食品・薬品

安全性研究ニュース

第49号



目次
  1. 血清中ダイオキシン濃度と子宮内膜症:
    イタリア, セベソにおけるダイオキシン曝露集団でのコホート調査
  2. 出生前ダイオキシン曝露を受けたラットにおける
    大脳皮質優位性の変化にみられる性的二型性
  3. 出生前ダイオキシン曝露による行動反応の性的二型性
  4. 周産期投与したビスフェノールAの雌雄ラットの社会的性行動に及ぼす影響
  5. ポリ塩化ビフェニル類の胎児期曝露はラットの性行動に影響を及ぼすか
  6. 遺伝子組換え食品:食品アレルギー
  7. 食品加工会社におけるIV型アレルギー反応の実情
  8. 殺虫剤曝露が免疫グロブリン類および補体類の血清レベルに及ぼす影響
  9. 心臓および肝臓でみられるアドリアマイシン誘発急性毒性は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬併用により軽減する
  10. 牛肉および牛糞中に存在する腸管出血性大腸菌O157, O111, O26のリアルタイム PCR を用いた検出および定量
  11. 河川細菌によるビスフェノールAの分解




血清中ダイオキシン濃度と子宮内膜症:イタリア, セベソにおけるダイオキシン曝露集団でのコホート調査
Serum dioxin concentrations and endometriosis: A cohort study in Seveso, Italy

Key Words : ダイオキシン/子宮内膜症/環境からの曝露/疫学

 ダイオキシンは, 医療廃棄物を含む工業生産物の燃焼過程で生成される難分解性の環境汚染物質であり, 動物実験では子宮内膜症の病因となる可能性が指摘されている. 著者らは, ヒトでもダイオキシン曝露による子宮内膜症が発症するか否かを研究している. 1976年にイタリアのセベソで起こった工場爆発により, 特定の集団が 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) に曝露された. 著者らはその事故の20年後にその集団におけるコホート調査を行った. セベソ近郊に居住し, 1976年に30歳以下で, 当時採取した血清が適切に保管されていた601名の女性がこの研究に参加した. 子宮内膜症の状況を, 腹腔鏡あるいは開腹手術といった骨盤部外科手術, 経腟的超音波診断, 骨盤検査および聞き取り (不妊および月経時における骨盤痛の病歴) のいずれかにより診断した 「症例」 群とそれらの検査で除外された 「非罹患」 群にわけた. 子宮内膜症が認められた19名の婦人および277名の非罹患婦人について, 事故直後に採取して保管されていた血清中の TCDD 濃度を個別に測定した. 事故当時に TCDD 曝露を受けなかった地域に居住していた婦人の血清中 TCDD レベルの中央値が 15〜20 ppt であり, 報告されているセベソ住民の事故当時における TCDD 曝露量から推定された血清中 TCDD 濃度が 100 ppt であることから, 調査対象となった婦人を血清中 TCDD 濃度がそれぞれ 20 ppt 以下のグループ, 20〜100 ppt のグループおよび 100 ppt より高いグループに分類した. その結果, TCDD レベルが 20 ppt 以下であったグループと比較して, 20〜100 ppt であったグループの子宮内膜症を発症する危険率 (relative risk ratio, RRRs) は1.2 (90%信頼限界(CI) = 0.3 - 4.5) であり, 100 ppt より高かったグループでは2.1 (90% CI = 0.5 - 8.0) であった. 「症例」 とされた婦人を1点, 「非罹患」 とされた婦人を2点と数えて, 「非罹患」 に対する 「症例」 の割合が血中 TCDD 濃度高いグループで増えるかどうか, あるいは, 血清中 TCDD 濃度の対数値の増加に伴って増加するかどうかの傾向性を検定したが, 有意差は認められなかった.
 以上の結果から, 血清中 TCDD レベルが 100 ppt より高い婦人では子宮内膜症になる危険性は2倍と算定されるが, 有意差はなく, 明瞭な用量反応性もない. 著者らは, 調査方法に限界があることを認め, 全症例に腹腔鏡を行ってはいないことから, 疾病の分類に誤りがあっても除外できないため, 子宮内膜症の真の危険性を低く見積った可能性もあるとしている.

