食品・薬品

安全性研究ニュース

第54号



目次
  1. 大気中の浮遊粒子の吸入は心虚血を悪化する
  2. Wistar Kyoto ラットは燃焼由来粒子の吸入により心筋傷害を起こす
  3. 大気汚染微粒子は酸化的ストレスを生じる
  4. 大気汚染粒子による酸化ストレス
  5. 超微粒子の毒性および炎症作用における活性酸素の関与
  6. 雄マウスの性成熟期における攻撃行動と血中テストステロン濃度:胎児期ビスフェノールA曝露の影響
  7. 日本人における臭素化ダイオキシンおよび臭素化ジフェニルエーテルの曝露レベル
  8. アレルゲンに繰り返し曝露したときのラット気管のコラーゲンの変化
  9. 職業病としてのゴム手袋アレルギー
    ―1995〜2001年の皮膚科情報ネットワークからの調査結果―
  10. 環境化学物質と自己免疫疾患: 原因と影響




大気中の浮遊粒子の吸入は心虚血を悪化する
Particulate air pollution and risk of ST-segment depression during repeated submaximal exercise tests among subjects with coronary heart disease: The exposure and risk assessment for fine and ultrafine particles in ambient air (ULTRA) study

Key Words : ST 低下/大気汚染粒子/虚血性心疾患

Circulation 106: 933-938 (2002)

 大気中の微粒子の増加が疾病率や死亡率に与える影響については既に多くの報告がある. 自律神経, 血液凝固系および急性作用の報告は多いが, 虚血性心疾患を誘発する機序は明らかではなく, また, どのような特性が健康への影響を決定するのかも明らかではない. 現在では微粒子中に含まれる化学物質の組成と超微粒子 (直径 0.1 _m 未満) の数が関係すると考えられている. これまでの研究からは, 超微粒子は呼吸器疾患と関係することが報告されているが, 心血管系への影響については, わずかな証拠しか報じられていない. そこで, 都市における主要な3モードの粒子 (超微小モード粒子, 直径 0.01〜0.1 _m; 蓄積モード粒子, 直径 0.1〜1 _m, [PM1, PM2.5]; 粗大モード粒子, 直径 2.5〜10 _m) による安定性狭心症患者の運動負荷時の ST 節の低下に対する影響について調べた.
 被験者はオランダのアムステルダム, ドイツのエルフルトおよびフィンランドのヘルシンキ在住の45人で, 6か月間, 2週毎に自転車エルゴメータによる運動負荷試験を行った. 全342試行中72回で, 負荷により, 虚血性心疾患の指標である 0.1 mV 以上の ST 低下が認められた. このような ST 低下と都市中心部で測定した大気汚染粒子濃度の間には粗大モード粒子を除いて相関が認められた. 相関は負荷試験2日前の蓄積モード粒子濃度との間に最も強く認められ, 特に水平型 ST 低下との相関が明らかだった. また, 超微小モード粒子濃度と ST 節低下の相関に対して, 数日前の気温が影響を与えることが明らかであったが, 直前の気温の変化は影響を与えなかった. 花粉の量, 湿度, 大気圧は相関に多少の影響を与えたが, これらの相関は左脚ブロック, 左心室肥大または前壁外側心筋梗塞を患っている被験者およびジギタリスを服用している被験者を除外した場合に強く認められた. また, 蓄積モード粒子濃度との相関以外の全ての相関は, 女性およびβアドレナリン拮抗薬使用者を除外した場合に強くなる傾向があった. さらに, 過去に心筋梗塞の病歴を持たない女性で超微小モード粒子濃度との相関が強い傾向が認められた. 2因子モデルでは, 超微小モード粒子と微小粒子 (PM2.5) は, 独立して虚血性心疾患患者の ST 節低下を引き起こしたが, それ以外の粒子同士の影響は分けて評価できなかった. これはそれぞれの粒子の発生源が異なるためと考えられた.
 これらの結果は, 微粒子による大気汚染が心血管系疾患罹患率に及ぼす影響は, 少なくとも部分的には虚血に対する感受性の亢進に因るところがあり, 大気中の微粒子と死亡, もしくは虚血性心疾患に因る死亡の危険性の間には生物学的な関連がありそうだということを示している.

