食品・薬品

安全性研究ニュース

第47号



目次
  1. ヒトのダイオキシン重症中毒2例の症状と臨床検査所見
  2. シベリア・イルクーツク地方のダイオキシン曝露レベル
  3. イングランドおよびウェールズの魚食動物体内の臭素化ジフェニルエーテルレベル
  4. オランダ沿岸の難燃剤(臭素化ジフェニルエーテル)レベル
  5. 遺伝子組換え食品のアレルギー誘発性について
  6. 遺伝子組換え食品の臨床的リスク評価
  7. ハウスダストダニアレルゲンはヒトケラチン生成細胞に対して直接的な炎症誘発性はない
  8. 肉, 豆腐, および卵の煮物の調理時に生成する複素環アミン類量は加えるしょう油や砂糖の量により変わる
  9. 都市大気汚染に曝露する交通警官, タクシー運転手のリンパ球染色体異常
  10. 大気汚染微粒子とオゾンの同時吸入による動脈収縮




ヒトのダイオキシン重症中毒2例の症状と臨床検査所見
Severe 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) intoxication: Clinical and laboratory effects

Key Words : ダイオキシン/中毒/2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン (TCDD)/クロル座瘡 (chloracne)/2,4,5-トリクロロフェノール

 ダイオキシンは環境汚染物質であり, 化学工業やゴミの焼却から発生し, 食物連鎖を通してヒトに低レベルで蓄積する. 1976年イタリアのセヴェソ事故や1950年代ドイツ BASF のトリクロロフェノール工場の事故で TCDD が有毒物質として人々に知られるようになった. セヴェソ事故では, 何千人もの住民が汚染されたが, 20年間の観察でも約200例のクロル座瘡と急性期の軽度の臨床検査値の異常以外に健康への影響は報告されておらず, TCDD 曝露作業者の長期観察でも皮膚症状以外には影響が認められていない. ここでは, これまで報告された中で TCDD 曝露が最も高い成人女性2例の臨床経過と検査結果を報告する.
 (症例1)30歳女性. 1997年秋に織物研究所の新しい事務所に移ってまもなく始まった顔面中央部の炎症と座瘡を主訴に1998年3月ウィーン大学皮膚科受診. 臨床的に劇症座瘡が疑われ, メチルプレドニゾロン大量投与 (1 mg/kg/day) をしたところ, 翌週急性炎症は治まったが, 無数の小疱が耳介, 眼瞼, 外陰部といった通常劇症座瘡が見られない場所にも認められ, クロル座瘡を疑って検査したところ TCDD が血液脂肪 g あたり 144,000 pg というヒトで記録されている最高値を示した. これは全身量 1.6 mg となり, 25 μg/kg を投与された計算になる. 皮膚症状は漸次増悪し, 1年後には全身皮膚が炎症と疼痛を伴う小疱におおわれ, 新しい TCDD 中毒症状として掌蹠角皮症を併発した. 皮膚症状以外では, 1997年秋時点で嘔気, 嘔吐, 上腹部痛, 食欲減退が見られた. 血液脂質濃度の中等度上昇, 貧血 (正赤血球正色素性), 白血球増多症のほか, 免疫系, 内分泌系検査値に特記する変化はなく染色体異常はなかった.
 (症例2)27歳女性で症例1の職場の同僚. 1998年4月初診. 頬と耳介の多発性小疱があり, 症例1と同じく1997年秋から98年初めに胃腸症状があったという. 98年6月測定の血液 TCDD 濃度は 26,000 pg/g 脂肪, 曝露量は 6 μg/kg であった. コレステロールおよびリパーゼ値が正常上限, Bリンパ球数と比率の上昇, NK 細胞比率低下のほかに著変はなかった. 1年のトレチノイン局所塗布で皮膚症状は回復した.
 症例1, 2の職場の同僚30人の血中 TCDD 値を測定したところ, 男性2人, 女性1人で 856, 149, 93 pg/g と高い値が見られたが, いずれも症状はみられなかった.
 これらの症例の曝露原因については不明であるが, 職場のある研究室の流し, 排水槽から高濃度の TCDD が検出されていること, 両方の患者血液から低濃度の 1,2,3,7,8-PeCDD が同時に検出されたことから 2,4,5-トリクロロフェノールから TCDD が発生し, 経口的に曝露された可能性が考えられる. モルモットでの TCDD の LD50 は 0.6 〜 2.0 μg/kg であるが, 2症例はこれを上回る血中濃度値であったにもかかわらず, 臓器特異症状や検査結果の異常がなく, そうした異常がなくても高度の TCDD 中毒があることを臨床医は知っておくべきである.

