食品・薬品

安全性研究ニュース

第51号



目次
  1. ロシアの農薬工場におけるダイオキシン被曝と子供の性比
  2. 米国ベビーフードのダイオキシンレベル
  3. メトキシクロルのエストロゲンおよび抗アンドロゲン作用による精子発生への影響
  4. 職業的磁場曝露と心血管死
  5. 出生前薬物曝露を受けた子供の出生から生後の発育
  6. 妊娠期間中の喫煙と小児の肥満
  7. 日本のシックビルディング症候群における危険因子としての環境からのタバコの煙曝露と超過勤務
  8. 喫煙制限のない職場における環境タバコ煙:場所と人の曝露に対するモニタリング
  9. ネコアレルギーと母親の喘息歴との関係素の性特異的発現
  10. 爆破解体で飛散する真菌除去のための病院内換気システムの能力




ロシアの農薬工場におけるダイオキシン被曝と子供の性比
Sex ratios of children of Russian pesticide producers exposed to dioxin

Key Words : ダイオキシン/農薬工場労働者/出生児の性比

 塩素含有化合物の製造に携わっている労働者は, 残留性の高い塩素化ジベンゾ-p-ジオキシン (PCDD) や塩素化ジベンゾフラン (PCDF) を常に浴びる危険に曝されている. ダイオキシンの副作用はかつて急性毒性や発癌に焦点が当てられていたが, イタリア Seveso の化学工場で起こった1976年の事故による TCDD 被曝者の子供の65%が女児であったこと, およびこの事象は父親の被曝に関連することが判明したことから, 近年は発生毒性や生殖毒性に関与していると考えられるようになってきた. しかし, オーストリアの化学工場労働者,台湾の PCB 汚染油症患者, ベトナム戦争で枯葉剤散布に関わった米国退役軍人および米国の殺虫剤製造者を対象とした疫学調査では子供の性比への影響はみられていない. また一方, 1992年ロシア Ufa の化学工場労働者についての小規模な調査では出生児の性比については調べられていない.
 Ufa は, ヨーロッパ東端, ウラル山脈西側のロシア Bashkortostan 共和国にあり, Khimprom と呼ばれる農薬製造プラントが1940年代前半から操業していた. 1961〜1988年に600人以上の労働者が木材防腐剤 2,4,5-trichlorophenol (TrCP) および殺菌剤 hexa-chlorophene や除草剤 2,4,5-trichlorophenoxy acetic acid (2,4,5-T) の中間体を製造していた. また, 250人以上が1964〜1967年の約2年間にわたり 2,4,5-T の生産に従事していた. 労働者の多くは20代前半の青年であったが, 若い女性も 2,4,5-T および TrCP の製造に携わっていた. 2,4,5-T 製造が中止されてから25年後の1992年に血液を採取し, 工場労働者および Ufa 市住民およそ60人の男女・子供を調べた結果, 2,4,5-T の製造に従事していた人の TCDD および PnCDD 被曝は著しく, TCDD の血中濃度は同年代対照群の30倍以上であった. 本研究では血中ダイオキシン濃度のデータを追加し, 調査対象者の勤務歴や出生児数・性などについて, 工場の資料と本人または近親者の供述との照合を行い 2,4,5-T および TrCP 製造労働者の子供の性比について調査した.
 これら労働者の血中ダイオキシンレベルは, この地方および世界中の通常レベルより1〜2桁高く, ダイオキシン被曝を証拠づけた. 調査対象者の出生男児比は0.40で全世界の0.512とは統計的に差があった. 血中濃度でみたダイオキシン被曝の程度は父母で差がなかったが, 母親の被曝では男児比が0.51と正常であり, 父親の被曝ではこの比が0.38と両者に差が認められた. 大がかりな血中濃度測定と出生児数をまとめた本調査では, Ufa の農薬製造に携わった男性労働者の男児出生率は低下を示した. 出生男児比は全世界で安定して約0.51であり, Ufa および近隣地域の1959〜1996年の値も同様である. 父親の若い時期でのダイオキシン被曝やダイオキシンのアンチアンドロゲン作用による精子運動能の低下などが出生男児比低下の原因と考えられるが, 蓄積性のない塩素化フェノールやフェノール系殺虫剤もこの原因候補であり, 化学物質のヒト生殖に及ぼす影響を理解するにはさらに研究が必要である.