Pekkanen J1, Peters A2, Hoek G3, Tiittanen P1, Brunekreef B3, de Hartog J3, Heinrich J2, Ibald-Mulli A2, Kreyling WG4, Lanki T1, Timonen KL1, Vanninen E5
(1 国立公衆衛生研究所, 環境疫学研究班, Kuopio, Finland; 2 GSF 国立環境保健研究センター, 疫学研究所, Neuherberg, Germany; 3 Utrecht 大学 環境職業保健部門, the Netherlands; 4 GSF 国立環境保健研究センター, 吸入生物学研究所, Neuherberg, Germany; 5 Kuopio 大学・Kuopio 大学病院, 臨床生理学および核医学科, Kuopio, Finland)



Wistar Kyoto ラットは燃焼由来粒子の吸入により心筋傷害を起こす
Inhaled environmental combustion particles cause myocardial injury in the Wistar Kyoto rat

Key Words : 大気汚染浮遊物質/組織学的検討/高感受性モデル/亜鉛/心毒性

Toxicological Sciences 71: 237-245 (2003)

 疫学的調査から大気汚染浮遊粒子状物質 (particulate matter; PM) が心および呼吸器疾患の疾病率や死亡率に関連があることが明らかとなった. また, 肺疾患と心血管系疾患を併発している患者で, 感受性が高い人達では特に相関が高い. 最近になり, 心筋梗塞の病歴がある患者では PM による心筋梗塞の発症率が高いことも報告された. 動物実験からも PM による心血管系への作用が次々と報告されている. このような研究では主に心生理学的な検討が行われ, 組織学的および生化学的検討は行われていない. 現在までに, 水溶性で生物活性のある金属を含む化学物質が PM と結合することで肺循環に入り, 心筋に移行して心傷害を引き起こすという仮説が提唱されている. 他方では, 肺循環における炎症と微小血管の血栓が全身性の内皮異常を引き起こし, 結果的に心収縮性に影響するという説もある. しかしながら, PM に感受性の高いモデル動物がいないこと, 心傷害に関連した血中マーカーが心臓の炎症や変性を感度よく反映しないことから, 残された精度の高い検討法は様々な染色法を用いた組織学的検討であると考えられたが, このような手法は PM に関わる検討に用いられてはいない. また, 環境中の様々な有害物質を含んでいるため, 成分特異的な心作用の知識が研究を行う上で必要である. これらをふまえて, 著者らは短期および長期の燃焼排気粒子曝露を行った3系統のラット (正常動物として Sprague-Dawley; SD, 心肥大モデル動物として Wistar-Kyoto; WKY そして高血圧モデルとして Spontaneously Hypertensive Rat; SHR) の心臓の組織学的検討を行った. 組織標本は, 最近行った吸入曝露実験で得られた心臓を用いたが, それらの実験において動物は 2, 5, または 10 mg/m3 の濃度の排気粒子 (emission PM; EPM) を連続4日, または 10 mg/m3 を6時間/日, 1回/週で4または16週連続で鼻部曝露された. EPM は亜鉛を含み, 生物活性の高いバナジウムや鉄, ニッケルはほとんど含まれていない. 亜鉛の生理活性については既に亜鉛蒸気熱など肺や心臓に対する作用が知られている. また, 重金属は上皮増殖因子 (EGF) 受容体の活性化を介して MAP キナーゼを活性化し, 肺の炎症に関係することことから冠血管においても EGF や血管内皮増殖因子 (VEGF) の活性化を起こすと推測される. 吸入曝露後の全ての系統の動物に共通して認められた変化は, 肺に粒子を含んだマクロファージが認められたことであった. EPM 10 mg/m3 を6時間/日, 1回/週, 16週連続で曝露を行った WKY では心臓の炎症と変性が認められた. これらの心臓標本をさらに PAS 染色, Masson 染色, トルイジン・ブルー染色, PTAH 染色, von Kossa 染色および Movat 染色により精査したところ, 顆粒肥満細胞の減少と多発性の心筋変性が6匹中5匹の WKY で認められた. このような変化は清浄空気吸入群の WKY では認められなかった. また, SD および SHR では EPM 曝露の影響は認められなかった. これらの結果は亜鉛を含む環境中の PM の長期曝露が感受性の高いラットにおいて心傷害を引き起こすことを示し, 大気汚染中の粒子と心循環器系疾患の関連を示す疫学的調査結果を支持するものである.