Environmental Health Perspectives 109 (8) : 865-869 (2001)
Geusau A1, Abraham K2, Geissler K3, Sator MO4, Stingl G1, Tschachler E1
(1ウィーン医科大学 免疫アレルギー感染症部門皮膚科学講座, Vienna, Austria, 2Humboldt 大学 Charité 小児病院, 小児肺病・免疫病科, Berlin, Germany, ウィーン医科大学 3内科部門 血液学講座, 4産婦人科 婦人内分泌・生殖医学講座, Vienna, Austria)



シベリア・イルクーツク地方のダイオキシン曝露レベル
Levels of dioxins and dibenzofurans in breast milk of women residing in two cities in the Irkutsk region of Russian Siberia compared with American levels

Key Words : ダイオキシン/ジベンゾフラン/PCB/シベリア/母乳

 ロシアでは, フィンランド, 米国, ドイツ, 旧ソ連およびカナダなどとの共同研究によりヒト組織, 食物および環境試料中のダイオキシンを1988年以来モニターしている. ロシアにおける化学工場労働者とその子供たちの血中ダイオキシンレベルは高いが, 一般住民のダイオキシンレベルは米国やヨーロッパ住民より低いことが知られている.
 この研究では, シベリア東部イルクーツク地方の工業地帯で, 世界最大の淡水湖であるバイカル湖に隣接し, 化学工場, 石油精練所, 石油化学・生化学・製薬工場が数十年来操業している工業都市である Angarsk および Usolye-Sibirskoye 住民の1998年における母乳中ダイオキシンレベルを調べた. 1990年の調査ではイルクーツク地方住民のダイオキシンレベルは低かったが, 工業化がさらに進んだことやバイカル市およびバイカルスクの製紙・パルプ工場からのダイオキシン排出が懸念されていることから, 母乳を試料としてポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン (PCDD), ポリ塩化ジベンゾフラン (PCDF) およびダイオキシン様作用を有する PCB を GC/MS により測定した. 試料には, Angarsk と Usolye-Sibirskoye に5年以上住み, 職業被曝がなく, 喫煙せず, 通常の食習慣をもつ健康な初産女性ボランティアから提供された出産から6週間以内の母乳を用いた.
 これらの母乳中 PCDD レベルはシベリア, ウクライナおよび米国の工業地帯住民のそれと同程度 (6.1〜7 ppt) であったが, PCDF レベルは Angarsk および Usolye-Sibirskoye でそれぞれ 10 および 21.7 ppt と他の工業地帯の 2.3〜6.7 ppt よりはるかに高かった. 全 TEQ もそれぞれ 26.9 および 28.5 ppt で,この調査試料の中で最も高かった.次いで1993〜1994年のウクライナ (24 ppt), 1989年のシベリア (13.6 ppt), 1996年の米国 (11.4 ppt) の順であった.
 化学工場が少ないタイの母乳中ダイオキシンレベルは米国のそれより低く, イタリアおよびオランダの工業化の進んだ地域住民のレベルはイルクーツクの両都市より高かったが, PCDF レベルを比較すると, Usolye-Sibirskoye ではイタリアおよびオランダよりはるかに高かった. PCDF は PCB の夾雑物として多く存在することから, この地域における PCB の製造, 使用, 焼却との関連が疑われている.
 高レベルのダイオキシン曝露が化学工場地帯住民において普遍的事象なのか, あるいは, イルクーツク両都市の特有の事象であるかは不明である. ロシアやシベリアの他地域での曝露状況, 発生源の特定, ダイオキシン曝露に関連した健康影響などをさらに調査する必要がある.

Chemosphere 47 : 157-164 (2002)
Schecter A1, Piskac AL1, Grosheva EI2, Matorova NI3, Ryan JJ4, Füst P5, Päke O6, Adibi J7, Pavuk M1, Silver A1, Ghaffar S1
(1州立 Texas 大学 公衆衛生学部, Dallas, TX, USA; 2環境毒性研究所, Baikalsk, 3労働医学・人間生態研究所 環境衛生研究室, Angarsk, Russia; 4カナダ保健省 化学物質安全局, Ottawa, Ont., Canada; 5国立 North Rhine-Westphalia 食品・環境化学物質研究所, Müster, 6ERGO 研究所, Hamburg, Germany; 7Columbia 大学 公衆衛生学部, New York, NY, USA)



イングランドおよびウェールズの魚食動物体内の臭素化ジフェニルエーテルレベル
Polybrominated diphenyl ethers in two species of marine top predators from England and Wales