Environmental Health Perspectives 110: A699−A701 (2002)
Ryan JJ1, Amirova Z2, Carrier G3
(1カナダ保健省 健康食品部, Ottawa, Canada; 2Bashkortostan 環境保護センター, Russia; 3Montreal 大学 環境労働保健, Quebec, Canada)



米国ベビーフードのダイオキシンレベル
Dioxins in commercial United States baby food

Key Words : ダイオキシン/ベビーフード/食肉類

ダイオキシンは化学合成やごみ焼却により非意図的に発生する副産物であり, 残留性が高く, 有害な塩素系化合物である. 現在, すべてのヒト組織中に検出され, そのレベルは開発途上国よりも工業先進国で高い. ダイオキシンはヒトの発癌, 内分泌撹乱, 中枢神経系への副作用, 生殖毒性および発生毒性の原因になると考えられている.
WHO は, ダイオキシンの許容1日摂取量を体重 1 kg 当り1〜4 pg 毒性等量 (TEQ) としているが, 米国 EPA では 0.1 pg/kg TEQ を参照値としている. 通常, ヒトのダイオキシン摂取は, ほとんどが食物に由来し, 特に肉, 魚, 乳製品の寄与が大きい. 米国の食肉中ダイオキシンレベルは全重量ベースで 28〜540 ppq TEQ との報告があるが, 市販のベビーフードについては報告がなかったことから, 本研究で調査した.
Nebraska, California, Georgia, New York, Pennsylvania, Maryland の各州の都市で肉類を含むビン詰めベビーフードを1998年に購入した. これらはチキン, ターキー, ビーフ, ラムおよびハムを含む3社の製品で, 各州から3〜6, 合計24すべてロットの異なるものをプールして測定試料とし, 食物・ヒト組織のダイオキシン分析に関して WHO 認定機関であるドイツ Hamburg の ERGO 試験所において高分解能ガスクロマトグラフィー/高分解能マススペクトロメトリーにより, 7種のポリ塩素化ジベンゾ-p-ジオキシン異性体 (PCDD), 10種のポリ塩素化ジベンゾフラン異性体 (PCDF) および3種のコプラナー PCB 異性体 (co-PCB) を定量した.
ベビーフードのダイオキシン TEQ は湿組織重量当り28〜226 ppq (チキン: 77〜226 ppq, ターキー: 102〜124 ppq, ビーフ: 78〜149 ppq, ラム: 28〜30 ppq, ハム: 28 ppq) と大幅な変動があり, ターキー, ビーフ, ラムおよびハムの TEQ に占める co-PCB の割合は PCDD/Fs より大きかった. 予想通り, ダイオキシン濃度と脂肪含量とに正の相関が見られた. このように1998年における米国市販の肉入りベビーフード中ダイオキシンレベルは, 市販の肉類のレベルよりも低かったが存在はしていたので, 幼児への悪影響を懸念される向きもあろう. 米国農業省および Gerber 社の調査によれば, 通常, 1才未満では肉はあまり食べないことが示されているが, 更に大がかりな調査が必要である.

Journal of Toxicology and Environmental Health, Part A 65: 1937-1943 (2002)
Schecter A1, Wallace D2, Pavuk M1, Piskac A1 , Päpke O3
(1テキサス大学 公衆衛生学部, Dallas, TX, 2消費者組合, NY, USA; 3ERGO 試験所, Hamburg, Germany)



メトキシクロルのエストロゲンおよび抗アンドロゲン作用による精子発生への影響
The hidden effect of estrogenic/antiandrogenic methoxychlor on spermatogenesis