Environmental Health Perspectives 110 (7): 629-634 (2002)
Eskenazi B1, Mocarelli P2, Warner M1, Samuels S1,3, Vercellini P4, Olive D5, Needham LL6, Patterson DG, Jr.6, Brambilla P2, Gavoni N4, Casalini S2, Panazza S4, Turner W6, Gerthoux PM2
(1州立 California 大学 Berkeley 校 公衆衛生学部 小児環境健康センター, Berkeley, CA; 2Milano-Bicocca 大学 医学部 Desio 病院, 実験医学科, Desio-Milano, Italy; 3州立 California 大学 Davis 校 疫学・予防医学科, CA, USA; 4Milan 大学 医学部 産婦人科, Milan, Italy; 5Yale 大学 医学部 産婦人科, New Haven, CT, 6疾病管理予防センター, 米国立環境保健センター, 環境保健実験科学部門, Atlanta, GA, USA)



出生前ダイオキシン曝露を受けたラットにおける大脳皮質優位性の変化にみられる性的二型性
Sexually dimorphic alterations of brain cortical dominance in rats prenatally exposed to TCDD

Key Words : TCDD (2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin)/出生前曝露/自発運動量/大脳皮質左右機能分化

 大脳皮質機能の左右分極化はヒトでも動物でも数多く報告されており, 雌雄によって異なること, すなわち性的二型性が知られている. 雄ラットは雌ラットと比べて右半球の優位性が明確である傾向があり, 一方, 雌ラットは雄に比べて, 左半球の方に優位性偏ることが認められている. この大脳機能左右局在はストレスや環境要因やステロイドホルモン等の影響で変化することがあるが, 出生前に TCDD (2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin) 曝露を受けると, 雄出生児の性行動に脱雄性化が認められる. これまでの研究において著者らは, ラットが妊娠8日に TCDD 曝露を受けると, 皮質の優位性が転換することを報告してきた. 今回の研究では, 著者らは TCDD 曝露を受けたラットに認められた変化の本質を明らかにするために, Sprague-Dawley 系妊娠ラットに対して 0, 20, 60 および 180 ng/kg の TCDD を妊娠8日に経口投与して出生児を得, 生後90日に対照群および 180 ng/kg 曝露群の各腹雌雄1匹を選び, 麻酔下でブアン液による全身潅流固定を行なって脳を採取し, 形態計測を行なった. また, 生後30, 60および90日に, 各群の雌雄出生児について, 神経毒性評価にしばしば用いられ, 性差が認められる自発運動量を測定した. 形態計測を行なうために採取した脳はパラフィン包埋し, 5 μm の厚さで前頭断の切片を作製し, 50 μm 毎にヘマトキシリン・エオジン染色を施して, 前頂から尾部に向かって 1.8 mm, 3.8 mm および 5.8 mm の位置に当たる3枚の切片を形態計測に用いた. これら3枚の切片には, Krieg による分類における領域2, 3, 17, 18aおよび39が含まれるので, それらの領域における皮質の厚さを左右半球それぞれについて, 特殊なカラーカメラを装着した光学顕微鏡を用いて定量的デジタル化増感画像によって解析した.
 その結果, 対照群の雌雄出生児における大脳皮質は曝露群のそれと比べて左右ともに厚くなっていた. TCDD 曝露群の雄出生児では, 領域17および39において右半球の優位性が左半球に転換していた. それに対して雌ラットの脳では右半球優位の傾向がより顕著に認められるようになっていた. しかし, 未成熟期および成熟期における自発運動量には, 用量間で差は認められなかった. これらの成績から出生前における TCDD 曝露は皮質の厚さを減少させ, 大脳皮質の正常な左右不対称性を変化させることが明らかになった. このことは, TCDD 曝露が行動の性的二型性に及ぼす影響に一致した変化であると著者らは結論している.

Journal of Applied Toxicology 22: 129-137 (2002)
Zareba G1, Hojo R1, Zareba KM1, Watanabe C2, Markowski VP3, Baggs RB1, Weiss B1
(1Rochester 大学 医科歯科部 環境医学科, Rochester, NY; 2東京大学 人類生態学分野, 東京; 3Southern Maine 大学 心理学科, Portland, ME, USA)



出生前ダイオキシン曝露による行動反応の性的二型性
Sexually dimorphic behavioral responses to prenatal dioxin exposure

Key Words : 行動毒性/基準位用量 (ベンチマーク用量)/オペラント行動/出生前曝露/神経行動学的機能/性的二型性/TCDD/2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin

 TCDD 曝露がオペラント行動に影響を及ぼすかどうか, ならびに TCDD 曝露が及ぼす影響の中に性に依存したものがあるのかを知るため, 著者らは Sprague-Dawley 系ラットの妊娠8日に, 2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin を 0, 20, 60 および 180 ng/kg, 1回経口投与し, 各腹から生まれた雌雄各1匹をとり5〜6腹/群とし, 生後80日から制限給餌を行ない, 餌のペレットを強化刺激とするレバー押しによる2種類のオペラント行動試験を行なった. 試験には, 一方の壁にレバーが取り付けられ, その下にある餌箱に, 様々な設定で実験動物用飼料ペレットがひとつずつ供給されると, 餌箱の照明が点灯され, カチッと音が出るように設計されたオペラントチャンバーを用いた. 試験に先立ち, ラットに予備訓練を行なって, レバーを押して餌のペレットを得るように訓練した. 初めの FR 増加試験では, ペレットの供給を受けるのに必要なレバー押し回数を, 1回 (FR1) から71回 (FR71) まで4試行毎に増加させていき (FR), FR 反応率 (反応回数/試行時間) およびローカル反応率 (反応回数/各 FR 試行において初回反応までに要した時間を除いた試行時間) を算出した. 次いで, ペレットが FR71 と同じ条件で餌箱の裏側に供給されるように設定された条件で試行させ, 記憶を消去した後にFR11 を学習させ, 次に30日間に亘り, FR11 と10秒間隔でレバーを押さないとペレットが供給されない differential reinforcement of low rate (DRL) とを組み合わせた FR11 DRL 10 sec 複合試験を実施した. 複合試験では, FR11 の間は装置の照明が点灯して11回レバーを押す度にペレットが供給されるのに対し, DRL の間は装置の照明が点滅し, 最初にレバーを押してから10秒後にレバーを押した場合にのみペレットが供給されるように設定した. 反応の正否にかかわらず, 1試行の中で FR11 と DRL は交代し, 最終的には FR11 と DRL の試行時間がそれぞれ1分と5分間になるように試行を繰り返し, FR 反応率, ローカル反応率, DRL 反応率 (DRL 反応数/DRL 試行時間), 強化における DRL 反応率 (DRL ペレット数/DRL 試行時間), 強化された DRL の割合, 反応の FR 相対率 (FR 反応の割合/総反応に対する FR 試行時間/試行時間) を算出した.
 その結果, 母動物の分娩状態や出生児の成長には TCDD 曝露の影響は認められず, いずれの動物も3〜4日の訓練でレバー押しを学習した. TCDD 曝露は性的に2型の (雌雄で相違する) 反応を誘発し, 全体的に, TCDD 曝露雄は対照群の雄と比べて低い割合で反応し, 曝露雌では対照群と比べて高い頻度で反応した. 同腹の雌雄の間で複合試験から得られた算出値の差を求め, それと TCDD の用量との間で2次の多項回帰曲線を作成し, それに0用量モデルを適用して TCDD の1%有効用量 ED01 および10%有効用量を基準用量として算出したところ, FR 反応率における雌雄差の平均 ED10 は 2.77 ng/kg で95%信頼限界の下限は 1.81 ng/kg であった. また, その ED01 は 0.27 ng/kg で95%信頼限界の下限は 0.18 ng/kg であった. DRL 反応率の雌雄差に関しては, 平均 ED10 は 2.97 ng/kg で95%信頼限界の下限は 2.02 ng/kg であり, ED01 は 0.30 ng/kg で95%信頼限界の下限は 0.20 ng/kg であった. これらの値は互いに近接していたが, 現在, 毒性等価に基づいて推定されているヒトにおける体内蓄積量の 13 ng/kg を下回る値であった.

Environmental Health Perspectives 110: 247-254 (2002)
Hojo R1, Stern S1, Zareba G1, Markowski VP2, Cox C3, Kost JT3, Weiss B1
(1Rochester 大学 医科歯科学部 環境医学科, Rochester, NY, 2Southern Maine 大学 心理学科, Portland, ME, 3Rochester 大学 医科歯科学部 生物統計学科, Rochester, NY, USA)



周産期投与したビスフェノールAの雌雄ラットの社会的性行動に及ぼす影響
Effects of perinatal exposure to bisphenol A on sociosexual behavior of female and male rats

Key Words : ビスフェノールA/内分泌撹乱/性行動/ラット/社会的行動

 中枢神経系におけるエストロゲンや, アロマターゼにより芳香化されたアンドロゲンは, 周産期に脳の性分化に重要な役割を果たし, その後の性行動に影響を及ぼす. 環境中に広く存在するビスフェノールAは, 弱いエストロゲン作用を示すことが知られており, 低濃度曝露によりラットの非社会的行動 (個体の行動) に変化を来たし, 雌マウスの性成熟を早めると報告されている. したがって, ビスフェノールAは周産期に中枢神経系に作用して, 成長後の社会的性行動を変化させる可能性がある. この仮説を調べるために, 著者らは妊娠期および授乳期の母動物に 40 mg/kg/day のビスフェノールAを投与し, その雌雄子ラットの性成熟後の社会的行動 (他の個体との関係) と性行動を観察した. 社会的行動 (イントルーダー) 試験では, 同性の同体重のラットをケージ内に入れ, 攻撃行動や防御行動の頻度や期間を観察した. その結果, 雄の防御行動がビスフェノールA投与群で増加した. 雌の敵対行動には, 変化はなかった. 性指向試験 (セクシュアルオリエンテーション) では, 同性または異性のラットを提示して, その性に対する関心度 (性欲) を観察した. また, 性行動試験では, 雄の雌ラットに対する性行動 (マウント, 挿入, 射精など) と雌の雄ラットに対する性行動 (ロルドーシスなど) を観察し, ビスフェノールAの性行動に及ぼす影響について調べた. 雄の雌ラットに対するセクシュアルオリエンテーションはビスフェノールAによって影響を受けなかった. しかし, 性行動試験では, 挿入時間と頻度を指標とした性行動がビスフェノールAによって僅かに抑制された. 雌では, ビスフェノールAによって雄に対する性欲がわずかに増加し, ロルドーシスの頻度が増加した. 結論として, 妊娠および授乳期のビスフェノールA投与によって, 雌の行動の雄性化あるいは雄の雄性化の増強は起こらなかったが, 雌の雌化の増強と雄の脱雄化が弱いながらも観察された.