Key Words : 難燃剤/PBDE/ウ (鵜)/イルカ/生体汚染

 臭素化ジフェニルエーテル (PBDE) は家庭用・商業用プラスチック製品の大部分に難燃剤として添加されており, その多くは penta, octa および deca 臭素化体である. 難燃剤は世界中で使用されており, 1992年の消費量は60万トンで, そのうち15万トンが臭素化合物, 4万トンの PBDE のうち3万トンが BDE 209 である. また, この1年で12.1万トンの四臭素化ビスフェノールAと1.6万トンの臭素化シクロドデカンが生産された.
 PBDE は酸・アルカリや酸化・還元に抵抗性を示し, 環境中ではほとんど分解されず, 疎水性であるため残留性の高い化合物である. penta-, octa-BDE は北東イングランドで生産され, 英国全土で使用された. 初期の調査では生産地である Durham 州 Newton Aycliffe 下流の Skerne 川および Tees 川の底質に高濃度汚染がみられ, また, 北東イングランド Tees 湾のカレイやヒラメの肝臓に高濃度の BDE 47 がみられた. そこで, 魚を餌とする動物への蓄積を調べるために, 近海を群泳するニシンやカタクチイワシなどを餌とするイルカと海水および淡水産の魚を食べるウの PBDE 汚染状況についてを調査した. 1996〜1997年と1999〜2000年にイングランドで狩猟により捕獲されたウの肝臓および1996〜1999年にイングランドとウェールズの海岸に打ち上げられたイルカの脂肪を試料とした. 試料をホモジナイズ後, 脂肪を n-ヘキサンまた, 肝臓を n-ヘキサン/アセトン混液で Soxhlet 抽出し, アルミナおよびシリカゲルクロマトグラフィーで精製した. 肝臓では, さらに硫酸処理した後, ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーにより三〜八臭素化体を測定した.
 ウの肝臓およびイルカの脂肪中の BDE 14種の合計値はそれぞれ 1.8〜140 μg/kg および 0〜6,900 μg/kg 湿重量であり, BDE 47 の割合はそれぞれ24〜100%および39〜88%であった. イルカ胎児の値は母イルカの約60%であり, PBDE の胎盤通過性が示された. また, 成熟雄イルカの値は同年齢の雌より高い傾向があり, 授乳により PBDE が乳児に移行する可能性も示された.
 ヨーロッパ沿岸のウや北大西洋のクジラ類における PBDE による汚染の程度はさまざまであるが, 報告された汚染レベル最高値はほぼ同じオーダーであった. PBDE の急性毒性作用は低いとされているものの, その内分泌撹乱作用が疑われていることから, 今後さらに同族体個々についての環境での分布, 残留, 分解, 変換および毒性を明らかにすることが望まれている.

Chemosphere 46 : 673-681 (2002)
Law RJ1, Allchin CR1, Bennett ME1, Morris S1, Rogan E2
(1水産・環境・水生科学センター, CEFAS Burnham 研究所, Essex, UK; 2Cork 大学 動物学・動物生態学部, Cork, Ireland)



オランダ沿岸の難燃剤(臭素化ジフェニルエーテル)レベル
Levels of some polybrominated diphenyl ether (PBDE) flame retardants along the Dutch coast as derived from their accumulation in SPMDs and blue mussels (Mytilus edulis)

Key Words : 難燃剤/PBDE/体内蓄積/水域分布/イガイ

 家庭用品, 自動車内装や繊維製品中のプラスチックには安全性を考慮して難燃剤を浸み込ませてある. 1995年のオランダでは電気製品の20%に難燃剤, 臭素化ジフェニルエーテル (PBDE) または臭素化ビフェニール (PBB) が使われていた. PBDE は有機塩素系化合物と同様に疎水性で分解されにくく, BDE 47, 99, 153 は分子量が塩素化体より大きいにもかかわらず, イガイへの蓄積係数 (BAF) は PCB よりも大きい. また, 深海を移動するマッコウクジラにも PBDE が検出されることから, PBDE の汚染は全地球に広がっていることが推測される.
 地理的・経時的な汚染物質のモニタリングに無背椎動物を用いることは一般的であるが, 汚染物質の生体内濃度は曝露レベルだけでなく, その生物の代謝能を含めた生理的要因にも関連する. 最も使用頻度の高い DeBDE はニジマスに取り込まれにくく, また, スウェーデンの Viskan 川に生息する魚の BDE 209 の体内レベルはその川の底質中濃度と相関していない.
 本研究では水中・大気中の汚染物質サンプリング用に開発された半浸透性膜の濃縮装置 (SPMD) を用いてオランダ Scheldt 川河口と黒海沿岸の PBDE レベルについて調べた. SPMD は低比重ポリエチレン製の平板容器中に合成トリオレインを充填したものであり, 水中の疎水性化合物が濃縮できる装置である. 2月と10月に6週間ブイ (浮標) に係留した SPMD, PBDE 汚染のない水域から実験のため移し生育したイガイおよびブイに付着し生育した天然イガイにおける PBDE および PCB 量をガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーで測定した.
 海水中の BDE 47, 99, 153 レベルは2月と10月での季節差が小さく, 水域差もほとんどなかったが, BDE 209 レベルは Scheldt 川西沿岸で高く, 試料採取時期により4〜8倍異なった. 移植したイガイの体内の PCB および PBDE レベルは季節差が小さく, また, 天然イガイの体内のレベルのそれぞれ1/2および1/10であった. 移植イガイと天然イガイの体内レベルに著しい違いのある結果から, PCB や PBDE の汚染物質は移植後6週間ではイガイの体内への蓄積は未だ定常状態に達しないことを示している. 一方, BDE の体内への取り込みは, 体内の脂質の量や組成, 生殖, 摂餌などを含めイガイの生理状態の変化あるいは生息水域の汚染歴にも起因するため, その解析要因は複雑である.