Key Words : メトキシクロル/生殖細胞/Sertoli 細胞/精子発生/ラット

 メトキシクロル [1,1,1-trichloro-2,2-bis (4-methoxyphenyl)ethane] は分解性の有機塩素化合物であり, 難分解生の有機塩素である DDT [1,1,1-trichloro-2,2-bis(chlorophenyl) ethane] の代用として, 殺虫剤に使用されてきた. メトキシクロルは in vivo でエストロゲン作用が認められ, 特に, そのフェノール基の代謝物である HPTE [1,1,1-trichloro-2,2-bis(p-hydroxyphenyl)ethane] は強いエストロゲン作用を有している. 本研究は, メトキシクロル経口投与により Sertoli 細胞数の減少と同時に精祖細胞数および日々の精子形成が減少するかどうか, 生殖細胞の細胞変性率や Sertoli 細胞の機能に影響を及ぼすかどうかを調べることを目的としている.
 メトキシクロル0, 5, 50 あるいは 150 mg/kg/day を出産前後 (妊娠14日目〜哺育17日) の母ラットに毎日, 強制経口投与した. さらに, 産まれた雄の哺育児 (1群あたり14〜16匹) に哺育7〜42日にかけて直接投与し, 哺育152日までに解剖し, 精巣検査を行った.
 その結果, 各群の体重に差はみられなかった. しかし, 50 および 150 mg/kg 投与群において, 精巣重量および精巣あたりの精子細胞数 (日々の精子形成) は有意に減少し, これらの変化と相関して精巣あたりの Sertoli 細胞数も減少した. さらに, 5および 50 mg/kg 投与群の精子細胞/精祖細胞比は高値を示した.
 これらの結果は, 生殖機能が未発達な雄へのエストロゲンおよび抗アンドロゲン物質の曝露は, この動物が育成した時の精子形成能力を総体的に低下させるが, 生き残った精祖細胞は多くの精子細胞を形成させることを示している.
 各投与群で精巣単位重量あたりの精子細胞数 (生き残った精祖細胞から分裂したもの) の差がみられなかったことは, 精子細胞レベルでは生殖細胞は早期精祖細胞の損失から十分に代償し得たことを示唆している.
 メトキシクロルは Sertoli 細胞数を減少させ, 精祖細胞/Sertoli 細胞比は減少したが, 精子細胞/Sertoli 細胞比に変化はみられなかった. 精子細胞/Sertoli 細胞比を基準にした場合, Sertoli 細胞の機能に影響は認められなかった結果となるが, 精祖細胞/Sertoli 細胞比を基準にした場合, Sertoli 細胞の機能に影響が認められたことになる. Sertoli 細胞機能の変動が精祖細胞/Sertoli 細胞比減少の原因であるのか, あるいは同比の変動はメトキシクロルが Sertoli 細胞機能に影響することなく, 精祖細胞に直接作用したことを表しているのかは明らかでない. 低および中用量群の精子細胞/精祖細胞比は増加していることから, 生き残った精祖細胞はその残存率の高さからメトキシクロルの毒性を受けていないと思われる. しかし, 高用量群の精子細胞/精祖細胞比は対照群と比較して差はみられなかったことから, この投与量での代償性反応は低下していると考えられた.
 以上の結果から, メトキシクロルは恒久的に Sertoli 細胞数, 日々の精子形成および精祖細胞数を減少させる. 生き残った Sertoli 細胞の機能(精子細胞/Sertoli 細胞比を基にした場合)と精祖細胞の機能には高用量群でも毒性変化は観察されなかった. メトキシクロルの主な毒性は Sertoli 細胞数と精祖細胞数に現われる. 用量依存的に Sertoli 細胞数と精巣重量が減少すると同時に精子形成能力も用量依存的に減少する. 結論として, 内分泌攪乱作用が疑われるメトキシクロルの投与により, 精子発生において代償性変化が生じるものの, Sertoli 細胞の減少が精巣あたりの日々の精子形成の回復を妨げており, 繰り返しメトキシクロルに曝露されることにより精巣の代償性能力は低下することが明らかとなった.

Toxicology and Applied Pharmacology 180: 129-135 (2002)
Staub C1, Hardy VB1, Chapin RE1, Harris MW2, Johnson L1
(1Texas A&M 大学 環境・地方保健センター 動物解剖学・公衆衛生部, College Station, TX, 2米国環境健康科学研究所 環境毒性学プログラム 生殖毒性学グループ, Research Triangle Park, NC, USA)



職業的磁場曝露と心血管死
Occupational magnetic field exposure and cardiovascular mortality in a cohort of electric utility workers

Key Words : 電磁場/冠動脈性心疾患/心筋梗塞/疫学調査

 最近, Savitz ら (1999) の報告で, 電気事業雇用労働者の心血管疾患死亡率の調査研究が報告され, 60 Hz 交流電磁波への職業的曝露の程度と急性心筋梗塞 (AMI) の死亡率とに関連が認められた,ただし慢性冠動脈性心疾患 (CCHD) では関連がなかったとしている. この影響の機序として, Sastre ら (1998;本論文共著者) のヒト志願者での実験が採用されている. 磁場曝露が心拍数を変化させるというもので, 28.3 μT の磁場に15秒ごと間歇的に曝露させると, 低周波数 (0.04〜0.15 Hz) の曝露では心拍数が低下し,高い周波数 (0.15〜0.40 Hz) の曝露では心拍数が上昇する.
 本論文では, 電力会社従業員について以前行った白血病と脳腫瘍の調査 (「食品薬品安全性研究ニュース」 39号に収録) において調査に用いたコホートについて, この関係を調査確認しようとした研究の報告を行っている. これは, 南部カリフォルニアエジソン電力会社の1960年から1992年までの間雇用された男性従業員35,391人で, 前回の調査の際, 電磁波への曝露の程度は個別に算定済みである. この集団の中で発生した407人の AMI 死, 369人の CCHD 死を解析し, 発生の年齢, 時期 (暦年), 社会経済学的状態, 人種, 作業形態等の因子について訂正した上で, 高曝露条件作業歴, 職種について調べると, AMI 死亡の頻度の対照群との比は, 1μT-年あたり, 1.01 (95%信頼範囲0.98〜1.02) であり, CCHD の死亡率比は1.00 (0.99〜1.02) となり, 電磁場曝露の影響は認められなかった.