Environmental Health Perspectives 110: 409-413 (2002)
Farabollin F1, Porrini S1, Seta DD1, Bianchi F2, Dessì-Fulgher F2
(1Siena 大学 人類生理学研究所, Siena, Italy, 2Firenze 大学 動物生物学遺伝学科, Firenze, Italy)



ポリ塩化ビフェニル類の胎児期曝露はラットの性行動に影響を及ぼすか
Developmental exposure to polychlorinated biphenyls affects sexual behavior of rats

Key Words : PCB/性行動/実験用ラット/発生

 胎児期および哺乳期における PCB 曝露が雌雄の性行動に及ぼす影響を, 実験用ラットを使って検討した. すなわち, Long-Evans 系妊娠ラットに, 2,4,2',4'-tetrachlorobiphenyl (PCB 47) を1または 20 mg/kg, あるいは3,4,3',4'-tetrachlorobiphenyl (PCB 77) を 0.25 または 1 mg/kg, 妊娠7日から18日まで毎日腹腔内に投与した. 対照群の妊娠動物にはゴマ油を同様に投与した. これらの動物を分娩させ, 分娩後24時間以内に一腹の哺育児数を雄4匹および雌4匹に揃え, そのまま母動物に哺育させた. 性行動の観察は, 雌は70日齢から91日齢の間に, また, 雄は97日齢から101日齢の間に, いずれの場合も毎週1回ずつ3回, それぞれ胎児期曝露処置を受けていない群の雌雄動物を同居させて行った. 雌の雄に対する受容性は, 卵巣ホルモンの影響を受けることから, それを一定にするために, 観察に先立ち卵巣摘出手術を行い, estradiol benzoate (0.5 μg ずつ3回)およびプロゲステロン (0.5 mg 1回) を筋肉内に投与した. 雌の性行動に及ぼす影響は, 雄への接近欲を調べる pacing test とロルドーシス行動の頻度観察により検討した. Pacing test は, 雌しか通過できない狭い入口のある仕切りで隔たれた2室の一方に雄を置き, 他室に実験群の雌を入れ, 5分間観察する方法である. 雌が雄のいる領域に移動するために仕切りを通過するまでに要する時間 (approach latency) は, PCB 77 曝露群で減少したが, PCB 47 曝露群では影響は認められなかった. 一方ロルドーシス行動は, 雌ラットの受容性の指標であるが, PCB 47 20 mg/kg 曝露群ならびにPCB 77 0.25 および 2.5 mg/kg 曝露群において減少した. これらの用量の PCB 曝露群では, 雌の肛門生殖突起間距離が長くなっており, 発生過程における PCB 曝露は, アンドロゲンに対する反応性に影響を及ぼす可能性が示唆された.
 雄の実験群は, 実験と同様のホルモン前処置を受け, さらに性行動の経験のある非実験群の卵巣摘出雌ラットが置かれた領域に自由に出入りできる箱に入れて, 性行動を観察した. その結果, 雄の実験群の性行動には PCB 曝露の影響は認められなかった. また, 肛門生殖突起間距離など雌に認められた PCB 曝露の影響は雄には認められなかった. 今回の実験では, 母動物および出生児に対する毒性変化は認められず, 出生児の外陰部奇形も観察されなかった.

