食品・薬品安全性研究ニュース第48号目次 |
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焼け焦げ食品中の発癌性複素環アミンのヒトへの曝露 Human exposure to heterocyclic amine food mutagens/carcinogens: relevance to breast cancer
PhIP は複数の代謝経路を持ち, 直接, 硫酸化あるいはグルクロン酸抱合され, それぞれ PhIP-4'-サルフェートあるいは PhIP-N2-グルクロナイドとなるか, チトクローム P450 により変異原活性を持つ中間体 N2-ヒドロキシ-PhIP となった後にグルクロン酸抱合されて, N2-ヒドロキシ-PhIP-N2-グルクロナイド (ヒト尿中に検出される主代謝物) あるいは N2-ヒドロキシ-PhIP-N3-グルクロナイドとなり, 解毒される. これらの反応に関わる酵素の体内での分布および個人による活性の違いは, PhIP の解毒率と反応の種類, そして最終的には突然変異/癌の標的組織の決定およびリスクの個人差に関わるものである. また, 突然変異/癌の化学予防について検討するため, PhIP の代謝にブロッコリー中に含まれる物質 (イソチオシアネート等) が影響を及ぼすのかどうかを調べた. 6人のボランティアに予め3日間ブロッコリー等ナタネ科の野菜を食べないでいてもらい, その後チキン (平均186℃で25〜30分 "ウェルダン" にソテー. PhIP 含有量 10〜20 mg) を食べてもらった. その後6時間の間に採取された尿中の代謝物を, 新たに開発した LC/MS/MS 法で分析した. 次に今度は3日間ブロッコリーを食べてもらった後, 同様の実験を行なった. その結果, 尿中には上記4種類の PhIP 代謝物 (サルフェートおよびグルクロナイド) が検出され, その量は1名を除き全例で, ブロッコリーを摂取した時の方が, 統計学的に多くなった. この結果は, ブロッコリーの成分が PhIP の代謝 (解毒) 率を上昇させたことを示している. 現在著者らは, ラットの複素環アミンの代謝, 腫瘍原性をヒトに外挿してヒトへのリスクを推定することを試みている. 高用量の動物実験から低用量でのヒトの場合を推定するのは難しい. しかし, 複素環アミンはヒト乳癌のイニシエーションの調査における良いモデル化合物となり得ることを示すデータがある. 著者らはまた, 発癌性代謝物の測定技術を生かして, ヒトにおける化学予防薬 (特に乳癌関係) の研究も進めていく予定である. Environmental and Molecular Mutagenesis 39 : 112-118 (2002) Felton JS, Knize MG, Salmon CP, Malfatti MA, Kulp KS (Lawrence Livermore 国立研究所 分子・構造生物部門, Livermore, CA, USA) 尿中の6β―ヒドロキシコルチゾール/コルチゾール比と乳癌リスクに関する疫学調査 Epidemiological study of urinary 6_-hydroxycortisol to cortisol ratios and breast cancer risk
エストロゲン代謝物のうちステロイドの C2, C16 および C4 位の水酸化体は, 生物学的作用あるいは体内での産生量の観点からも非常に重要な意味をもっており, これらの代謝物は種々の P450 により代謝を受け, 産生される. 2-水酸化体は末梢でのエストロゲン作用は有していないが, 16α-水酸化体や 4-水酸化体には, エストロゲン作用があり, DNA との付加物を形成することから乳癌発生におけるイニシエーター作用を有するとされている. また, CYP3A4 は乳腺上皮組織に存在すること, それによって代謝, 産生される 4- および 16α-水酸化物は, 閉経後の婦人のエストロゲンの主要な形態であり乳癌発症との関連性が示されていること, さらには環境発癌物質である多環芳香族炭化水素化合物, 複素環アミン化合物, アフラトキシンあるいはニトロソアミン類などが CYP3A4 により代謝, 活性化されることが知られていることから, 特に CYP3A 代謝酵素の体内での働きが注目されている. 一方, CYP3A4 活性には著明な個人差があることが知られており, この要因はこの酵素をコードする遺伝子あるいは遺伝子発現における調節遺伝子の遺伝多形によると考えられており, この遺伝多形が前立腺癌や白血病の発症リスクと関連していることが報告されている. 