American Journal of Epidemiology 156: 913-918 (2002)
Sahl J1, Mezei G2, Kavet R2, McMillan A3, Silvers A4, Sastre A5, Kheifets L2
(1J. Sahl 研究集団, Upland, CA, 2電力研究所 (EPRI), Palo Alto, CA, 3California 大学 San Francisco 癌センター, San Francisco, CA, 4Biotech 研究集団, Palo Alto, CA, 5A.S. Consulting and Research Inc., Overland Park, KS, USA)



出生前薬物曝露を受けた子供の出生から生後の発育
Growth from birth onwards of children prenatally exposed to drugs. A literature review

Key Words : 出生前薬物曝露/コカイン/アルコール/煙草

 妊娠中の煙草, アルコール, コカイン使用の影響が子に及ぶことは明らかになっている. しかし, これらの使用者の数は依然として多い. 米国の統計で, 妊娠中に20〜25%の婦人が喫煙し, 15%は飲酒をしており, その一部で胎児アルコール症候群 (fetal alcoholic syndrome; FAS) が3,000ないし500に1人の割で発生している. 最近は, コカインを使用する妊婦もおり, その数は確定しにくいが, 相当に多い. この総説では, 出生前薬物曝露と子の身体成長について文献調査を行った. Medline で検索して得た353論文から調査法, 規模, 解析法で評定して24報を選定し, その結果を通覧した.
煙草と生下時体格
 1950年代に妊婦の喫煙と出産児体重の関係が報告されて以来, 数十件の調査報告がなされてきた. 妊婦の1日喫煙 (紙巻煙草) 本数と出産児体重, 身長の逆相関関係が確認された. 母親の体格, 年齢等交絡因子を考慮しても, この関係は消失しなかった. 影響の程度は, 1日10本の喫煙で産児体重が平均 112 g, 20本で 226 g 低下する. また, 20本の喫煙で児の身長が 10 mm 短くなるとされた. (別々の調査による.)
アルコールと生下時体格
 高度の影響である FAS は, 1973年に記載され, 児の成長抑制, 特異な顔貌, 認識力障害の合併が特徴である. FAS は妊娠中高濃度のアルコールに曝露した結果として起こるのが典型的であるが, 中等度の曝露でも, 児の成長に影響が生じることが知られている. 飲酒による低体重児の発生は母親が30歳以上の場合に著しいとも言われている.
コカインと生下時体格
 コカインについても胎児の成長抑制があるといわれている. 産婦の自己申告に基づいた調査でも, 諸交絡因子の訂正後も関係が認められた. 400例の調査では, コカイン曝露群では, 産児の体重が 93 g, 身長が 7 mm 低かった.
 これらの薬物の胎児成長への影響の機序には, 母体の低栄養の影響があるかとも考えられるが, 胎盤血流の低下が影響していることも想定される.
煙草と小児期の成長
 胎児期の煙草曝露は, 児の生後の成長にも影響を及ぼしているという報告がある. 胎児期曝露群の児は, 6歳の時, 身長が 6 cm,体重が 1 lb 対照群より低かった. 別の調査では, 14歳になっても曝露群は体格が小さく, 23歳での追跡調査でもやはり身長が低いとの報告がある. ただし, こうした体格の変化には諸種の社会的要因が関与しており, そうした交絡因子の除外が完全でない (困難である) という問題はある.
アルコールと小児期の成長
 上記の喫煙の影響が不確定なのに対して, 胎児期アルコール曝露の影響が小児期の身体発育に影響することは確かなようである. いくつかのコホート調査がある. その一つによると, 胎児期曝露の影響は, 生後18月, 3, 6, 10年後に及ぶことが示されている. たとえば, 中等度飲酒母の子は, 3歳時に背が対照群より 2.3 cm 低く, 10歳時には 2.0 cm 低い.
コカインと生後成長
 喫煙,飲酒の影響についてよく調べられているのに反し, コカインの影響は十分な調査がない. 少数のコホート調査では, まだ成長への影響が確認されていない. 一部では, 曝露群の子の体重が多いという結果も出ている. 生下時低栄養の代償性かも知れない.