Physiology & Behavior 75: 689-696 (2002)
Wang XQ1, Fang J2, Nunez AA3, Clemens LG4
(1Leshan 教育大学 生物学科, 四川省, China; 2臨床評価科学研究所, Ontario, Canada; Michigan 州立大学 3心理学科, 4動物学科・神経科学プログラム, MI, USA)



遺伝子組換え食品:食品アレルギー
Genetically engineered foods: Implications for food allergy

Key Words : 遺伝子組換え/食品アレルギー/トウモロコシ/大豆

 トウモロコシや大豆などの遺伝子組換え農産物は, 消費市場に出回っており, 特に米国では, このような食品への消費者曝露は一考すべきレベルである. しかし, 遺伝子組換え作物の特性である害虫や除草剤への耐性は, 消費者の直接的な利益につながりにくいため, 消費者曝露の影響は見えにくい. したがって, 遺伝子組換え産物は, 市場に紹介される前に慎重でかつ完全な安全性評価を受けるべきである.
遺伝子組換え食品の遺伝子は, アレルゲンとなるタンパク質を合成する可能性があり, 安全性評価にアレルゲン性試験も含まれるべきである. このアレルゲン性試験は, 遺伝子組換え食品の開発の遺伝子選択の段階から関わるべきである. 例えば, 真菌感染による穀物の病気を防ぐためにキチナーゼ (キチン加水分解酵素) 遺伝子を選択する場合, キチナーゼのアレルゲン性試験を実施しなければならない. 選択された遺伝子自身にアレルゲン性がみとめられなくても, 新種のタンパク質を合成する可能性があり, これについては, International Life Sciences Institute と International Food Biotechnology Council 共同のタスクフォースや, FAO, WHO などが, アレルギー患者の血漿イムノグロブリンEを用いた免疫反応性試験を含む安全性評価の決定樹を作るなどしているが, この方式には賛否両論がある. しかし, 安全性評価法には遺伝子の母体のアレルゲン性評価, 新種タンパク質と既存のアレルゲンの配列類似性の検討, およびペプシンへの抵抗性試験が必要であるという一般的な合意はある.
 これまでの研究で, 市場供給を許可された穀物へのアレルギー反応は認められていない. 上記の評価法に幾つかの遺伝子組換え食品を当てはめて検討してみる.
 Glyphosate 耐性ダイズ (GTSs) は除草剤の glyphosate に耐性を持つよう改良されている. GTSs は Agrobacterium 属の CP4 から glyphosate 耐性である 5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate 合成酵素遺伝子 (CP4 EPSPS) を導入した. この細菌自体にアレルゲン性は認められておらず, EPSPS は多くの植物, 細菌, および真菌に存在し, 人は食事を通じて, 何世紀もの間 EPSPS 関連酵素に曝露されている. また, CP4 EPSPS と既存アレルゲンの配列類似性も認められず, ペプシンによって急速に消化される. したがって, CP4 EPSPS を組み込んだ GTSs が新種のアレルゲンを含む可能性は低い.
 トウモロコシは害虫に抵抗性をつけるため, Bacillus thuringiensis から幾つかの遺伝子を導入されている. その中に Southern corn borer に抵抗性のある cry9c 遺伝子を導入したスターリンクコーンがある. まだヒトの食糧としては承認を得ていないスターリンクコーンは, 動物の飼料としては米国で認可されていたが, ヒト用の食品にスターリンクコーンが混入されているのがみつかり, 2000〜2001年にかけてリコールされた. アレルゲン性については, cry9c 遺伝子の母体バクテリアにはアレルゲン性はなく, Cry9C タンパクと既存アレルゲンの配列類似もない. しかし, Cry9C タンパクはある条件下でペプシンによる加水分解に抵抗性を示すことから, アレルゲン性が疑われヒトの食糧としては承認されていない.
 高メチオニン大豆は, 高メチオニンタンパクを合成する遺伝子をブラジルナッツから導入した. ブラジルナッツのアレルゲン性は明らかにされているが, そのアレルゲンは知られていない. Nordlee らは, ブラジルナッツアレルギー患者の血清を用い, 高メチオニン大豆および精製された高メチオニンタンパクのアレルゲン性試験を行った結果, ブラジルナッツから導入された遺伝子はブラジルナッツアレルゲン (Ber e 1) の情報をもつ可能性があることがわかった. この結果は, 3人のブラジルナッツアレルギー患者の皮膚プリックテストでも確認された. したがって, 高メチオニン大豆は市場には供給されなかった.
 遺伝子組換え穀類は, 伝統的な品種改良と比べても, ほんの一部しか遺伝子が組換えられておらず, 新しいタンパク質の発現レベルは極めて低いと考えられる. 従って, これらの新しい蛋白質への消費者曝露も低く, アレルギー感作は起こりにくいと予想される. それでも遺伝子組換えによって作り出された食品は, 世界中の規制関連省庁などから食糧として承認される前に, アレルゲン性など安全性を評価されるべきであるが, その評価法の適正さについては科学的にも規制の方法についても論争は続いている.