Cemosphere 46 : 683-688 (2002)
Booij K, Zegers BN, Boon JP
(オランダ海洋研究所, Texel, The Netherlands)



遺伝子組換え食品のアレルギー誘発性について
Will genetically modified foods be allergenic?

Key Words : バイオテクノロジー/アレルギー/食品/構造相同性/消化性/摂取量/リスクの分類/熱安定性

遺伝子組換え作物
 遺伝子組換えにより害虫や除草剤に強い性質を作物に導入することは, 食品の生産性を向上させ, 食糧の安定供給に貢献するだけでなく, 農薬の使用量を減らすことにより, 食品中の残留農薬を減らし, 農薬の環境への影響を抑えることにも貢献する. これら生産者に利益をもたらす組換え作物 (トウモロコシ, ジャガイモ, ナタネ, ダイズ, ワタ, カボチャ, パパイヤ) は既にいくつか商品化されている. 一方, 消費者に直接利益をもたらす作物で市販されているものはまだ少ないが, 高オレイン酸ナタネ, ビタミンA強化米, アレルゲンを減少させた食品などが開発されつつある.
遺伝子組換え食品の安全性評価
 多くの先進国では組換え食品について商品化に先だって安全性評価を義務付けている. アメリカでは開発企業の自主評価に任されてきたが, FDA は近く義務化する予定である. 現在流通している組換え食品は, WHO, FAO や他の国際機関によって推奨されている方法により, 安全性が確認されている. 遺伝子組換え食品の安全性評価は, 新しく付加された性質による影響の検討と, 組換え食品が既存の食品と実質的に同等であることを確認することを基本としている. DNA は極めて消化され易いもので, どんなものに由来した DNA でも摂食して害になることは考えられない. また, 遺伝子の供与体および下の植物が有害物を含む場合は, 組換え食品中の有害物の濃度を測定し, 有害物が増加していないことを確認する. 既存の食品と実質的に同等でない場合は, さらに詳細な安全性評価が必要となるがその評価法は定まっていない. しかし, これまでそのような作物が作られたことはない.
遺伝子組換え食品のアレルギー誘発性評価
 1996年, IFBC (国際生命工学食品審議会: International Food Bio-technology Council) と ILSI (国際生命科学協会: International Life Sciences Institute) が作成し FAO と WHO の修正した決定樹方式は以下の1から4の順に検討し, 組換え食品のアレルギー誘発性について評価するものである. さらに, 2001年に FAO と WHO が召集したアレルギー評価法改良のための専門家会議でアレルギー誘発性評価において検討すべきとされた項目を5から7に示した.
1.
遺伝子の供与体
遺伝子の供与体を以下の三種に分類する. ピーナッツ, その他のナッツ類, ダイズ, コムギ, 乳, 卵, 魚, 甲殻類 (以上で食物アレルギーの90%を占める) は "アレルギー誘発性" に, その他の食品は "アレルギー誘発性が低い" に, 細菌, ウィルス, 雑草, 観賞用植物などは“アレルギー誘発性不明”に分類される.
2.
既知のアレルゲンとの構造相同性
供与体が "アレルギー誘発性不明" の場合は, 挿入遺伝子によって発現したタンパク質と既知の食物アレルゲンについて, 8個以上の隣接したアミノ酸配列が一致する部分がないか検索する.
3.
IgE との反応性
供与体が "アレルギー誘発性", "アレルギー誘発性が低い" とされた場合および2.で構造相同性が認められた場合は, 該当する供与体にアレルギーを持つ患者の血清 IgE と挿入遺伝子によって発現したタンパク質との反応を RAST などを用いて検討する. RAST で陽性の場合はアレルギー誘発性と判定される. RAST で陰性または擬陽性の場合はプリックテスト, 二重目かくしプラセボコントロールチャレンジテストを行う. このうちどちらかでも陽性となれば, アレルギー誘発性と判定される.
4.
物理化学的処理に対する安定性
供与体が "アレルギー誘発性不明" に分類される場合は, 既知のアレルゲンとの構造相同性に続いて, 発現したタンパク質の物理化学的処理に対する安定性が検討される. 加熱処理により変性しにくい, または人工胃液および人工腸液で消化されにくい場合は, アレルギー誘発の可能性ありとみなされる.
5.
タンパク質の発現量
この項目は決定樹には含まれていないが, アレルギー誘発性を考える上で重要な因子である. アレルギーを引き起こすタンパク質の量には閾値がある. したがって, 1回食事で摂取するタンパク質の量が閾値以下であれば, アレルギー反応を引き起こす可能性は小さいと考えられる.
6.
発現タンパク質の機能による分類
植物のアレルゲンは植物の特定の機能に関連するものであることが多い. 病原性関連 (PR) タンパク質であることが多いので, 特に注意してアレルギー誘発性を検討する必要がある.
7.
アレルギー誘発性予測のための動物モデル
現在のところアレルギー誘発性を評価できる動物モデルは確立されていない. 動物モデルが確立されたならば, 必ず評価法に加えるべきである.
遺伝子組換え食品の表示
FDA は遺伝子組換え食品がアレルギー誘発性である場合表示することとしているが, 表示方法は決まっていない. その食品がアレルギー患者にどの程度の影響が予測されるかを示す本質的な情報を表示する必要がある. 他の諸国も米国と同様の考えを採用している. 消費者団体からは, すべての遺伝子組換え食品について遺伝子組換え体である旨を表示させるようにとの要求が繰り返されているが, それでは一般的な表示になってしまい, アレルギー患者にとっては意味がないと考えられる.
スターリンクトウモロコシ事件
 スターリンク種という害虫抵抗性のトウモロコシに導入された土壌細菌由来の遺伝子がエンコードする殺虫機能のある Cry9C タンパクはアレルギー誘発性の記録はなく, スターリンクのアレルギー誘発性試験も陰性であったが, このタンパクが消化液処理に対して抵抗性があったため, 規制当局が食用としての許可を保留していた. しかし, スターリンクは飼料用として許可されていたため, 飼料用に作付けされたものが食用コーンに混入した. その結果, 食用としては許可されていないスターリンクを含む製品はすべて市場から回収されることなった. 今回の事件は, 混入の割合が小さかったことからも Cry9C タンパクによるアレルギーがおこる可能性はほとんどなかったが, 報道ではスターリンクがアレルギー誘発性であると扱われて消費者の懸念を増大させた. 遺伝子組換え食品のアレルギー誘発性の評価の重要性を認識させるものであった.