Kodavanti UP1, Moyer CF2, Ledbetter AD1, Schladweiler MC1, Costa DL1, Hauser R3, Christiani DC3, Nyska A4
(1 米国環境保護局 研究開発室, 国立健康環境効果研究所, 実験毒性学部門 肺毒性課, 2 病理連合, NC, 3 Harvard 大学公衆衛生学部, MA, 4 国立環境健康研究所 実験病理研究室, NC, USA)



大気汚染微粒子は酸化的ストレスを生じる
Oxidative-stress potency of organic extracts of diesel exhaust and urban fine particles in rat heart microvessel endothelial cells

Key Words : 抗酸化酵素/心微小血管内皮細胞/mRNA

Toxicology 187: 161-170 (2003)

 疫学的調査により大気汚染浮遊粒子が心肺疾患および肺癌による死亡率と相関することが示されている. 大気中浮遊粒子は硫黄, 重金属および有機化学物質を含み, これらの物質が心肺疾患を起こし, 気道感受性を増大すると考えられる. 都市の大気中微粒子 (UFP) は気道上皮細胞, 肺上皮細胞およびマクロファージの炎症性サイトカイン産生を引き起こし, 上皮細胞とマクロファージの相互作用によりサイトカイン産生はより増強される. ディーゼル排気粒子 (DEP) は UFP の主要な構成物質で, 炭素核に脂肪炭化水素, 芳香族炭化水素, キノン類, アルデヒドおよび複素環有機化合物を含んでいる. DEP および DEP の有機抽出物 (OE-DEP) は肺の炎症, 喘息症状の悪化, 肺癌および心電図の異常を引き起こす. OE-DEP はマクロファージの熱ショックタンパク生産とアポトーシスを誘導し, 気道上皮細胞のサイトカイン発現および血管内皮細胞の一酸化窒素産生を引き起こす. また, DEP はスーパーオキシドおよび水酸基ラジカルを産生し, マウス肺の8-ヒドロキシデオキシグアノシン産生および造腫瘍に関係する. したがって, UFP は DEP 同様に肺で酸化的ストレスを引き起こすかもしれない. 微粒子は肺の深層まで侵入し, 肺胞内に沈着する. このため肺上皮とマクロファージが吸入した微粒子の最初の標的となるが, 肺に沈着した微粒子が何故, 疫学調査で認められる循環器系疾患による死亡率上昇につながるのかは明らかではない. この関連を説明する幾つかの機序が考えられている. (1) 肺の傷害による肺動脈圧の上昇. (2) 微粒子を沈着した肺から遊離するサイトカインや生理活性物質が心肺機能に影響を与える. (3) 有毒な有機化学物質または重金属が血管内に到達して血管系を傷害する.
 著者らは以前に OE-DEP に曝露したラットの肺胞内マクロファージで抗酸化酵素の mRNA レベルが選択的に上昇することを報告している. また, ラットで, 濃縮大気粒子への短時間吸入曝露により引き起こされた酸化ストレスに対し, スーパーオキシド消去酵素やカタラーゼ等の抗酸化酵素のレベルが上昇することが報告されている. 本報告で著者らは OE-DEP および OE-UFP の細胞毒性および酸化的ストレスの効力をラット心微小血管内皮細胞 (RHMVE) を用いて調べている. OE-DEP および OE-UFP の50%細胞死を引き起こす濃度 (LC50) は 17 および 34 _g/mL で, OE-DEP が OE-UFP よりも強い細胞毒性を有することが明らかとなった. この細胞毒性は N-アセチル-L-システイン (NAC) の添加により減弱したことから, 酸化的ストレスによるものと推測された. 単層培養 RHMVE に OE-DEP および OE-UFP を加えて6時間後にヘムオキシゲナーゼ-1 (HO-1), チオレドキシンペルオキシダーゼ2, グルタチオン-S-転移酵素P-サブユニット, NADPH 脱水素酵素等の抗酸化酵素の mRNA レベルを測定すると, OE-DEP 添加により用量依存性の上昇が認められた. また, HO-1 の mRNA レベルは OE-DEP 添加により最も著明に上昇した. これら抗酸化酵素および熱ショックたんぱく72 (HSP-72) の mRNA レベルへの影響は OE-UFP と比較して OE-DEP でより顕著であった. OE-DEP および OE-UFP による HO-1 および HSP-72 の mRNA レベルの上昇は NAC の添加により低下した. これらの結果は UFP の有機化学物質分画が酸化的ストレスを介して内皮細胞の機能を変化させ, 心血管系疾患を引き起こす可能性を示すものである.