Current Opinion in Allergy and Clinical Immunology 2: 249-252 (2002)
Taylor SL, Hefle SL
(州立 Nebraska 大学 食品アレルギー研究プログラム, Lincoln, NE, USA)



食品加工会社におけるIV型アレルギー反応の実情
Type IV allergy in the food processing industry: sensitization profiles in bakers, cooks and butchers

Key Words : アレルゲン/アレルギー性接触皮膚炎/食品加工業界/ホルムアルデヒド硫酸ニッケル/チウラム

 職業性皮膚疾患は, 食品加工業界では重大な問題であるが, 食品加工業従事者におけるアレルギー性接触皮膚炎の影響に関するデータはほとんど報告されていない. そこで本研究は食品加工会社の従業員におけるアレルゲンおよび感作プロファイルの確立を目的とした. 1992年から1999年までの皮膚科情報ネットワークに属する33施設において, 職業病としてのアレルギー性接触皮膚炎を疑う873例の製パン業 (340例), 調理師 (403例), 製肉業 (130例) 従事者についてパッチテストを行った結果を解析した. 最終的にアレルギー性接触皮膚炎と診断された従事者数は213例 (24.4%) であった.
 アレルゲンプロファイルを定性的および定量的に解析したところ, 全被験母集団と比較して食品加工会社の従事者は, 硫酸ニッケル (22.4% vs. 17.2%), ゴムの加硫促進剤であるチウラム混合物 (4.9% vs. 2.6%), ホルムアルデヒド (3.5% vs. 2.1%), 合成品混合物 (6.2%) に対して有意に高い感受性を示した. これに対してチメロサールに対する感受性 (4.5% vs. 6.9%) は有意に低値を示した.
 これらのことから食品加工従事者に対するパッチテストとして, 個人の履歴に従った患者の関与した製品と同様にゴムや合成品混合物系のような標準となる物質を使用することも必要であると考えられた. こうして得られた結果によって予防や治療の方針を立てることが可能となる.

Contact Dermatitis 46: 228-235 (2002)
Bauer A1, Geier J2, Elsner P1
(1Friedrich-Schiller 大学 Jena 校, 皮膚科学・アレルギー学科, 2Göttingen 大学 皮膚科学科, 皮膚科情報ネットワーク (IVDK), Germany)



殺虫剤曝露が免疫グロブリン類および補体類の血清レベルに及ぼす影響
Effects of pesticide exposure on serum immunoglobulin and complement levels

Key Words : 殺虫剤/免疫グロブリン

 殺虫剤は家庭用, 業務用に広く使用されている化学物質であることから, 殺虫剤曝露の免疫機能に及ぼす影響が危惧される. 動物実験や培養細胞を用いた実験では, 殺虫剤曝露を受けると, 免疫機能が急性的にあるいは慢性的に変化すると報告されているが, 影響そのものに関して統一的見解は得られていない. また, ヒトの免疫機能に及ぼす影響については, ほとんど報告がない. そこで著者らは, 殺虫剤曝露を受けた労働者の免疫機能が変化するかどうかを調べるために, 少なくとも1年以上 (1〜23年, 平均10±9年) の間, 日常的に殺虫剤の散布作業を行っていた33名のアンカラ市男性職員 (非喫煙者10名, 喫煙者23名, 28〜61才, 平均43±7才) について血清中免疫グロブリン類 (IgG, IgA, IgM) ならびに C3 および C4 補体濃度をそれぞれに対する抗体を用いた免疫比濁法で測定して求めた. 対照としてこれらの男性と同年代 (28〜61才, 平均42±7才) で同程度の社会的および経済的生活をおくり, 同等の喫煙習慣者23名を含む職業的に殺虫剤曝露を受けた経歴のない33名の大学職員の健常男性を選び, 同様の測定を行って比較した.
 過去3年間で最も一般的に使用された殺虫剤はピレスロイド系殺虫剤であった. 有機リン系およびカルバメート系殺虫剤の使用量は, 発赤や接触性過敏症が起こるという労働者の訴えにより減少しているが, 採血を行った時点ではアレルギーを示唆する臨床検査データや類似した所見を示す労働者はいなかった. 測定した免疫グロブリン類および補体のうち殺虫剤散布作業者の血清中 IgG, IgA, IgM および C3 レベルは対照群との間で差が認められなかったが, C4 レベルは殺虫剤散布作業者で有意に低下した. しかし, 曝露期間との間に相関はなかった. また, 安全教育を受けず, 殺虫剤散布の際に手袋やマスクなどの防護具を着用していなかった9名とそれ以外の24名の殺虫剤散布作業者との間で, 免疫グロブリン類および補体の測定値に差は認められなかった. 今回の結果から複数の殺虫剤による慢性的曝露が血清中 C4 レベルを低下させるとは結論できないが, 殺虫剤による影響を除外することもできない. 今回測定したのとは別の免疫指標 (例えば CD4/CD8 比, IL-8, ネオプテリン濃度など) や臨床的および臨床化学的に被験者を追跡調査すること等についても検討する必要があると著者らは述べている.