Neurotoxicology and Teratology 24: 481-488 (2002)
Nordstrom-Klee B1, Delany-Black V1, Covington C2, Ager J3, Sokol R4
(Wayne 州立大学 1医学部 小児科, 2看護学部, 3医学部 健康管理効果研究センター, 4医学部 産婦人科, Detroit, MI, USA)



妊娠期間中の喫煙と小児の肥満
Maternal smoking during pregnancy and childhood obesity

Key Words : 小児/妊娠/危険因子/喫煙

 先進国において, 体重超過や肥満は最も一般的な栄養障害であり, その発生頻度は増加の一途を辿っている. 小児期の肥満は成人後の肥満につながるおそれがあり, ひいては肥満に伴う様々な疾病に罹患する危険性が高くなる. 体重超過に陥った小児を治療するのは費用が嵩み, 必ずしも満足のいく効果が得られないので, 予防的な手段を模索する必要がある.
 著者らは, 最近, 妊娠中における母親の喫煙と子供の体重超過あるいは肥満との間に統計学的関連性のあることを認めた. そこで, ババリア地区 (ドイツ) の6箇所の保健所が, 1999〜2000年の間に実施した義務教育課程学校への入学時健康診断における質問用紙記入データを解析することにより, 母親の喫煙と小児の肥満との関連性を解析した. 調査対象は年齢が5〜6歳のドイツ人小児で, 体重および身長のデータとともに, 母親の喫煙に関する回答が得られたのは6,483名の児童であった. 体重と身長から体表面積に対する体重を算出して, それが90パーセンタイルを超えた小児を体重超過児とし, 97パーセンタイルを超えた小児を肥満児とした. また, 同じ地区に住む同じ年齢幅の115,530名ドイツ人児童の1997年における健康診断結果を最近のドイツにおける標準値とした. 3,847名の母親は喫煙の経験は全くないと回答し, 638名は妊娠中に喫煙したと回答し, 1,998名は妊娠中には喫煙しなかったと回答した. 小児が妊娠期間中に受けた主要な異物曝露は母親による喫煙であった. 体重超過児と肥満児の発生頻度は, これを百分比で表すと, 次に示す順序で増加した. すなわち, 喫煙の経験が全くない (体重超過:8.1, 95%信頼限界 (CI):7.2-9.0; 肥満児:2.2, 95%CI:1.7-2.7), 1日10本未満 (体重超過:14.1, 95%CI:11.1-17.7; 肥満児:5.7, 95%CI:3.7-8.7), 1日10本以上 (体重超過:17.0, 95%CI:10.1-26.2; 肥満児:8.5, 95%CI:3.7-16.1). 母親の妊娠中における喫煙の交絡因子訂正後のオッズ比は, 体重超過に関しては1.43 (95%CI:1.07-1.90) であり, 肥満に関しては2.06 (95%CI:1.31-3.23) であった. ロジスティック回帰により体重超過あるいは肥満と母親の妊娠中における喫煙には用量相関性が認められた. また, 両親の教育程度, 両親の肥満, 片親, 人口密度, 離乳食の導入時期, 生後1年までの睡眠前における哺乳瓶の使用, 出生時における高体重, 生後1年間における高身長, テレビの視聴時間あるいはビデオゲームで遊ぶ時間, クラブでの通常のスポーツ活動, テレビを見ながらの間食, 主食だけの食事, 現在のカロリー総摂取量, 母乳育児, 夕食における暖かい食事, といった広い範囲の交絡因子からは, 小児の体重超過や肥満を説明できなかった. 従って, ここで認められた小児における体重超過や妊娠中の喫煙による胎児の肥満は, 母親の喫煙に付随した生活様式よりもタバコ曝露によりもたらされたものと考えられる.

American Journal of Epidemiology 156: 954-961 (2002)
Von Kries R1, Toschke AM1, Koletzko B2, Slikker W, Jr3
(ミュンヘン州立 Ludwig Maximillan 大学, 1社会小児・未成年医学研究部, 2von Haunersches 博士幼児精神科, Munich, Germany; 3FDA, 国立毒性研究センター, 神経毒性学部, Jefferson, AR, USA)



日本のシックビルディング症候群における危険因子としての環境からのタバコの煙曝露と超過勤務
Environmental tobacco smoke exposure and overtime work as risk factors for sick building syndrome in Japan