Hirano S, Furuyama A, Koike E, Kobayashi T
(国立環境研究所, 1 環境健康研究領域, 2 PM2.5およびDEP研究プロジェクト, つくば)



大気汚染粒子による酸化ストレス
Personal PM2.5 exposure and markers of oxidative stress in blood

Key Words : 炭素粒子 (carbon black)/フィブリノーゲン/ヘモグロビン/過酸化脂質/粒子状物質/血小板/蛋白酸化/赤血球

Environmental Health Perspectives 111: 161-165 (2003)

 疫学的調査の結果から, 大気汚染粒子状物質がヒトにおいて心肺疾患が原因の疾病や死のリスクを増すことが明らかとなり, その機構として酸化的ストレスの関与が提唱されている. 喫煙者の動脈硬化がビタミンCやEの摂取により軽減することから, 酸化的ストレスは動脈硬化にも関与しているものと考えられている. 粒子状物質への長期曝露は低密度リポ蛋白 (LDL) の酸化を介して動脈硬化症のリスクを増加する. 他の説としては短時間の粒子の吸入により起きる肺の炎症による血液の粘性の増加, または直接的な作用である血小板および赤血球数の増加の関与が考えられている. 広範な疫学的検討から, LDL, コレステロールおよび血圧等と同様に, 血液粘性も心血管系疾患の有用な予測マーカーであることが明らかになっている. 一方, 疫学的研究においては戸外の汚染粒子濃度と健康との関係が取りざたされているが, 実際には大抵の人が多くの時間を室内で過ごしており, 汚染粒子への曝露は室内で起こっている.
 粒子状物質が生体におよぼす影響を明らかにするため, 著者らはコペンハーゲン中央部で居住し, 学校に通う50人の学生を対象に, 季節毎に1年間に4回, 直径 2.5 _m 以下の汚染粒子 (particulate matter ≤ 2.5 _m; PM2.5) および炭素粒子 (carbon black; CB) への個体曝露の測定を2日間行い, その後, 血液サンプリングを行って, 血清蛋白, ヘモグロビンのγ-グルタミルセミアルデヒドや 2-アミノアジピンセミアルデヒド等の蛋白の酸化, 過酸化脂質, 赤血球数, 血小板数, ヘモグロビン濃度およびフィブリノーゲン濃度の測定を行った.
 PM2.5 への曝露濃度の中央値は個体では 16.1 mg/m3, 環境中では 9.2 _g/m3, さらに CB への個体曝露濃度は 8.1×10-6/m であった. 環境中 PM2.5 濃度と個体 PM2.5 濃度の間には正の相関が認められ (p = 0.03), 環境中 PM2.5 濃度が 10 _g/m3 上昇すると個体 PM2.5 濃度が12%上昇した. さらに, CB と個体 PM2.5 濃度の間にも正の相関が認められ (p < 0.0001), CB 曝露レベルが 1×10-5/m 上昇すると30%の個体 PM2.5 濃度の上昇が認められた. 血漿蛋白量の酸化については CB 個体曝露濃度との間に明らかな正の相関が認められたが, PM2.5 との間では相関は統計学的に有意ではなかった (p = 0.061). 女性被験者では個体 PM2.5 レベルが 10 _g/m3 上昇すると血漿中マロンアルデヒドが3.7%上昇した (p < 0.05) が, 男性ではこのような関係は認められなかった. 同様に赤血球数およびヘモグロビン濃度についても, 女性では個体 PM2.5 レベルと特異的に相関した上昇が認められた (p < 0.01). 環境中の PM2.5 レベルと全ての血液, 血漿マーカーとの間に相関は認められなかった.
 これらの結果は高濃度ではない粒子への曝露により末梢赤血球数の増加および酸化的ストレスが起こることを示し, また, 環境中濃度と比較して個体曝露濃度の方が, より心血管系疾患に関連した生体マーカーの変化に相関することが明らかとなった. さらに, 酸化的ストレスは動脈硬化を, 赤血球数の増加は血液粘性の増加を引き起こし, これらの変化が相まって心血管系疾患に関与するものと考えられる.

