食品・薬品安全性研究ニュース第53号目次 |
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乳がんを誘発する環境要因の探索:ヒト乳房脂質と母乳中の変異原物質 Mutagens in human breast lipid and milk: The search for environmental agents that initiate breast cancer
乳腺腫瘍に認められる TP53 の変異スペクトルがこの病気の解明の糸口と思われる. これには外因性 DNA 損傷に基づくと思われている non-CpG 部位の変異 (塩基転換変異) が含まれていることから, 遺伝毒性物質が乳がんを誘発するという仮説が立てられている. また, げっ歯類の乳腺で発がん性が認められている多環芳香族炭化水素などの環境中発がん性物質は多くが脂溶性であり, ヒト乳房には脂肪組織が多く, その脂肪組織が血液から取り込んだ脂溶性発がん性物質をゆっくりと放出する貯蔵庫の機能を果し, 乳腺の導管および小葉の上皮細胞の発がんを誘発していると推測される. したがって, 本研究では, ヒト乳房脂質および健康な授乳中の母親提供の母乳を用いて遺伝毒性活性を有する成分の有無を検証した. 健康な女性の乳房形成術で得たヒト乳房脂肪組織から脂質を抽出し, S. typhimurium TA98 と TA1538 を用いた変異原性試験, および MCL-5 細胞を用いた小核試験を実施した. Ames 試験では, ラット肝 S9 を加えた場合のみ, 40% (16/40例) の抽出脂質が変異原性を示した. 対照実験として行った牛肉脂肪およびコーン油抽出物は陰性であった. 小核形成は40例中17例で認められ, この2つの試験結果の関連性は統計学的に高い相関があった. 以上のように相当の比率で健康な女性の乳腺脂肪組織抽出液が遺伝毒性を有することをうけ, ヒト乳腺上皮細胞の DNA 損傷の有無, および乳房抽出脂質の損傷誘発性をヒト乳腺上皮の初代培養細胞を用いコメットアッセイで調べた.その結果, 個人差はあったが何人かの健康人の乳腺上皮細胞で DNA 損傷が認められ, また, 自己の乳房抽出脂質で処理した上皮細胞では8例中5例でコメット軌跡の増幅が認められた. さらに, 乳房抽出脂質で C3H/M2 マウスの線維芽細胞を用いた形質転換試験を行った結果, 8例中4例が陽性反応を示したが, 他の変異原性試験と相関は認められなかった. 次に母乳について調べた. 20例中6例の母乳が細菌の変異原試験に陽性反応を, MCL-5 細胞に小核を形成を誘発した. コメットアッセイでは, 13例が陽性を示した. 次に, 母乳中に剥脱した乳房細胞を回収し, 母乳抽出物によるこれらの細胞の DNA 傷害をコメットアッセイにより確認した. 乳がん発症率と母乳の遺伝毒性の関係を調べるパイロット調査を行い, 乳がん発症率の低い地域 (香港, インド, シンガポール) の母乳試料のほうが高リスク国である英国で採取した試料より遺伝毒性活性が低かった. これらの結果は, ヒトの母乳が遺伝毒性のある物質を含むことを示しており, HPLC で分析した結果から, この遺伝毒性活性はイオン化した化合物によると推測された. さらに著者らは, 環境中発がん性物質がヒト乳房細胞の DNA 傷害を起こす可能性を知るため, げっ歯類乳腺に対する既知の発がん性物質である複素環アミン類 (HAAs) を用い, ヒト乳汁中剥離細胞による代謝活性を調べた. その結果, 細胞の HAAs 代謝活性は, 個体間でも物質によっても様々であったが, ヒト乳腺細胞は, 環境中発がん性物質を活性化し, DNA 反応性に変化させる数種の phase および phase の酵素を有することが判った. 以上の結果から, 乳がんを誘発する環境中発がん性物質は, 代謝活性を必要とするイオン化した分子質量の低い脂肪親和性化合物と推測される. これらの物質の同定が乳がんの病因を解く鍵になるだろう. Phillips DH, Martin FL, Williams JA, Wheat LMC, Nolan L, Cole KJ, Grover PL (Haddow Laboratories, がん研究所, Surrey, UK) ビス(2−エチルヘキシル)フタル酸 (DEHP) のマウスにおける混餌投与による生殖毒性および神経毒性 Reproductive and neurobehavioural toxicity study of bis(2-ethylhexyl) phthalate (DEHP) administered to mice in the diet
