外し,実験データを含む論文のみとした.また,対照群のない試験や NOAEL を下回る投与量群が2群以上無い試験,影響量が捉えられていない試験ならびに対照群を上回る成績を示す余地の無い試験も評価から除いた(例えば死亡率に関する検討の試験において,対照群の死亡率が0%である場合は,これを上回る成績がないため,たとえ低用量で死亡率を改善する効果があったとしてもこれを表現し得ない.そこで,こうした試験を評価から除いた).検索した全論文20,285のうち,およそ1%に当たる195の論文中の計668個の項目が評価の対象となったが,このうち,ホルメシス効果を示したと考えられる用量−反応関係は,86論文中に245項目あった.一方,疑陽性や疑陰性の含まれる確率を検討した結果,この結果への影響は否定された.各投与量を分析単位として,最小無毒性量以下の1,089用量について分散分析を実施した補足検討では,ほとんどのもので対照群と差は認められなかったが,19.5%に相当する213例に有意あるいはホルメシス効果のクライテリアに合致すると考えられる変化が認められ,疑陽性と考えられたものは僅か7例 (0.6%) であった.この検討の結果は,ホルメシス効果の存在を強力にサポートするものと考える. 本報の結果によれば,試験が厳密な基準に基づいて実施されていれば,ホルメシス効果は試験の種類,被験物質,測定項目を問わずしばしば出会う現象であることになる.本報での結果は試験計画やリスク評価法,用量設定上でも含蓄に富むものであり,用量反応関係を考える上で重要で,より進展した対処方策を提示しているものと考えられる. Toxicological Sciences 62 : 330-338 (2001) Celabrese EJ, Baldwin LA (州立マサチューセッツ大学 公衆衛生・健康科学部 環境衛生科学科, Amherst, MA) フランス人のダイオキシン曝露レベル Dioxins in adipose tissue of non-occupationally exposed persons in France: correlation with individual food exposure Key Words : ダイオキシン/食物摂取/脂肪組織 職業上の汚染との関連のないフランス在住被験者16名について脂肪組織 (皮膚脂肪腫部位) 中のダイオキシンレベルと食事経由ダイオキシンの1日摂取量(DDDI/kg)との関連を調査した.食事摂取のアンケートでは,肉類,魚類,牛乳,加工乳製品を含めた項目について調査を行い,これらの結果をもとに各人のダイオキシン1日摂取量を算出した.その結果,被験者の1日摂取量は,1.06〜3.31 PgI-TEQ/kg 体重(平均 2.05±0.72)であり,また,塩素化ダイオキシンおよびフラン類の脂肪組織中レベルはそれぞれ 18.5 および 76.9 pg I-TEQ/g 脂肪であった.ダイオキシン1日摂取量と脂肪組織中濃度には相関性は認められなかった. ダイオキシンの1日摂取量はおおかた,その国の工業開発程度に依存する面があり,フランス人の平均 DDDI/kg は工業国でないニュージーランドやフィンランドなどよりは高いが他の工業先進国(63-210 pgI-TEQ)と基本的には差がない.ダイオキシン曝露レベルの各国での違いは,食事に含まれる動物タンパクの割合の違いを含めて食事習慣の違いが主要因であり,フランスの場合は牛乳の消費量調査結果と一致している.一方,脂肪組織中のダイオキシン同族体組成は,特に総 TEQ に対する 2,3,7,8-TCDD の TEQ 値を占める割合が多い北米や日本のそれとは異なっているものの,ダイオキシン汚染が風を媒体として広がるヨーロッパ諸国全般の組成とはほぼ同じレベルである.また,脂肪組織中 PCDD/PCDFs レベルは,他の工業国のヨーロッパ諸国やアメリカとほぼ同レベルにあり,WHO 提言の耐用一日摂取量,1-4pg I-TEQ/kg/day の範囲内にあった.今回調査で得られたフランス人の曝露レベルは代表的なヨーロッパのバックグウンドデータと考えてよいと思われ,これらの値は化学工業関係の仕事に携わっている人達のレベルよりかなり低いものであった. これまでに事故によるダイオキシン汚染などの特殊な事情がヨーロッパで起こっているが,これらの事故が与えるバックグラウンドレベルへの影響は少なく,むしろ,食品製造産業の国際共通化にともなって,西ヨーロッパ諸国のダイオキシン曝露レベルはほぼ同じと思われる. 以上のような知見から,近年のヒトでのダイオキシンによる曝露源は主に食事由来であると推測している. Chemosphere 44 : 1347-1352 (2001) Arfi C1,2, Seta N1, Fraisse D3, Revel A2, Escande J-P2, Momas I1 (1UFR des Sciences Pharmaceutiques et Biologiques, Laboratoire d'Hygie et de Sante Publique, Paris,2Hopital Cochin, Servide de Dermatologie, Paris, 3Laboratoire CARSO, Lyon, France) |
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