Journal of Allergy and Clinical Immunology 107 (5) : 765-771 (2001)
Taylor SL, Hefle SL
(州立 Nebraska 大学 食品アレルギー研究・情報プログラム, Lincoln, NE, USA)



遺伝子組換え食品の臨床的リスク評価
Clinical risk assessment of GM foods

Key Words : アレルギー/アレルギー感作/食品の安全性/遺伝子組換え食品

 穀物の品種改良や食糧生産に遺伝子操作 (遺伝子工学) を応用することは, 従来の農業技術の延長上にある. 植物ゲノムの解析と遺伝子クローン技術は, 特定の遺伝子を導入することにより目的とする特性を対象植物に組み込むことを可能にし, 穀物の品種改良を進展させた. しかし, 生産される遺伝子組換え生物 (GMO) の環境および医学的影響の問題もあり, 大きな関心が払われている. 1999年, 英国医師会は, 遺伝子組換え (GM) 食品についての抗生物質耐性, 毒性, およびアレルギー誘発性の後世代への伝播の観点から健康への影響の問題があると声明を出した.
 アレルギー誘発性の観点では2つの問題が挙げられる. 第一に, 既知の穀物アレルゲンが非アレルゲン性の穀物へ伝わる問題である. 1996年に牛の飼料用大豆の栄養価を高めるため, ブラジルナッツの 2S アルブメンタンパクがダイズへ導入されたときにこの問題が起きている. 2S アルブメンはブラジルナッツのアレルゲンであるが, 調査の結果, GM 大豆中のタンパク質にもそのアレルゲン性が新たに発現していることが報告された. 従って, ブラジルナッツアレルギーの患者は, GM 大豆に対しても IgE を介した免疫応答を示すようになった. こうした問題は予め IgE 結合試験を行なったり, 生産するタンパク質の物理化学的特性についての配慮, あるいは既知のアレルゲンデーターベース調査により防ぐことが可能であったと思われる.
 第二の問題は, 新たな感作性物質の出現である. 新しく生産したタンパク質がアレルギー感作を起こすかどうかは, そのアレルゲンの物理化学的特性を知る必要がある. ほとんどの食品アレルゲンは, 消化, 分解, 加水分解, 熱, あるいは pH により変化を受け難い分子量が10,000以上の糖タンパクである. 但し, フルーツアレルゲンではこれらの特性を有していなくてもアレルギーを誘発するものがある. また, アミノ酸配列解析テクノロジーにより甲殻類間についてのみ交差反応の予測が可能になっているが, 種が異なるような他のケースでは未だ応用できていない. また, 齧歯類を用いる試験ではタンパクのアレルゲン性の予測はできていない. 従って, 新しいタンパク質のアレルギー誘発性を予測できる実用的な方法はまだ無いのが現状である.
 1995年の国際連合食糧農業機関 (FAO) と WHO の専門家合同会議で, GM 食品の段階的な安全性試験を行うことが推奨された. アレルギー誘発性が確認されている食品の遺伝子が組み込まれた食品では, まず始めに, 固相イムノアッセイ (RAST 法, RAST inhibition 法, または ELISA 法) により臨床病歴のある14人以上の患者の血清について検査し, その結果が陽性ならアレルギーを誘発する可能性があるので, in vivo 試験で否定されない限りその食品に遺伝子のドナーについてラベルに表示をしなければならない. RAST が陰性または不確かな結果の場合, 14人以上のアレルギー患者に皮膚のプリックテストによる二重目かくしのチャレンジテストを行い食品の安全性を確認する.
 従来の植物の品種改良および食品加工法と比較すると, GM 食品生産に用いられる GM 技術そのものにはアレルギー誘発の恐れはなく, GM 技術では, 一つの遺伝子をホストに的確に導入することが可能であり, 発現するタンパク質の性状や配列が判るため, より正確で安全な方法といえる. さらに, GM 技術では米や大豆については, 既知アレルゲンを低アレルゲン性に換えることに成功している.