著者らは, 先に小さな症例対照試験を実施し, 乳癌は発症リスクと尿中 6_-OHC/コルチゾール比とに正の相関があることを見出しており, 本研究ではさらに確証を得るために, "上海乳癌研究" に参加している一部の女性グループについて症例対照試験を企画した. 乳癌患者と対照群それぞれ246名の早朝尿を採取し, 6_-OHC/コルチゾール比を測定した. 乳癌患者の尿は, まだ化学療法や放射線治療を受けていない人のものを用いた. また, 予め食生活, 出産経験の有無等やその他の生活習慣などについて個人面談により調査した. 尿中の 6_-OHC/コルチゾール比の中央値は, 乳癌患者では2.61, 対照群では2.16であり, 両者の代謝比には20.8%の違いが見られた. この両者の代謝比の差は, 年齢階層別に見るとより明らかであり, 45歳以上の乳癌患者では31.3%と, 若い患者の6.0%に比べ顕著な違いが見られた. 個人の種々の背景要因を考慮に入れて乳癌発症リスクを比較すると, 高年齢者においては対照群に比して, 尿中 6_-OHC/コルチゾール比が高くなるにつれそのリスクは高くなる結果が得られ, 45歳を超える者では, オッズ比は6.0 (95%CI: 2.2-16.1), 45歳以下では2.2 (0.8-6.1) であった. また, 肥満指数が高く, 閉経年齢が遅く, 初潮時期の早かった高年齢の婦人 (内因性エストロゲンの影響の強い徴候) では特にその関連が明確であった. このような尿中代謝比とリスクの関係は, CYP3A4 のエストロゲン代謝における役割と符号し, 乳癌のリスク因子となると考えられる. Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 10 : 237-242 (2001) Zheng W1, Jin F2, Dunning LA3,4, Shu X-O1, Dai Q1,2, Wen W-Q1, Gao Y-T2, Holtzman JL3,4 (1Vanderbilt 大学, Vanderbilt 保健サービス研究センター, Vanderbilt-Ingram 癌センター, Nashville, TN, USA; 2上海癌研究所 疫学科, 上海, 中国; 3退役軍人メディカルセンター, Minneapolis, 4Minnesota 大学 医学部 薬理学教室, Minneapolis, MN, USA) 臭素化ジフェニルオキシド (エーテル) 系難燃剤3物質の毒性 The toxicology of the three commercial polybrominated diphenyl oxide (ether) flame retardants
DBDPO, OBDPO, PeBDPO は高分子化合物で, 水への溶解性および気化圧はともにジフェニル分子の臭素化の程度に依存しており, それぞれ極めて低いが, 環境中への移行の仕方やその中での動態はそれぞれ異なる. 環境中で検出される PeBDPO の50〜70%は 2,2',4,4'-TeBDPO であり, また, DBDPO は放出源近くの底質に局在するのみで生物体内には検出されない. DBDPO, OBDPO および PeBDPO の主成分である 2,2',4,4',5-PeBDPO は魚類体内への移行はみられないが, 2,2',4,4'-TeBDPO は体内に蓄積する. しかし, 水生生物への急性および慢性的影響はほとんど見られない. DBDPO, OBDPO, PeBDPO の哺乳類への反復投与毒性試験の結果は異なっている. DBDPO では急性毒性, 眼・皮膚刺激性, 皮膚感作性, 遺伝毒性, 発生・生殖毒性および発癌性はみられず, ラットにおける無毒性量 (NOAEL) は 1,000 mg/kg 以上である. PeBDPO では無影響量 (NOEL) は 1 mg/kg であり, また, OBDPO ではラットで発生毒性を示す. これらのような化合物による毒性の違いは各同族体の吸収, 代謝および排泄の差によるものと考えられている. DBDPO の腸管吸収率は低く (0.3〜2%), また, 消失半減期も比較的短く (24時間以下), 糞中に速やかに排泄される (72時間で99%以上). 一方, 2,2',4,4'-TeBDPO のラットでの経口投与による吸収率は約95%で, 5日間での排泄率は14%以下である. また, 2,2',4,4',5-PeBDPO の排泄も遅く, 経口投与後72時間での排泄率は約45%である. 