DEHP 投与は, 一腹当たりの産児数, 一腹の体重および出生日における性比には影響を及ぼさなかった. 行動発達検査では, 生後4日および生後7日における検査で正向反射が遅延し, この変化には軽度な濃度依存性が認められた. DEHP は, 雄出生児に対して哺育期間初期における正向反射などの協調運動の発達に影響を及ぼすと考えられる. しかし, その他の行動発達検査, 探索行動, 水迷路学習能力には DEHP 投与の影響は認められなかった. これらのことから, 著者は, 今回採用した濃度の DEHP は, マウスの生殖および神経行動にほとんど影響を及ぼさない用量であると結論している. Tanaka T (東京都立衛生研究所, 毒性部, 東京) 糖尿病は大気汚染による健康被害を悪化するか? Cardiovascular damage by airborne particles: Are diabetics more susceptible?
調査対象都市としては PM10 のモニタリングがよく行われている Cook 郡 (Chicago), Wayne 郡 (Detroit), Allegheny 郡 (Pittsburgh) および King 郡 (Seattle) を選択した. 各都市について入院履歴から退院時診断名に基づいて心血管系疾患による入院患者数を計算し, 糖尿病の有無から階層化した. さらに, 年齢 (65歳から75歳未満またはそれ以上) と糖尿病歴から各日の患者を4階層に分けた. 入院患者数と PM10 濃度との相関については, 一般化した頑健ポアソン回帰モデルを用いて評価した. 次に, 4つの都市における糖尿病による影響については, メタ回帰モデルを用いて評価した. その結果, 糖尿病は PM10 感受性に影響し, 入院数は非糖尿病の2倍になった. 年齢が75歳以上になると糖尿病の影響は少なくなるようで, 単独の因子の影響と比較して, 2つの因子を併せもった患者で大気汚染粒子の増加に起因する心血管系疾患入院数は単独因子の和よりも低くなった. Zanobetti A, Schwartz J (Harvard 大学 公衆衛生学部 環境衛生学 環境疫学プログラム, Boston, MA, USA) PM2.5と1日の死亡数の統計学的関係 The concentration-response relation between PM2.5 and daily deaths
この濃度−反応関係の前提は, 公衆衛生調査において重要であり, 近年, 濃度−反応の形, 特に低濃度時の形が注目されており, 閾値の存在が推測されている. 最近の3報の論文では, 直径が 10 _m 以下の粒子 (PM10) は, 閾値無しに1日の死亡数と関連があると報告している. これらの結果で濃度−反応が線型関係であったのは, 個々の都市のデータを回帰スプライン法またはノンパラメトリック平滑化を用い濃度−反応曲線を描き, 複数の都市の結果を併せたためと推測される. また, PM10 に含まれる PM2.5 については, これらの研究では考慮されていなかった. そこで, 1979年〜1980年代後半の米国6都市での PM2.5 の大気中濃度と1日の死亡数の曲線関係を調査した. 各都市の1日の死亡数と発生源別の微細粒子濃度の関係を, 季節と天候, 曜日で調整する平滑化関数を含むポアソン回帰法で分析した. 次に各都市や微細粒子発生源の不均一性を考慮した階層的手法で各都市の濃度−反応曲線を融合した. その結果, 死亡数と PM2.5 濃度の閾値無しの直線関係が認められた. また, 微細粒子発生源別でも, 濃度−反応関係は直線的で閾値は認められなかった. これらの結果は, 前述の PM10 を測定した調査と同様の結果であり, 濃度−反応関係が低濃度の時も成立することを示した. これは, 交通排ガスが発生源の PM2.5 濃度が 1 _g/m3 増加した場合, 年間7,000人の死亡を早める可能性を示唆している. Schwartz J1,2,3, Laden F1,3, Zanobetti A1 (Harvard 大学 1 公衆衛生学部 環境衛生学 環境疫学プログラム, 2 公衆衛生学部 環境衛生学, 3 Bringham and Women's 病院 Channing 実験室および医学部 医学科, Boston, MA, USA) 大音響を聞きながらの覚醒アミン (エクスタシー) 乱用が心臓微細構造の劇的変化を誘発する Ecstasy during loud noise exposure induces dramatic ultrastructural changes in the heart