Toxicology Letters 127 : 337-340 (2002)
Lack G  (St Mary's 病院 帝国医学校 小児アレルギー・免疫科, London, UK)



ハウスダストダニアレルゲンはヒトケラチン生成細胞に対して直接的な炎症誘発性はない
House dust mite allergen exerts no direct proinflammatory effects on human keratinocytes

Key Words : 上皮細胞/Dermatophagoides pteronyssinus (ヤケヒョウダニ)/サイトカイン/ケモカイン/アトピー性皮膚炎

 Dermatophagoides pteronyssinus (ヤケヒョウヒダニ, 以下 DP) はアトピー性皮膚炎の誘引物質である. 多くの DP アレルゲンはプロテアーゼ類であり,気管支上皮細胞を刺激してサイトカインとケモカインを放出させることにより, 気道に炎症を引き起こす. 著者らは DP アレルゲンが皮膚のケラチン生成細胞に対しても同じように作用するかどうかを調べた.
 健康な人,あるいはアトピー性皮膚炎患者のケラチン生成細胞および正常な気管支上皮細胞の初代培養液を用い DP 抽出物に対するサイトカイン [特に,サイトカイン IL-1_,IL-1 受容体アンタゴニスト (IL-1ra), GM-CSF, およびケモカイン IL-8/CXCL8,RANTES/CCL5, 単球遊走タンパク1(MCP-1/CCL2), および 10kd (IP-10/CXCL10) の IFN-γ-誘導タンパク質] の生成について比較した. ケラチン生成細胞は気管支上皮細胞と異なり, DP 曝露後,用量依存的な IL-1_ および IL-1ra の放出を示したが, それらの mRNA の誘導は起こらなかった. しかしながら DP はまた,これらのサイトカインを分解した. 一方, DP 抽出物は気管支上皮細胞に IL-8/CXCL8 および GM-CSF の mRNA およびタンパク質の発現の増加を誘発したが, それはケラチン生成細胞では起こらなかった. DP 抽出物のこれらの作用は, システインおよびセリンプロテアーゼ阻害剤の混合物 (E-64 およびアプロチニン) によって, 効果的に阻害された. DP のタンパク質分解作用に対して, IL-8 も GM-CSF も十分な耐性を示した. MCP-1/CCL2, RANTES/CCL5 あるいは 10kd/CXCL10 の IFN-γ-誘導タンパク質は, どのタイプの細胞にも検出されなかった. プロテアーゼ活性化レセプター (PAR)-4 mRNA は気管支上皮細胞にのみ見られたが, PAR-1, PAR-2 および PAR-3 mRNA は両タイプの細胞に同程度見られた.そして DP は, それら PAR mRNA の発現に影響を及ぼさなかった.
 DP はそのタンパク質分解作用に依存した, ケラチン生成細胞からのサイトカイン遊離を引き起こすが,サイトカイン,ケモカイン新生を活性化することはないことが明らかとなった. これはハウスダストダニのヒトへの直接的な炎症誘発活性に否定的な結論を下すものである.

Journal of Allergy and Clinical Immunology 109 (3) : 532-538 (2002)
Mascia F1, Mariani V1, Giannetti A2, Girolomoni G1, Pastore S1
(1Dermopatico dell'Immacolata 研究所, IRCCS, Rome, 2Modena and Reggio Emilia 大学 皮膚科, Modena, Italy)



肉, 豆腐, および卵の煮物の調理時に生成する複素環アミン類量は加えるしょう油や砂糖の量により変わる
Effects of soy sauce and sugar on the formation of heterocyclic amines in marinated foods