哺乳類でのこのような体内動態の違いが水生生物体内への蓄積性など環境動態と関連している. DBDPO と OBDPO は水生生態系への蓄積性も毒性もないが, PeBDPO は魚への蓄積性が認められている. しかし毒性はない. また, PBDPO は齧歯類の血中 T4 レベルを低下させ, PBDPO の水酸化体はチロキシン結合蛋白である transthyretin と T4 との結合を阻害するなどして, 甲状腺機能発現に影響を及ぼすことから, 内分泌撹乱作用が疑われているが, ヒトでは動物での代謝や T4 結合蛋白種の違いなどから甲状腺への影響はないと考えられている. 製造されている DBDPO, OBDPO, PeBDPO 3種の毒性や生物蓄積性などはそれぞれの化合物により異なることから, これらの化学物質を PBDPO または PBDE として一括して議論することをやめて, それぞれ個別に評価する必要があろう. Chemosphere 46 : 757-777 (2002) Hardy ML (Albemarle 社, Baton Rouge, LA, USA) コンピュータ作業者の職場環境からのポリ臭素化ジフェニルエーテル, 四臭化ビスフェノールA曝露 Exposure to polybrominated diphenyl ethers and tetrabromobisphenol A among computer technicians
著者らは近年の研究で, 電子部品の撤去工場で働いている作業者の血清中の数種の PBDEs のレベルが上昇していること, また, コンピュータ画面の前で1日中仕事をしている事務員の血清中 PBDEs 濃度も病院の清掃作業者を比べるとわずかに高いことを示した. また, 3グループすべての作業者の血中に Deca-BDE (BDE-209) が検出されたが, 特に工場作業者のグループの方が病院清掃作業者に比しかなり高いレベルにあることを報告しており, 従来の仮説に反し, BDE-209 (分子量:959) が生体に取り込まれることを示している. 今回は, 普通の事務員よりコンピュータ作業量の多いコンピュータ技術者の血中 PBDEs および TBBPA の濃度について, 上記のコンピュータ作業経験のない病院清掃作業者と1日中コンピュータ画面と向かい合って作業している事務員との比較を試みた. その結果, 血中 BDE-153, BDE-183 および BDE-209 濃度は, コンピュータ技術者の方が清掃作業者や事務員に比し5倍以上高く, それらの中央値はそれぞれ 4.1, 1.3 及び 1.6 pmol/g (脂質重量) であった. これらの化学物質とは対照的に, BDE-47 についてはコンピュータ技術者と他のグループの血中レベルには差は見られなかった. 一方, BDE-100, BDE-203 および構造未確定の Octa-BDEs と Nona-BDEs がすべてのコンピュータ技術者のいずれの血液中にも確認された. また, TBBPA も10人中8人の血液中に検出された. さらに, BDE-153, BDE-183 および Octa-BDEs の1種は, コンピュータ作業期間の長さと正の相関関係が見られた. 群間で曝露レベルは勾配があり, 最も曝露の少ない清掃業者, 次に事務員, そしてコンピュータ技術者の順に高くなった. 以上のように, コンピュータや電気器具に使用されている難燃剤 PBDEs は, 職場の作業環境を汚染しており, 作業者の体内に蓄積している. これらの化学物質の健康への影響は不明である. Chemosphere 46 : 709-716 (2002) Jakobsson K1, Thuresson K2, Rylander L1, Sjödin A2, Hagmar L1, Bergman Å2 (1Lund 大学病院 職業・環境医学科, Lund, 2Stockholm 大学 環境化学科, Stockholm, Sweden) フタル酸ジブチルに曝露されたラット胎児のテストステロン不足とライディッヒ細胞および生殖細胞の異常増殖 Fetal testosterone insufficiency and abnormal proliferation of Leydig cells and gonocytes in rats exposed to di(n-butyl) phthalate