Immunnopharmacology and Immunotoxicology 23 (3): 437-443 (2001)
Ündğer U, Basaran N
(Hacettepe 大学 薬学部 薬剤毒性学科, Ankara, Turkey)



心臓および肝臓でみられるアドリアマイシン誘発急性毒性は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬併用により軽減する
Potential protective role of angiotensin-converting enzyme inhibitors captopril and enalapril against adriamycin-induced acute cardiac and hepatic toxicity in rats

Key Words : アドリアマイシン/抗腫瘍薬/アンジオテンシン変換酵素阻害薬/フリーラジカル/心毒性/肝毒性

 アドリアマイシンは,キノン含有アントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質であるが,その心臓毒性が使用を制限する主因となっている. アドリアマイシンは,フリーラジカルを産生し,細胞傷害と関連する酸化ストレスを誘発しやすい化学構造を持つ.さらに,アドリアマイシンを投与すると,フリーラジカルをスカベンジする内因性抗酸化物質が減少する.抗酸化物質の減少および酸化物質の増加は,酸化ストレスの増加を意味し,これによって心毒性および肝毒性が促進する.近年,アドリアマイシンと心筋保護薬との併用投与や,抗酸化物質による酸化ストレス誘発傷害の防止など,アドリアマイシンの抗腫瘍活性を妨害することなく,心毒性のみを防ぐ方法が模索されている.
 アンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬は,心筋保護薬として一般に使用されており, また,強力なフリーラジカルスカベンジャーであることが知られている.従って本研究では, ACE 阻害薬であるカプトプリルおよびエナラプリルが,アドリアマイシン誘発心および肝毒性に対する防御作用を有するかどうかをラットを用いて調べた. さらに, この防御作用において抗フリーラジカルメカニズムが関与するか否かについて調べた.
 体重 150〜180 g の成熟雄性ラットを6群に分け,第1〜3群の動物には,0.5 mL の水, カプトプリル 10 mg/kg またはエナラプリル 2 mg/kg をそれぞれ7日間胃内投与した.第4群の動物には,アドリアマイシンを 15 mg/kg 腹腔内単回投与した.第5および6群の動物には,それぞれカプトプリル 10 mg/kg およびエナラプリル 2 mg/kg を投与した後,アドリアマイシン 15 mg/kg を投与した.アドリアマイシン投与後30時間に,採血して血清を得, グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ (GPT),グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ (GOT),クレアチンキナーゼアイソザイム (CK-MB) および乳酸デヒドロゲナーゼ (LDH) レベルを測定した.また,心臓および肝臓をホモジナイズして,脂質過酸化のインディケータであるチオバルビツール酸反応物質 (TBARS),スーパーオキシドディスムターゼ (SOD) 活性,カタラーゼ (CAT) 活性およびグルタチオン (GSH) 量を測定した.アドリアマイシンを単回投与した第4群の動物では,心臓および肝臓の TBARS が有意に増加し,SOD 活性が阻害され, 血清の GPT,GOT,CK-MB および LDH が上昇して急性心毒性が示唆された.また,心臓および肝臓の GSH 量や,心臓の CAT 活性には影響がみられなかったが,肝臓の CAT 活性は上昇した.ACE 阻害薬を前投与した第5および6群の動物では,心臓および肝臓のアドリアマイシンによる TBARS の上昇は有意に抑制され,SOD 活性の阻害が低減した.さらにカプトプリルおよびエナラプリルは,アドリアマイシン投与による血清 GOT,GPT,CK-MB および LDH レベルの上昇を有意に抑えた.
 以上の結果から,ACE阻害薬は,抗酸化作用によって心臓および肝臓でみられるアドリアマイシンの急性毒性を減弱することが示唆された.ACE阻害薬とアドリアマイシンの併用は,アドリアマイシンの急性毒性に基づくこれらの臓器障害への対処法として有用かもしれない.