Key Words : しょう油/砂糖/複素環アミン類/HPLC/煮物

 複素環アミン類は毒性学的に重要な物質で, 魚や肉類の調理過程で生成するが, 疫学的調査において複素環アミン類摂取と結腸・直腸がんや膵臓がん発症が関連している可能性が示されている. Wakabayashi と Sugimura (1998) は食餌の条件によって複素環アミンの変異原性や発がん性が修飾される可能性があることを総説の中で, 指摘している. また Flton らは, 複素環アミン類摂取によるリスクを計算し, これまでに規制されている多くの発がん性物質と同程度であるとしている. このようなことから, いろいろな手法により加工され, 市場に出廻る各種の肉製品中の複素環アミン類の含有量を把握することは極めて大切である.
 肉加工食品においては調理過程で生成する複素環アミンの種類や生成量は, 調理の時間や温度, 方法などの要因で変わるが, この要因の中でも温度の影響が最も大きい. 直火焼き (broiling) と油炒め (frying) の2種の調理法が肉料理で複素環アミンの生成量の多い調理法であるが, また, 調理法によって生成する複素環化合物の構造が異なるとされている.
 今回の実験においては, 中国古来の調理法で,煮込み料理など調味料に漬け込み高温で1時間以上調理する食品を対象にして, しょう油や砂糖の添加量の違いにより生成する複素環アミン類量の違いを調べた. 豚肉, 豆腐および卵を材料に用い, 1%の砂糖溶液と濃度の異なるしょう油 (5, 10, 20%) に蒸留水を加え, 3種類の煮汁を作成した. 煮汁をステンレスフライパン (4 L サイズ) に加え, ガスで加熱し, 沸騰後これに豚挽肉 (500 g) を加え, 弱火で1時間煮込んだ. 煮汁の温度は温度計で確認しながら 98 ± 2℃に調節した. 卵と豆腐についても豚肉と同様の手法にしたがって煮込んだ. ただし, 卵については煮込む前に, 一旦, 100℃で5分間加熱した. 煮込んだ後, 50 g の豚肉は凍結, 粉細し, その内 10 g を, 複素環アミン類の測定に用いた. また, 煮込んだ卵と豆腐については, 砕粉, 小分けし, 凍結後その 10 g を複素環アミン類の測定に用いた. 煮込んだ豚肉, 卵および豆腐の煮汁については 20 mL ずつを採集し, 0.2 μm メンブランフィルターで濾過後, フォトダイオードアレイ検出器付 HPLC で測定した.
 豚肉の煮込みでは7種の, 豆腐では5種の, また卵では4種の複素環アミン類が検出された. いずれの煮込み食品においても PhIP (2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-f]pyridine) が最も高いレベルで存在し, 次いで, MeIOx (2-amino-3,8-dimethylimidazo[4,5-f]quinoxaline), IQ (2-amino-3-methylimidazo[4,5-f]quinoline), AαC (2-amino-9H-pyrido[2,3-b]indole), Trp-P-1 (3-amino-1,4-dimethyl-5H-pyrido [4,3,-b]indole) および MeIOx (2-amino-3,8-dimethylimidazo[4,5-f]quinoxaline) の順であった. また, しょう油や砂糖の濃度が濃くなるにつれ, 煮物食品中の複素環アミン類の生成量が増えること, さらに煮汁中の複素環アミン類量は煮物食品中より多いことが明らかとなった.

Food and Chemical Toxicology 40 : 989-1000 (2002)
Lan CM, Chen BH
(Fu Jen 大学 栄養食品科学科, 台北, 台湾)



都市大気汚染に曝露する交通警官,タクシー運転手のリンパ球染色体異常
Chromosomal damage in peripheral blood lymphocytes of traffic policemen and taxi drivers exposed to urban air pollution

Key Words : 大気汚染/多環系芳香炭化水素族/末梢リンパ球/染色体異常/1-hydroxypyrene

 多くの疫学的調査結果から大都市に住む人は, 郊外に住む人に比べ肺癌になるリスクが高いことが報告されている. 排気ガスなどの大気汚染に輸送関連の業務で大量に曝露される人でも, 同様なリスクの増加が報告されている. 大都市の大気には多様な化学物質が含まれており, その中の幾つかには変異原性があることが知られている. 大気中の変異原性物質で最も重要なものは, 自動車排気, 暖房および産業排気などの化石燃料の不完全燃焼によるものである. 自動車排気の主要な構成成分としては一酸化炭素, 一酸化窒素, 微粒子, 多環系芳香炭化水素族 (polycyclic aromatic hydrocarbons; PAHs) を含む炭化水素, ニトロ芳香族, ベンゼン, 1,3-ブタジエン, 二酸化硫黄および鉛が知られている. ディーゼル重機, バスおよびトラックからの排気ガスは大都市における排気ガスのおよそ50〜60%にあたり, ディーゼルエンジンからの排気ガスは国際がん研究機関 (IARC) の分類では 2A 群 (ヒト発癌性の可能性あり)に分類されている.
 これまで, 大都市居住者およびバス運転手, 交通業務に携わる警官および大道商人など特別な集団が, 代表として調査の対象とされてきた. しかしながら, 変異原性物質への曝露の推定に用いる生体マーカーは, 尿中に排泄される変異原性物質から標的組織やそれ以外の組織における染色体傷害など様々であった. PAHs は大都市大気中に含まれる変異原物質で, その尿中代謝物である 1-hydroxypyrene (1-OHP) は PAHs 曝露量を反映することが明らかとなっており, 最近の調査では専ら PAHs への曝露について行われている. 職業上アスファルト焼やコールタールに曝露される者や舗装業務に携わるもの, エンジン修理工その他で, 尿中 1-OHP の増加が知られている. 本報告ではトルコの大都市であるアンカラの男性交通警察官15名, 男性タクシー乗務員17名および事務室作業者23名の尿中 1-OHP 濃度を測定し, 末梢リンパ球における染色体異常との相関について調べた結果を報告している.
 対象者の全般的な健康状態, 職歴, 飲酒, 食事, 喫煙などの嗜好, 薬物使用歴室外作業状況などを質問表で調査した. 尿中 1-OHP 活性は, 交通警察官, 事務職員, タクシー乗務員の順に高く職業との関係は明らかではなかった. 非喫煙交通警察官では有意に高い 1-OHP 活性が認められ, 非喫煙タクシー乗務員では逆に低い 1-OHP 活性が認められ, 大気中 PAHs はタクシー乗務員への曝露に寄与しないものと考えられた. 一方, 末梢リンパ球における染色体異常発現頻度は交通警察官, タクシー乗務員ともに事務職員より有意に高かった. 喫煙は染色体異常頻度に影響がなかった. 1-OHP 活性と染色体異常発現頻度の間に相関が認められなかった理由として, 1-OHP が採血前の24時間程度の PAHs 曝露を反映するものと考えられるのに対し, 染色体異常発現頻度ではより長い期間の変異原物質曝露の程度の結果であることが考えられ, 今後は, より優れた生物評価法を検討するべきであろう.