妊娠ラットに DBP 500 mg/kg またはフルタミド 100 mg/kg を妊娠12〜21日 (GD 12〜21) に1日1回経口投与した. GD 14, 16, 18 あるいは 21 の雄胎児から精巣を採取した. このうち GD 14 の胎児は組織切片上で雌雄の判別を行った. 各胎児の精巣組織は組織学的観察のほか, AR, ヒト胎盤 3β-水酸化ステロイド・デヒドロゲナーゼ (3_-HSD) および増殖細胞核抗原 (PCNA) の免疫組織染色を行い観察した. また, GD 18 および 21 の胎児から新鮮精巣を採取して急速凍結し, vom Saal らの変法を用いて精巣内のテストステロン濃度を測定した. GD 16 から 2l の胎児精巣には, DBP 投与により AR または 3_-HSD 陽性のライディッヒ細胞の過形成が認められた. 限局性過形成の領域では, PCNA 陽性のライディッヒ細胞数が増加した. GD 21 では, DBP 曝露胎児において精巣萎縮が明瞭となり, 生殖索が腫大していたほか, 対照群とは異なり, PCNA 陽性を示す生殖細胞由来の多核巨細胞が含まれていた. また GD 18 および 21 における精巣のテストステロンレベルは減少したが, フルタミド曝露では減少しなかった. DBP 曝露において精巣上体管の減少と明らかな AR 染色性の低下がみられたのに対し, フルタミド曝露では AR 染色性の全体的な低下があり, ライディッヒ細胞の過形成は軽度であった. 以上の結果から, DBP は, 胎児の精巣においてテストステロン合成時に核 AR および細胞質にテストステロン生合成経路のマーカー酵素である 3_-HSD 陽性のライディッヒ細胞増殖を誘発することがわかった. ライディッヒ細胞増殖は, おそらくテストステロンが不足することで精巣のステロイド産生を増加させる代償性メカニズムであることが考えられる. さらに生殖細胞の多核化や増殖は, セルトリ細胞の機能障害の結果引き起こされることが示唆された. Reproductive Toxicology 16 : 19-28 (2002) Mylchreest E, Sar M, Wallace DG, Foster PMD (CIIT 健康研究センター, Research Triangle Park, NC, USA) 蚊取り線香成分の残留性 Impact of long-term exposure to mosquito coils: residual deposition and dissipation of D-trans-allerthrin in a room
実験には 3 m×3.5 m×2.5 m (26.2 m3 = 約6.5畳) の室内で, D‐トランス‐アレスリンを主な薬効成分として0.2% (wt) 含有する市販蚊取り線香 (直径 12 cm, 全長 83 cm, 重さ 14.0 g) を, 毎日午後8時から8時間, 30日間連続で薫蒸した. 室内は 25 cm 四方のポリエチレンの壁紙で一面に覆い, 床, 壁, 天井のそれぞれの面から, 毎回壁紙4枚中の残留物質量を測定した. 部屋は閉め切りにした条件と窓と扉を昼間1日14時間にわたって開放した条件の2種類を設けた. その結果, 床, 壁, 天井とも薫蒸日数が増すにつれ, 残留アレスリン量は徐々に増加し, 部屋を閉め切りにした条件では30日目には床で 184.52 mg/m2, 壁では 170.72 mg/m2, 天井では 148.63 mg/m2 に達した. いずれの測定時点でも, 開放された部屋では閉鎖された部屋より残留アレスリン量は少なく, 30日目の時点でもおよそ1/10量であった. 一方, 薫蒸をやめることによって残留アレスリンは順次消退し, 閉め切り条件下でも15日後にはおよそ1/3量にまで減少した. 本報では, 部屋の壁や床にも残留が認められたこと, ならびに空気中の防虫剤濃度が比較的低いことを基に, 従来考えられている吸入による取り込みのほかに, 壁や床の残留アレスリンの経皮吸収も考慮すべきとしている. 残留した殺虫成分によるヒトへの健康への影響に関する報告は皆無に等しいが, 蚊取り線香を焚いた室内に子供がおかれ, 特に床などに残留した殺虫成分に幼少時から曝露される可能性を考えると, その影響の可能性に注意を払う必要があると考えられる. Journal of Environmental Monitoring 4 : 202-204 (2002) Ramesh A, Vijayalakshmi A (Fredrick 植物保護および毒性学研究所 農薬化学部, Tamil Nadu, India) 健康なヒトの血液および肺の宿主防御機能および免疫パラメータは, PM2.5 の吸入に影響されない Inhalation of PM2.5 does not modulate host defense or immune parameters in blood or lung of normal human subjects