組織検査の結果, 光学顕微鏡レベルでは心筋の有意な形態変化は, どの群でも認められず, とくに心筋細胞には全く変化が認められなかった. これは, MDMA により中毒死したヒトの剖検では心筋細胞溶解がしばしばみられるという事実や他の研究結果と異なっているが, 形態変化を起こすには本実験での投与量が低過ぎたためと考えられる. 微細構造レベルでは, MDMA のみあるいは大音響のみ処置したマウスでは, 対照マウスと比較して, 軽度の心房・心室筋変性が認められた. これに対して, MDMA 投与および大音響の複合曝露では, 劇的な影響があり, 心筋の微細構造の変化, 特にミトコンドリアのクリステの乱れ, 基質の電子密度の減少がみられた. ミトコンドリアの損傷レベルを, 異常ミトコンドリア頻度で評価すると, MDMA 投与のみまたは大音響のみでも, 対照群と比べミトコンドリアの損傷が認められた. これらの影響は, 他の研究者が示しているように, MDMA 投与あるいは大音響曝露時のノルアドレナリン放出量の増加とそれに続くミトコンドリアへのカルシウム流入によると推測される. 本研究で, MDMA と大音響の同時曝露の相乗効果を動物モデルで心筋で起こる微細構造の変化として検出することができた. Gesi M1, Soldani P1, Lenzi P1, Ferrucci M1, Giusiani A2, Fornai F1, Paparelli A1 (Pisa 大学 1 人間形態学・応用生物学部, 2 公衆衛生学部, Italy) 喫煙による肺高血圧症の原因は,肺動脈における急速な遺伝子変化である Cigarette smoke induces rapid changes in gene expression in pulmonary arteries
本研究は急性期の観察であるが, 長期にわたる喫煙が肺動脈における一酸化窒素に対する反応性を低下させ, それが患者でみられる内皮依存性血管弛緩反応の低下と関係するようだ. 本研究においてはさらに, 喫煙による VEGF やその受容体である flk-1 の上昇が認められている. VEGF や flk-1 は, 血管リモデリングに重要な役割を果たすことから, これらも肺高血圧症の発症に大きな役割を果たすと考えられる. 実際には種々の病因による肺高血圧症において肺血管中層筋における VEGF の上昇が認められており, 夜間高血圧症患者においては血中濃度の増加が認められている. VEGF には, 血管内皮からの一酸化窒素のリリースを増加させる作用があり, VEGF とその受容体は一酸化窒素による血管新生を促しているようだ. 本報告においては喫煙による急性期の遺伝子変化を捉えている. しかし, これが直に慢性的変化に結びつく訳ではないことは, 著者らも記載している通りである. In vivo での喫煙による急性期の変化としては呼吸抵抗の上昇や流量の異常等が認められるが, これが肺動脈圧の変化を起こすことはない. 肺高血圧モデルの作製にはいずれの方法によっても長期間を必要とする. 肺高血圧症の発生には肺動脈血管筋の増殖と血管ダイナミクスの変化が序々に血管床に変化を与えていることを示唆している. Wright JL, Tai H, Dai J, Churg A (British Columbia 大学, 病理学科, Vancouver, British Columbia, Canada) 漢方薬の毒性:歴史から判ること Toxicity of the Chinese herb Mu Tong (Aristolochia manshuriensis). What history tells us