Key Words : 横断的研究/職業的曝露/超過勤務/シックビルディング症候群/タバコ煙汚染/仕事量

 シックビルディング症候群 (SBS) は, 近代的なオフィスビルで働く人の間で増加している一般的な健康障害で, 皮膚や粘膜の痒みや不定愁訴を特徴としている. SBS の症状は, 空調など室内の空気の性状に影響を及ぼす因子が関与しているが, 生理学的および心理学的労働環境や個人的な因子も関与している. 日本の労働者の間では環境からのタバコの煙 (ETS) 曝露と労働時間に関心が高いが, それらが SBS の症状に及ぼす影響については, まだ不明な点が多い. 著者らは, 日本の都市において様々なビルディングで働いている1,281名の自治体職員について1998年から横断的な調査を行った. 可能性のある交絡因子を訂正してから, SBS に典型的な症状のオッズ比を, ロジスティック回帰を用いて算出した. 非喫煙者の間では, SBS に典型的であるとされた症状と1日につき4時間の ETS 曝露との関連性についてのオッズ比は2.7であり (95%信頼限界:1.6-4.8), ほとんどの症状について ETS 曝露時間の増加によりオッズ比が増加した. 1か月の労働時間が30時間以上超過しても SBS の症状が認められるようになったが, SBS に関する粗なオッズ比は3.0 (95%信頼限界:1.8-5.0) であり, 超過労働に伴う様々な因子を調整すると21%低下し, さらに受動的な労働負荷を調整すると49%低下した. これらの結果から, SBS 症状の進行には ETS 曝露と超過労働の量的増加が関与することが示唆され, 超過労働と SBS との関連性は, 労働環境と超過労働に関連した個人の生活様式によって説明できることが示唆された.

American Journal of Epidemiology 154: 803-808 (2001)
Mizoue T1, Reijula K2, Andersson K3
(1産業医科大学 産業生態科学研究所 臨床疫学教室, 北九州; 2フィンランド産業衛生研究所, Helsinki, Finland; 3Örebro 医療センター病院, Örebro, Sweden)



喫煙制限のない職場における環境タバコ煙:場所と人の曝露に対するモニタリング
Environmental tobacco smoke in an unrestricted smoking workplace: area and personal exposure monitoring

Key Words : 定点サンプリング/建物/環境タバコ煙/ニコチン/ヒト曝露/ソラネソル/非制限喫煙/換気

 職場における環境タバコ煙 (ETS) は, 深刻な問題でありなんらかの規制が必要である. ETS は, 喫煙が自由な建物内ではいたる所に存在していると考えられている. そこで, 1990年以降, 職場における ETS に関する調査研究が多数行われ, 1994年に Occupational Safety and Health Administration (OSHA) が職場における喫煙のきびしい制限を提唱した. 1999年の調査では, 米国の17州とコロンビア地区の職場における禁煙率は62〜82%だったと報告している. 本報告では, 喫煙制限が行われていない建物内の定点における ETS 濃度と人への ETS 曝露の程度および反復して測定した場合のそれらの変動について調査した結果が示されている.
 調査対象の建物は, 4階建の最新の空調換気システムを備えた建物で, 換気は1時間当り0.6〜0.7回であった. そこには300人が就業し, その内16%の人が喫煙者である. サンプリングは, 29か所の87地点で, 喫煙者のいる場所といない場所, 共用部分 (食堂) 等において6日間連続で実施し, さらにサンプリング装置を装着した非喫煙者24人について1日8時間, 3日間連続のサンプリングを実施した.
 分析した項目は, 集塵した空中浮遊粒子, 紫外線吸収粒子, 蛍光発色粒子およびソラネソル, 蒸気に含まれるニコチンおよび 3-ethenyl pyridine であり, 全サンプルについてこれらを分析した. その結果, サンプリングを実施したほとんどの地点においてタバコ煙特有の成分が検出 (コンピュタールームは別系統の空調のため, ニコチンやソラネソル等は検出されていない) され, 当然のことながら喫煙者のいるオフィスや小部屋において最も高い ETS 濃度が検出された. ニコチンの濃度の中央値は, 喫煙者のいる小部屋では 2.53 μg/m3, 喫煙者のいない小部屋では 1.58 μg/m3, 喫煙者のいるオフィスでは 5.5 μg/m3, 喫煙者のいないオフィスでは 0.38 μg/m3 であり, その全ての場所における平均中央値は 1.5 μg/m3 であった. 同じく全ての場所におけるソラネソルの濃度の中央値は 8.2 μg/m3 であった. 一方, 個人の ETS 曝露濃度の中央値は, ニコチンでは 1.24 μg/m3, ソラネソルでは 7.1 μg/m3 であり, 定点サンプリングの値より若干低い値を示した. 個人サンプリングのうち, 喫煙者の近くにいたと申告した人の ETS 濃度はそうでない人と比較してそれぞれの項目で50%程度の上昇が見られたが, ニコチンだけは約2.5倍高い値を示した. また, 各物質の濃度の観察期間中の変動は, 相対標準偏差として20〜60%の間で, ソラネソル以外は50%以内であった.
 OSHA が示した職場におけるニコチンの平均濃度は2〜10 μg/m3 であるのに対し, 本調査結果におけるニコチンの1日8時間サンプリングの平均濃度の中央値は 1.52 μg/m3 であったように, 今回測定した定点および個人サンプリングの ETS 濃度は, 1994年に OSHA が今回調査したと同様の設備を持つ喫煙制限のない建物内における値として示した数値より低いことが分かった.