少なくとも実験前5年間禁煙しており, アレルギーや呼吸器系疾患の病歴がなく, 投薬治療をしていないボランティア38人 (男性36人, 女性2人, 18〜40歳, 平均26.2歳) を被験者とした. 実験では, 米国ノースカロライナ州 Chapel Hill にある米国環境保護局のヒト対象研究施設周囲の大気から, 直径 0.1〜2.5 mm の粒子を微粒子濃縮器を用いて CAPS を濃縮調製した. 被験者は, フィルターを通した大気または CAPS の曝露を受けた. 2時間の曝露中に, 合計1時間自転車エルゴメータで運動を行った. 曝露中のチャンバー内の粒子濃度は, 23.1〜311.1 mg/m3 であった. 曝露後, 被験者には特に異常な症状は全く認められなかった. 曝露後18時間に, 気管支肺胞洗浄 (BAL) によって得られた細胞を分析すると, フィルターを通した大気に曝露した被験者と比較して, 最高濃度の CAPS に曝露した被験者の気管支および肺胞分画中の好中球は, やや増加した. 最高粒子レベル (平均 207 mg/m3) で吸入した後の洗浄液でもリンパ球や AM の割合は変化しなかった. また, BAL で得られたリンパ球での CD3, CD4, CD8, CD19 の発現や, 活性化マーカーである CD25 および CD69 を発現しているリンパ球の割合にも変化が認められなかった. CAPS への曝露は,AM 上の CD11b, CD64, CD16, CD14 および CD71 の発現に影響せず, ザイモザンA刺激による食作用やオキシダント産生にも影響が認められなかった. ELISA 法によって検出した BAL 中の IL-6 および IL-8 の量は, 吸入した粒子の濃度に依存しなかった. CAPS 曝露後18時間に得られた血液中のリンパ球分画の分布は, 曝露前と違いはなかった. 環境大気中粒子は, 呼吸器系下流に軽度の炎症を引き起こす可能性があるが, 本研究の条件下では免疫活性化あるいはマクロファージの機能にほとんど影響しない結果となった. PM2.5 は, 喘息や, 重度の肺感染症のヒトに影響を与えるが, 本研究での被験者は,若く, 健康であった. 喘息患者や重度の肺感染症患者は, すでに免疫系が活性化した状態であるため, 活性化および炎症性細胞を含む呼吸器系の細胞は, 休止状態の細胞よりも影響され易いと考えられる. このような点について解明するためには, 軽度の呼吸器系疾患を持つヒトを対象とした研究がさらに必要である. Environmental Health Perspectives 109 (Suppl.4) : 599-604 (2001) Harder SD, Soukup JM, Ghio AJ, Devlin RB, Becker S (米国環境保護局 国立衛生環境影響研究所, Research Triangle Park, NC, USA) ディーゼル排気がマウスの分娩異常を起こし, 子マウスの発育を抑制する Diesel exhaust affects the abnormal delivery in pregnant mice and the growth of their young
今回の結果では, ディーゼル排気が妊娠期間中より前の曝露でも, 分娩異常をマウスで起こす可能性を示したことから, 吸入により呼吸器官に付着したディーゼル粒子から化学物質が徐々に吸収され, 血液またはリンパ液に乗って生殖器官に運ばれ, 障害をきたしたものと推測された. 巣造りや母性行動にはプロラクチンなどのホルモンの関与が示唆されていることから, 粗末な巣造りをする動物が多かったディーゼル排気曝露群では, ホルモン分泌に変化を来していた可能性も考えられた. また, 膣開口時期はエストラジオールの分泌に関連していることが知られており, 1.0 および 3.0 mg/m3 曝露群から生まれた雌の子供は, 体重が低いにもかかわらず, 膣開口時期が早まったことから, 内分泌の撹乱を引き起こした可能性を示唆した. 以上のように, ディーゼル排気は, マウスの分娩障害を誘発する可能性がある物質であり, さらに子供の発育や性成熟にも影響を与えると考えられた. Inhalation Toxicology 14 : 635-651 (2002) Tsukue N1, Tsubone H1, Suzuki AK2 (1東京大学大学院 農学生命科学研究科 比較病態生理学教室, 東京, 2国立環境研究所 PM2.5・DEP 動態解明と影響評価プロジェクト, つくば) 酸化的ストレスによる精巣の DNA 損傷 Oxidative stress associated DNA damage in testis of mice: induction of abnormal sperms and effects on fertility