Chemosphere 47 : 57-64 (2002)
Burgaz S, Demircigil GC, Karahalil B, Karakaya AE
(Gazi 大学 薬学部毒性学, Ankara, Turkey)



大気汚染微粒子とオゾンの同時吸入による動脈収縮
Inhalation of fine particulate air pollution and ozone causes acute arterial vasoconstriction in healthy adults

Key Words : エンドセリン/冠状動脈/超音波診断器/血管内皮/大気汚染

 直径 2.5 μm 未満の大気汚染微粒子 (particulate matter < 2.5 μm; PM2.5) とオゾンは共に心臓死と関係があることが知られており, 心肺疾患患者では PM2.5 により心筋梗塞が起きやすいものと考えられている. 著者らは最近 PM2.5 とオゾンの短期間同時曝露により, ヒトや実験動物で内因性の血管収縮因子である動脈血中エンドセリン (ET) が増加することを確認した. この研究では実際の汚染濃度の PM2.5 とオゾンが動脈のトーヌスと反応性に影響するかどうかを調べた.
 心循環器疾患に罹患していない18〜50歳までの非喫煙者を対象に研究を行った. 空腹時血糖が 126 ng/dL 以上, 総コレステロール 240 mg/dL 以上の者, または降圧剤, 高脂血症治療薬, 抗酸化剤, 葉酸, ステロイド剤, 魚脂およびアスピリン服用者は除外した. 8時間以上絶食した被験者25人に濃縮大気 (約150 μg/m3) とオゾン (120 ppb) または濾過空気を2時間曝露し, 10分以内に血圧および上腕動脈反応性の検査を繰り返した. 被験者には最低2日の間隔で, 異なる曝露を行った. 上腕動脈の血管径は高解像超音波診断器により日をあけて2回測定し, 定常血管径 (basal brachial artery diameter; BAD) を記録した. 曝露の影響は BAD, 流量依存性拡張 (flow-mediated dilation; FMD) およびニトログリセリン依存性拡張 (nitroglycerin-mediated dilation; NMD) について調べ, 曝露の前後における反応性の差異を計算した. 濃縮大気とオゾンの同時曝露は BAD の減少を引き起こし (-0.09 ± 0.15 mm), これは濾過空気を曝露した場合と比較して統計学的に有意な変化であった. しかしながら, FMD, NMD および血圧には濃縮大気とオゾンの同時曝露の影響は認められなかった. 上腕動脈は FMD の性質が心臓の冠状動脈と非常に似通っていることが既に知られており (Takase, et al. Am J Cardiol. 1998:82), 上腕動脈径に対する大気汚染微粒子とオゾンの同時曝露の影響について調べることにより, 上記曝露の冠状動脈への影響が推察できるものと考えられる.曝露によって認められた BAD の変化は非常にわずかなものであったが, 動脈硬化により狭窄された冠状動脈で同様な変化が起きれば, 心臓が低酸素状態に陥るかも知れない. また, 血管径の変化には肺の副交感神経系からの反射, 喫煙時と同様の ET 遊離が考えられる. PM2.5 曝露により全身性の炎症がおき, サイトカインが産生されることや, 粒子に活性酸素が含まれることも知られているが, これらの事柄は全て直接的に, または酸化ストレスを介して ET の発現を促進しうる. 以前に, 著者らが PM2.5 曝露時に血中 ET 濃度が上昇することを確認したことを考え合わせると, PM2.5 曝露時の血管径の変化には ET 濃度の変化が大きく関与するかも知れない.

Circulation 105 : 1534-1536 (2002)
Brook RD1, Brook JR2,3, Urch B2, Vincent R4, Rajagopalan S1, Silverman F2
(1州立 Michigan 大学 Ann Arbor 校, USA; 2Toronto 大学, Toronto, 3カナダ環境省, 4カナダ健康省, Ottawa, Canada)