AD 220年ごろに出された Shen Nong Ben Cao Jing (「神農本草経」) では, 薬草を上中下に分類し, 下位のものほど有害な作用を起こすことが多いことを示している. その方式は現代の中国薬局方にも受け継がれ, 毒性の強弱による薬草の分類が示されている. Mu Tong は漢方の記載では, 毒性の強いものとはされていないが, 西欧にもたらされるとまもなく腎障害が多発した. 歴史的に見ると, かつての Mu Tong は現代のものと異なり, 少なくとも17世紀には Akebia (アケビ:蔓の部分を輪切りにしたものを日本薬局方モクツウとする) が用いられてきたが, 後に Clematis が, さらに1950年以降 Aristolochia が用いられるようになった. Clematis armendii や Akebia quinata のアルコール抽出物はマウスに最大可能量を投与しても毒性は現れなかった. Ariastolochia manshuriensis の抽出物はマウスに毒性を発現し, 経口 LD50 は 15.5 ± 0.6 g/kg (原料換算か) であった. 中国薬局方の次の版からは Mu Tong はAkebia に代わる予定である. (長い経験による安全性というのは, 完全とはいえず, このような事例もある.) Zhu Y-P (Groningen 大学 Hwa To 中国医薬センター, Groningen, The Netherlands) 遺伝子組換えによるヒトリゾチームのイネへの発現 Expression of natural antimicrobial human lysozyme in rice grains
導入 DNA はイネのグルテリン1のプロモーターおよびシグナルペプチド配列, GC 含量を増やすコドン改変をおこなったヒトリゾチーム遺伝子, nos ターミネーターで, パーティクルガン法によって宿主のイネ (Taipei 309) に移入した. 穀粒が得られたR0の33の組換え体の胚乳抽出物についてヒトリゾチームの発現を SDS 電気泳動後, クマシー染色とヒトリゾチーム抗体を用いたウェスタンブロットおよび比濁法で確認し, 発現レベルの高い系統について, 自己交配により分離分析を行った. その結果, R1の分離比はメンデルタイプの3:1となり, 単一または近接した遺伝子座への挿入が起こったものと考えられた. さらにR1からR2を作成してリゾチーム活性を測定し, 挿入遺伝子をホモで保有する種子を選別した. これらを2から4世代にわたって栽培し, 栽培上の特性や, ヒトリゾチームの発現が維持されているかについて検討した. その結果, ヒトリゾチームの発現量は一定しており, 最も発現量の多かった系統では玄米重量の0.6%, 可溶性蛋白質の45%であった. また, サザンブロットによる分析の結果, 挿入コピー数は1から6と推定されたが, 発現量とコピー数の間には相関は認められなかった. 組換えヒトリゾチームを精製し, ヒトリゾチームと各種性質を比較したところ, アミノ酸のN末端配列, 分子量, 等電点, 熱安定性, pH 安定性および大腸菌に対する殺菌作用のいずれにも差は認められなかった. 今回グルテリン1のプロモーターおよびシグナルペプチド配列, コドン改変をおこなったヒトリゾチーム遺伝子を使用することによりイネにリゾチームを高濃度に発現できたことから, イネを蛋白質工場として母乳蛋白質を生産することへの道が拓かれた. 現在他の母乳蛋白質の組換え体についても開発中であり, これらを添加することにより, 人工乳やベビーフードの医学的, 栄養学的価値が高まるものと考える. Huang J1, Nandi S1, Wu L1, Yalda D1, Bartley G1,4, Rodriguez R2, Lonnerdal B3, Huang N1 (1 Ventria Bioscience, Sacramento, 2 州立 California 大学, 分子細胞セクション, Davis, 3 州立California 大学, 栄養学科, Davis, 4 米国農務省, Albany, CA, USA) ヘリコバクターピロリ胃感染を促進していると考えられる二つの化学受容体 Two predicted chemoreceptors of Helicobacter pylori promote stomach infection