酸化促進剤として2種の有機ヒドロペルオキシド t-butyl hydroperoxide (t-bHP) と cumene hydroperoxide (cHP) を用い, これらを10週齢の雄マウスに単回あるいは反復投与して酸化的ストレスによる影響を調べた. 単回投与試験では, 各過酸化物の LD50 の1/20, 1/10, 1/5に相当する量を腹腔内投与した. 反復投与試験では, 1日に LD50 の1/10あるいは1/5に相当する量の t-bHP あるいは cHP を5日間連続投与し, 処置開始後1, 2, 3および5週に解剖した. 酸化的ストレス誘導の指標として, 単回あるいは反復投与の最終投与24時間後に精巣および精巣上体内精子の脂質過酸化の程度を測定し, その後, 反復投与モデルでは処置開始後2, 3および5週にも測定した. また, 反復投与モデルでは, 各解剖時に精巣および精巣上体重量とこれらの組織学的検査を行ったほか, FADU (fluorometric analysis of DNA unwinding) 分析による精巣および精巣上体内精子の DNA 損傷の定量, 精巣上体尾部の精子数の測定と異常精子の発現頻度を調べた. さらに, 受精能の検査として, t-bHP と cHP の各 LD50 の1/10または1/5量を5日間連続投与した雄と非処置の雌を5週間1:1で同居, 交尾させ, 出産時に胎児の性別, 数, 個別体重を測定した. その結果, 単回投与試験では, 両酸化促進剤の最高濃度投与動物のみで精巣の脂質過酸化の増加がわずかにみられただけであったが, 反復投与では, 最終投与24時間後の検査で, 精巣および精巣上体内精子の脂質過酸化の著しい増加が認められ, これは精巣と精巣上体内精子において著明な酸化的ストレスが認められたことを示している. この脂質過酸化の増加は処置終了後2週までみられた. 反復最終投与24時間後の DNA 損傷の定量において, 精巣組織では t-bHP と cHP の投与により, 精巣上体では t-bHP 投与により著明な DNA 損傷の増加がみられた. 精巣での脂質過酸化の増加と精巣 DNA の酸化的損傷が同時に認められたことから, 両者の関連性が示唆された. しかし, 精巣および精巣上体に組織学的変化はみられなかった. 精巣上体尾部の精子検査では, 精子数に変化はみられなかったものの, 処置開始後3週まで頭部異常精子の発現率が2〜3倍増加した. さらに, 酸化促進剤を投与した雄と非処置の雌を交尾させた結果, 交尾率と出生胎児の個別体重に変化はみられなかったものの, 処置開始後3週まで腹単位の平均胎児数が有意に減少した. 結論として, マウスの精巣に対する酸化的ストレスの影響は精巣細胞および精巣上体の DNA 損傷を起し, 減数分裂後の生殖細胞への毒性作用により頭部異常精子の発生頻度を増加させる. 重要なのは, これが雄の生殖能力の低下を引き起こすことである. Mutation Research 513 : 103-111 (2002) Kumar TR, Doreswamy K, Shrilatha B, Muralidhara (食品工学中央研究所 生化学・栄養学科, Karnataka, India) 環境タバコ煙による冠動脈性心疾患のリスクは, 疫学研究で推定されるように実際に高いのか? Why is environmental tobacco smoke more strongly associated with coronary heart disease than expected? A review of potential biases and experimental data