Journal of Exposure Analysis and Environmental Epidemiology 11: 369-380 (2001)
Jenkins RA1, Maskarinec MP1, Counts RW2, Caton JE1, Tomkins BA1, Ilgner RH.1
(Oak Ridge 国立研究所, 1化学分析部門, 2コンピュータおよび統計部門, Oak Ridge, TN, USA)



ネコアレルギーと母親の喘息歴との関係素の性特異的発現
Exposure to cat allergen, maternal history of asthma, and wheezing in first 5 years of life

Key Words : ネコアレルゲン曝露/喘息/母親/アトピー既往歴

 両親どちらかにアトピー既往歴がある幼児集団について, 出生後の喘鳴とペットの曝露との関係を調査した. 対象の幼児は505名で, 1994年の秋から1996年の夏に募集し, 両親の同意のもと, 保育者への電話質問を出生後2年までは隔月, それ以降は半年毎に行った. 毎回の電話にて, ペットを飼っているか, 以前の質問以降, 幼児に喘鳴呼吸音が認められたか否かを質問した. また, 幼児が2〜3か月齢の時に居住環境から埃を採取し, ネコアレルゲン (Fel d 1) 含量を測定し, 一部の居住環境についてはイヌアレルゲン含量も測定した. さらに, 幼児が2歳の時に血清を採取して総 IgE 濃度を測定した. 同じ幼児の経時的分析には Anderson and Gill の比例危険モデルを使用し, ネコ曝露と血清総 IgE との関係の分析には直線回帰を使用した.
 喘息既往歴のある母親を持つ幼児では, 喘鳴とネコの存在との間に有意な関係がみられ, 喘鳴の相対危険度は5歳まで上昇した. 一方, 父親の喘息既往歴には同様の関係はみられなかった. 反対に, 喘息既往歴の無い母親を持つ幼児では, ネコの存在あるいは居住環境の埃に8μg/g 以上の Fel d 1 が含まれている場合に喘鳴の相対危険度が低下し, 1〜5歳の間, この危険度は変動しなかった. 血清総 IgE 濃度の測定結果でも, 喘息既往歴の無い母親を持つ幼児では居住環境中 Fel d 1 が 8 μg/g 以上の場合, 1 μg/g 以下の場合と比較して総 IgE 濃度が低かった. 喘息既往歴の無い母親を持つ幼児におけるネコアレルゲン曝露濃度と血清総 IgE 量との逆相関は, T-helper-2 細胞反応が変化したのか, 気道に対するネコアレルゲンの特異性のためかによって炎症と喘鳴が抑制された結果かもしれない. 一方, 喘息既往歴の有る母親を持つ幼児で, 高濃度のネコアレルゲンに曝露されると, 3歳以降に喘鳴の危険度が上昇したのは, これらの子は早期にネコアレルゲンに感作されており, 3歳以降の再曝露で発症した結果と推測された.
 なお, イヌアレルゲンあるいはイヌの存在と喘鳴との関係は有意ではなかった.
 以上の研究成績の限界は, ネコに対する感作の情報が欠落していること, 両親どちらかにアトピー既往歴のある幼児が調査対象であること, 幼児期には非喘息性の喘鳴も認められること, ネコアレルゲンに曝露された幼児の12.6%が3歳以降に曝露されない環境に変わったことである. 従って, 今回の成績は, ネコに対して幼児期早期に曝露された影響と継続して曝露された影響とが組み合わされたものだろう. しかしながら, 幼児期早期のネコアレルゲン曝露は, 喘息既往歴の無い母親を持つ幼児では5歳までの喘鳴に対する抑止因子となり, 喘息既往歴の有る母親を持つ幼児では3歳以降における喘鳴の危険因子となることが示唆された.