Journal of Applied Toxicology 21: 461-473 (2001)
Abd El-Aziz MA1, Othman AI2, Amer M2, El-Missiry MA2
(Mansoura 大学 1医学部 薬理学科, 2理学部 動物学科, Mansoura, Egypt)



牛肉および牛糞中に存在する腸管出血性大腸菌O157, O111, O26のリアルタイム PCR を用いた検出および定量
Detection and quantification of enterohemorrhagic Escherichia coli O157, O111, and O26 in beef and bovine feces by real-time polymerase chain reaction

Key Words : 腸管出血性大腸菌

 腸管出血性大腸菌 (EHEC) O157:H7 あるいは関連の非 O157 血清型 EHEC (O26:H11, O26:NM, O111:H8, O111:NM) がヒトにおける疾患の重要な原因として世界中で問題視されている. EHEC の重要な病原因子は, 付着 - 退縮機構に関与する外膜蛋白質インチミン (eae 遺伝子にコードされている) と志賀毒素 1, 2 (stx 1 およびstx 2 遺伝子にコードされている) である. そこで eae 遺伝子および stx 遺伝子の存在をモニタリングすることにより EHEC の検出および定量を同時に行うためにリアルタイム・ポリメラーゼ連鎖反応 (R-PCR) 法を開発し, この検査法を評価した.
 eaeR-PCR 試験では, EHEC O26 (77bp の EHEC O26 特異的 eae 遺伝子配列), O111 (88bp の EHEC O111 特異的 eae 遺伝子配列), O157 (106bp の EHEC O157 特異的 eae 遺伝子配列) それぞれの特異的な eae 遺伝子配列部位の増幅並びにリアルタイム検出のために, 3セットのプライマ - と TaqMan プローブを選択した. また, stxR-PCR 試験では, stx 1 遺伝子 (150bp の stx 1 特異的遺伝子部位) および stx 2 遺伝子 (200bp の stx 2 特異的遺伝子部位) の増幅および検出のために, 2セットのプライマ - と TaqMan プローブを用いた. 既知の病原因子マーカーを有する67菌種から DNA を調製し, これらを用いて2つの試験方法の特異性を決定するために試験した.
 eaeR-PCR 試験では, eaeO157 および eaeO111 特異的プライマー - プローブセットを用いることにより EHEC O157 および O111 のみをそれぞれのプラーマー - プローブセットで検出した. また, eaeO26 特異的プライマー - プローブセットを用いた場合は, 全ての EHEC O26, 幾つかの志賀毒素陰性腸管出血性大腸菌並びにウサギ下痢性大腸菌と交差反応性を示していた. 一方, 定量試験における両 R-PCR 法の検出範囲は, 103〜108 cfu/mL の EHEC に対応した DNA 濃度で直線的かつ相関係数の高い定量性を示した. いずれの試験方法でも改良トリプチケース・ソイ液体培地で16時間培養することにより, 糞便中あるいは牛肉中いずれでも非常に低濃度 (1〜10 cfu/g) の汚染でも検出並びに定量が可能であった. さらに, 対象と異なる細菌が 107 cfu/g 以上存在しても検出に影響は見られなかった.
 以上のことから, eae 遺伝子および stx 遺伝子に基づく R-PCR 法は, 家畜や牛肉製品中に存在する重要な血清型 EHEC の迅速, 特異的, かつ定量的に検出するために確実で感受性の高い手法であると考えられる.

Journal of Food Protection 65: 1371-1380 (2002)
Sharma VK
(米国農務省 農業調査局, 国立動物疾病センター 未収穫食物安全および腸疾病研究班, Ames, IA, USA)



河川細菌によるビスフェノールAの分解
Bisphenol A degradation by bacteria isolated from river water

Key Words : ビスフェノールA/生物分解/河川細菌

ビスフェノールA (BPA) は内分泌撹乱物質のひとつでエストロゲン作用があり,また水棲生物に急性毒性を示すといわれている. 一方, BPA は菌類や汚水処理槽底質のグラム陰性菌により分解される.河川細菌によっても分解されるという報告もあるが, BPA 分解に関与する細菌の同定はほとんどされていない.この研究では宮崎県内の3河川水および河川水から分離した細菌の BPA 分解能を調べた.
細菌の同定は,生化学的特性検査,光学顕微鏡による形態の観察,培地上の集落観察, 16S ribosomal DNA 解析および API 20NE 試験により実施した.分解試験では河川水に 1 mg/L になるよう BPA を添加して遮光下30℃で好気的または嫌気的条件下に静置後,経日的に採水してメンブランフィルターで濾過し, HPLC で分離して蛍光検出器で BPA を定量した.
好気的条件下では3河川水とも半減期2〜3日の速度で BPA を分解し, 7日目には1/10以下,10日目には検出限界 (0.005 mg/L) 以下となった.しかし,嫌気的条件下では10日目でも90%以上の BPA が残存していた. 一方, 河川から分離した細菌11種のうち10種に BPA 分解能があり, 10日間での分解率は18〜91%であった.最も高い BPA 分解能を有する2種の河川細菌はシュードモナス属の菌 Pseudomonas sp. と Pseudomonas putida であった.

Archives of Environmental Contamination and Toxicology 43: 265-269 (2002)
Kang J-H, Kondo F
(宮崎大学 農学部 獣医公衆衛生学講座, 宮崎)