そこで, ETS と心疾患の関係を評価する時に起こりうる偏向 (バイアス [発表バイアス, 残存撹乱バイアス, および曝露の分類の誤り]) について検討した. 発表バイアスは, 有意な所見が得られた調査が公表され易い (論文にされ易く, 受理され易い) こと, また関係が確認できなかった調査結果は公刊され難いことによって起こるバイアスである. しかし ETS と心疾患についての研究では, 既にこの問題について検討され, 大規模調査の見直しが行なわれているので, 本質的に研究結果に影響しないと考えられる. 残存撹乱バイアスは, 限られた変動因子 (年齢や性別) のみで補正していて, リスクに関わるその他の因子を考慮しないために起こる過大評価のことである. しかし年齢性別以外に, 心疾患の主要なリスク因子であるアルコール摂取, body mass index, 高血圧, 糖尿病および高コレステロール血症等の14項目について補正した看護婦での調査報告があるが, 年齢のみで補正した場合のリスク1.97と比較して全補正後のリスクは1.71と, 減少はわずか26%であった. したがって, 撹乱因子は残りの74%には影響していない. また, 曝露の程度を分ける分類の誤りは, 調査対象者による自己報告を基に分類するために起こる. 自己評価すると, 喫煙は過少申告される傾向はあるが, 自己申告と血清コチニン測定とを併用した5,115人対象の調査の結果で見ると, 自己申告量は実測量より1.3%しか低くなかった. したがって, このバイアスは ETS/CHD (冠動脈心疾患) の関係にほとんど影響しないと考えられる. これらのことからバイアスの影響は少ないことが明らかになった. 次に, ETS 曝露量を能動喫煙量に換算して評価するよりも, ETS/CHD の関係は, なぜ大きくなるのかということを実験結果をもとに検討した. 一般的な職場での曝露環境を作って実施した, ヒトでの ETS および心疾患の実験研究では, ETS が血小板機能, 血管内皮および心筋運動耐性に影響を与えることが明らかとなっている. これらのヒトでの研究は, 実験対象者が少ないが, ETS 曝露の有意な影響を確立するのに十分な数である. ETS 曝露は血小板を活性化し, 凝集を増大させる. これは心不全の原因となる血栓形成のきっかけとなるものである. また, ETS 曝露前は非喫煙者の血小板活性は喫煙者よりもずっと低いが, 曝露後は喫煙者の活性は変化しない一方で非喫煙者の血小板活性は上昇するという報告がある. ETS 曝露による血管内皮傷害はアテローム形成のきっかけとなり, 促進させる. このように急性 (血小板凝集など) および慢性 (プラーク形成) の両方のメカニズムを通して冠動脈傷害のリスクを増加させる. 動物実験でも, アテローム性動脈硬化症のプラーク形成が副流煙によって促進することが報告されている. ETS の化学組成は複雑で, 4,000種以上含んでいる. さらに, フィルターを通していない副流煙中のニコチン量は, フィルターを通した主流煙の1.3〜21倍である.ニコチン以外の化学物質にも有害作用を示すものがあり, ニコチンと同様に, 副流煙には主流煙よりも高濃度含まれている. 例えば, 副流煙中の N-ニトロソジメチルアミンは主流煙中の濃度の20〜130倍, ベンゾ[a]ピレンの場合は2.5〜20倍である. また, ベンゾ[a]ピレンは少なく見積った場合でも, ニコチンの約2倍副流煙に含まれている. このようにニコチンと他の化合物の比率は, 主流煙と副流煙では異なっているため, ニコチンの代謝物であるコチニンだけを指標として曝露の程度を決定するのは危険である. 喫煙者と非喫煙者の ETS に対する感受性の違いも影響している. 能動喫煙者は, 非喫煙者と比較して ETS によって影響を受けにくいようである. これは喫煙者は慢性的にタバコの煙に曝露することによって防御スカベンジシステムが刺激されているため, ETS のフリーラジカルによる損傷が小さいと考えられている. また, ETS 曝露後の肺好中球は, 喫煙者よりも非喫煙者で活性化されていることも報告されている. このように, ETS 曝露が CHD に関係することを示した疫学調査結果は, 単なる偶然や撹乱因子に帰せられると考えることはできない. 能動喫煙者のデータから期待される値よりも ETS 曝露の影響は高い値になっているが, これは直線回帰を前提とした期待値である. ETS 曝露は多様な生理学的経路に影響するため, 用量反応関係は全体として直線的ではない可能性がある. Environmental Health Perspectives 107 (Suppl.6) : 853-858 (1999) Howard G1, Thun M J2 (1州立 Alabama 大学 Birmingham 校 生物統計学科, Birmingham, AL, 2米国がん協会, Atlanta, GA, USA) |
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