Lancet 360: 781-782 (2002)
Celedón JC1, Litonjua AA1, Ryan L2, Platts-Mills T3, Weiss ST1, Gold DR1
(1Channing Laboratory, Department of Medicine, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA, 2Harvard 公衆衛生学部, 3州立 Virginia 大学 医学部 喘息・アレルギーセンター, Charlottesville, VA, USA)



爆破解体で飛散する真菌除去のための病院内換気システムの能力
The ability of hospital ventilation systems to filter Aspergillus and other fungi following a building implosion

Key Words : ビル爆破解体/通気処理システム/粉塵/真菌分生子

 Aspergillus 属は, 免疫機能が低下した患者にとって重篤な侵襲性疾患の原因となる真菌であり, その分生子は長距離を飛散し高頻度で見出される. 建設作業は大量の分生子を発生させ, アスペルギルス症との関連が知られているが, 病院付近で建設作業が行われた際に, 分生子の侵入を最小にするための通気処理システムの運転条件に関する知見は乏しい.
 2000年夏, Johns Hopkins 大学病院 (JHH) から約 100 m に位置する22階建てビルの爆破解体が計画された. 爆破解体では莫大な粉塵が発生するため, 病院内の通気処理システムに問題が生じる. JHH の通気処理システムは, 極細ガラス繊維紙製の HEPA フィルターを除いて非繊維系フィルターで構築される. 眼科センターおよび HIV ユニットの外気導入システムには, プレフィルターの後に非 HEPA フィルターが設置され, 除去効率は99%以上である. 同様のシステムが心臓外科 ICU に設備されているが, ICU に到達する前に除去効率99.97%の HEPA フィルター層を通過している. 2棟の腫瘍学センターのうち1棟は1982年建設されたもので, 除去効率99%の2基の非 HEPA フィルターが外気をろ過し, 除去効率99.97%の HEPA フィルターによる再循環システムからの空気と混合して病室へ供給される.
 解体期間を通じて, 通気処理システムは通常運転としたが, フィルターへの過負荷防止のため除去効率30%のプレフィルターを増設した. さらに, 古い腫瘍学センターの窓は気密性が検査され, 解体当日には病院内の扉や窓が開放されていないことを確認した. 爆破解体の時刻近くでは, 病院付近の通行が制限され, 扉の開放を最小限にした.
 エアサンプラーは屋外3か所, 屋内5か所に設置された. 屋外観測点は, 解体現場から約100, 200, 400 m 北に位置している. 屋内観測点は, 爆破解体の現場から近く Aspergillus に対する高リスク群の居住区域から選定した. Aspergillus 属を検出するために使用した単段のインパクターは粒子濃度計と組にされ, 粒径1〜10 μm の粒子濃度がリアルタイムで計測された.
 その結果, 爆破解体により Aspergillus 属分生子は拡散し, 解体現場から 200 m までの屋外観測点で10倍以上増加したが 400 m では増加しなかった. 本属で確認されたのは A.niger および A.flavus であり, A.niger は78%を占めた. また, 総真菌数は 100 m と 200 m では6倍以上, 400 m では2倍に増加した. 全真菌の95%以上を Penicillium 属と Cladosporium 属が占めた. 屋内測定点での総真菌数は 0〜8 cfu/m3 と低く, Aspergillus 属は1地点で1集落のみ確認されたが, 爆破解体後も増加しなかった. 風の影響があるにせよ, 総真菌数, Aspergillus 属, 粒子数が増加したのは 200 m までの屋外観測点である. また, 粒子濃度が解体前まで低下した後も真菌数は高いレベルに留まることが示された. 以上の点は, 爆破解体に対する病院側の対応を考える際に重要である.
 第二に, 病院の通気処理システムには, 院内への分生子, 粒子の侵入を遮断する能力がある. 屋外観測点では総真菌数, Aspergillus 属の集落数そして粒子数の増加があるにもかかわらず, その近くの建物内では増加していない. それらのうちのひとつは HEPA フィルターが装備された建物だが, 他は標準的な通気処理システムである. 爆破解体から3か月間で Aspergillus 属の感染が確認された癌患者の率は変化しなかった. 標準的な通気処理システムは, 分生子を含む粒子を遮断する上で重要な設備であり, HEPA フィルターによるエアシステムでは捕集効率がさらに高まる.
 最後に, Aspergillus 属の集落数と粒子数が相関することから, 粉塵粒子のモニタリングは真菌分生子の定性評価法として利用できる. 粒子計測器は操作が容易で運転費用が安価であること, リアルタイムでデータが得られる点で他の方法に比べ有利である. 病院など感受性の高い環境に対する爆破解体などの影響評価法として粒子数計測は極めて有効である.

Infection control and hospital epidemiology 23: 520-524 (2002)
Srinivasan A1, Beck C2, Buckley T2, Geyh A2, Bova G1, Merz W1, Perl TM1
(1Johns Hopkins 医学研究所, 2Johns Hopkins Bloomberg 公衆衛生部, Baltimore, Meryland,USA)