今までに鞭毛運動を含め, HP が動物に感染する際に関係する因子について多くのことが明らかにされた. HP は, 通常, 菌端に5本の鞭毛を持ち, 変異による鞭毛の欠損や運動能力の欠失で感染能力が低下する. 鞭毛を持ったバクテリアの多くは, アミノ酸や pH などの環境条件を認識して遊泳する. このことは, 大腸菌でよく調べられており CheA キナーゼ, CheW 結合タンパクおよび鞭毛運動レギュレータ CheY などから成るキナーゼカスケードを調節する膜内貫通形化学受容体タンパクが最初に環境を感知する. その情報に基づいて鞭毛の回転が変わり, バクテリアが環境に反応する. HP でも大腸菌と同じように CheA, CheW および CheA-CheY ハイブリッドを含む走化性タンパクが存在することから, この2つのバクテリアの走化性に関する情報伝達経路は類似していると考えられる. その証拠に, HP のcheA, cheW および cheY 遺伝子欠損株は, in vitro における走化性反応が減弱し, かつ cheA または cheY 遺伝子変異株はマウス胃に感染できない. HP がマウス胃に定着するためには走化性は必須であるが, in vivo での標的や化学受容体が何であるのかは, 明らかになっていない. そこで HP のゲノムを調べた結果, 4つの遺伝子が化学受容体をコードしていると考えられ, これらは CheW に反応する領域に存在していることが明らかになった. そこでまず, HP の走化性が in vivo でどのように制御されているかを調べるため, TlpA および TlpC の2つの化学受容体欠損株を作製し, その行動を解析した. 本研究には, ヒトから分離した type I の G27, SPM342f および SS1 株を用いた. 野生株の SS1 と SS1 _tlpA::cat または _tlpC::cat のほぼ同量を混合したものをマウスに感染させ, 2週間後の定着率を調べた結果, tlpA では52倍, tlpC では25倍野生株と比較して劣っていたが, それを in vitro で培養した結果, 48時間後の野生株と変異株の比は変わらなかった. このことは, TlpA および TlpC はいずれも in vivo における競合には有利に働くが, in vitro 条件下での成長, 運動性または走化性には影響を与えないことを示している. 一方, cheY 変異株と野生株の混合菌を同様にマウスの胃に感染させると13日後には cheY 破壊株は認められなくなるが, in vitro における成長率では野生株との間に差は認められなかった. このことから, cheY の欠損は, in vitro における成長には影響を及ぼさないが, in vivo 条件下では必須の機能であるといえる. tlpA および tlpC にエンコードされる遺伝子産物欠損の HP 破壊株は, 野生株と比較して in vitro 条件下では成長や走化性には差は認められなかったものの, 胃への定着は劣っていたことから, tlpA および tlpC はマウス胃の環境状態を感知し, 定着するのに重要な走化性を指揮している化学受容体をエンコードしていると推定できる. Andermann TM, Chen Y-T, Ottemann KM (州立 California 大学 Santa Cruz 校, 環境毒性学科, 分子・細胞・発生生物学科, Santa Cruz, CA, USA) 先史時代のヒトと家畜の骨中カドミウムおよび鉛 Bone cadmium and lead in prehistoric inhabitants and domestic animals from Gran Canaria
対象としたのは Gran Canaria 島先住民で, 前ヒスパニア時代の墓地から発掘され, 同島 Las Palmas の博物館に保管されている16体 (男10, 女6) である. その脛骨上部から試料を採取した. 個々の遺体の生活年代は不明であるが, 発掘場所の地層は1405〜1213年前のものと推定され, 死亡年齢は53歳以下と考えられている. 同じ場所から出土した羊, 山羊, 豚の骨24試料, 現代のヒト骨試料8例 (膝の手術例から採取した), 家畜骨試料13例 (Gran Canaria 島高地で放牧のもの) について検査した. 骨カドミウムは現代人では 516±352 _g/kg と古代人の 85±128 _g/kg の約6倍, 骨鉛も現代人では約7倍であった. 先史時代のヒトと家畜の骨カドミウムはほぼ同じで, 骨鉛は現代人 30.53±14.62 mg/kg, 古代人 4.06±4.63 mg/kg で, 家畜はさらに低かった. ここで測定された Gran Canaria 古代人の骨鉛値は, 他の地域の例に比べると高い. 古代 Nubia 人骨鉛は 0.4〜1.5 mg/kg, 古代 Peru 人 0.11〜2.7 mg/kg, コロンブス以前の米国南西部先住民 0.04〜1.87 mg/kg, Greenland 古代人 0.39〜0.95 mg/kg と報告されている. (時代的には本調査の対象よりかなり古い.) Gran Canaria には鉛鉱山はなく, 土壌の鉛濃度も低い. そこで, ローマ時代に盛んだった南スペインの銀と鉛の採鉱による汚染大気が北東貿易風によって運ばれてきたのではないかと想像している. 家畜の骨の鉛が高くない点はそれらが数歳で屠殺されてしまい, 骨に鉛が蓄積する時間がなかったためであろうと解釈した. González-Reimers E1, Velasco-Vázques J2, Arnay-de-la-Rosa M3, Alberto-Barroso V3, Galindo-Martín L4, Santolaria-Fernández F1 (1 大学病院 内科, Tenerife, Canary Islands, 2 Valladolid 大学, Valladolid; La Laguna 大学 3 先史人類学 古代史学教室, 4 分析化学教室, Tenerife, Canary Islands, Spain) 歯科治療用金合金と接触アレルギー Dental gold alloys and contact allergy
皮膚の湿疹や苔癬様反応やさまざまな口腔内の炎症が, 金によるアレルギー反応かどうかを診断するためには, パッチテストで確認する必要がある. その判定材料には, 今までは金箔または3価の金塩化物が使用されていたが, 現在ではその代わりに1価の金チオ硫酸ナトリウム (GSTS) をワセリンに0.5〜2.0%含ませたものが推奨されている. ただし, この反応は遅延する傾向があり, 貼付後3日目の判定だけでなくむしろ貼付後7日の判定が有用である. その他の判定法としては, 生理食塩液に 55 mM の GSTS を皮内投与する方法や, in vitro によるリンパ球幼若化試験などがある. 2001年に当院で行ったパッチテストの結果では, 15%の患者に金に対するアレルギー反応が認められた. しかし, ニッケルアレルギーに比してはるかに低率であった. また, 歯科医で手に湿疹が認められた患者のうち9%が金による接触性アレルギーであったが, 他の湿疹患者より高いことはなかった. また, 耳ピアスや金の装飾品が原因でアレルギーを起こすことも知られている. 皮膚の湿疹や口腔内のさまざまな炎症の原因が金によるものであったとする症例報告が多数存在するが, 正確な診断に基づいた報告は少ない. なお, 最近の研究では, 唾液中に遊離した金の存在が認められたこと, 金の血中濃度と歯に用いる金の量との間の関連性からみて, 遊離した金が循環系に溶け出していると考えられるとの報告がある. さらに, 口腔内の金の総表面積とアレルギーとの間に量的相関があり, 金の口腔内の量が増えるほど金に対するアレルギーのリスクが高まることが指摘された. 金を用いて治療した近傍の局所における口内炎等の炎症が認められ, さらに, GSTS テストにおいて陽性と判定された患者では, 金を有害性の認められていない他の不活性金属に置き換えることによって口腔内発熱疾患, 湿疹, 苔癬様反応等の改善や治癒が認められていることから, これは有効な治療法である. 以上のことから, 皮膚の湿疹や口腔内の炎症が金によるアレルギー反応であるかどうかの診断には, GSTS を用いたパッチテストが最適である. Möller H (Lund 大学, Malmö 大学病院, 皮膚科, Sweden) |
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