Sソrensen M1, Daneshvar B2, Hansen M2, Dragsted LO2, Hertel O3, Knudsen L1, Loft S1
(1 Copenhagen 大学 保健学研究所, 2 食品安全栄養学研究所, Søborg, 3 国立環境研究所, Roskilde, Denmark)



超微粒子の毒性および炎症作用における活性酸素の関与
The role of free radicals in the toxic and inflammatory effects of four different ultrafine particle types

Key Words : 超微粒子/酸化的ストレス/マクロファージの炎症性蛋白-2/γ-glutamyl transpeptidase

Inhalation Toxicology 13: 39-52 (2003)

 燃焼装置由来の超微粒子は大気汚染物質の一つであり, この超微粒子が粒子径 10 µm 以下の粒子による健康被害にも関与すると考えられている. 同じ材質であっても, 大きな径の粒子と比較して超微粒子の肺や肺細胞への傷害性は高いが, これは超微粒子が肺胞から細胞間隙へ容易に移行することと関係がある. また, 質量と比較して大きな表面積をもつために, マクロファージによる除去効率を低下し, 肺胞上皮との反応性を高めるという説がある. これら超微粒子の吸入は最終的には肺組織におけるサイトカインやケモカインの遊離を引き起こす. 超微粒子の活性酸素産生には, 遷移金属によるフェントン反応を介した活性酸素産生は必ずしも寄与しない. しかしながら, 活性酸素の産生はサイトカインやケモカイン同様により高い毒性を引き起こす. 超微粒子を二酸化チタン (UFTi), ニッケル (UFNi) およびコバルト (UFCo) で作製し, ラットに気管内投与した実験では, UFTi と比較して UFNi および UFCo で高い炎症作用が認められ, 粒子径だけが超微粒子の毒性の重要な因子ではなく, それらの表面の反応性も重要であることが報告されている. また, UFNi は UFCo と比較して強烈な炎症作用を示すが, その活性酸素産生能には明らかな違いは認められなかった. 粒子や炎症細胞から遊離される活性酸素は細胞 glutathione (GSH) 含量が変化する. 細胞 GSH の変化は NF-κB および粘着分子発現のアップ・レギュレーション, 炎症性メディエータの遊離を引き起こす. これらの知見から, 超微粒子の毒性には表面積, 化学的組成, 粒子数および表面反応性が関与するものと考えられる.
 本報告で著者らは炭素超微粒子 (UFCB, 粒子径 14 nm; 表面積 253.9 m2/g), UFCo (20 nm; 36.9 m2/g), UFNi (20 nm; 36.2 m2/g) およびUFTi (20 nm; 49.8 m2/g) の毒性および炎症作用について in vivo および in vitro の実験系で検討を行った. これらの超微粒子 125 µg の気管内投与により UFCB および UFCo では4および18時間後に肺胞洗浄液 (BAL) 中への好中球の流入が認められ, マクロファージの炎症性蛋白-2 (MIP-2) およびγ-glutamyl trans-peptidase (GGT) の増加がそれぞれ4および18時間後に認められ, GGT の増加は UFCB および UFCo と同程度だった. UFNi では投与18時間後に好中球の流入が認められたが, MIP-2 および GGT の増加は認められなかった. また, UFTi ではいずれの項目にも変化はなかった. これらの超微粒子の投与4時間後の MIP-2 および投与18時間後の GGT の変化は, プラスミド切断実験により in vitro で測定した活性酸素産生能と一致する変化であった. UTCo, UTCB および UTNi では炎症マーカーの上昇とスーパーコイル DNA の低下が認められ, 過酸化水素の産生が示唆された. さらに, UFNi による培養肺胞マクロファージからの TNF-α の産生は抗酸化剤である N-acetylcysteine および glutathione monoethyl ester により抑制された. これらの結果は慢性閉塞性肺疾患や喘息などの既に酸化的ストレスを受けている患者では, 超微粒子によりそのストレスが増強されることを示唆する.

Dick CAJ, Brown DM, Donaldson K, Stone V
(Napier 大学 健康生命科学部, Edinburg, UK)



雄マウスの性成熟期における攻撃行動と血中テストステロン濃度:胎児期ビスフェノールA曝露の影響
Aggressive behavior and serum testosterone concentration during the maturation process of male mice: the effects of fetal exposure to bisphenol A

Key Words : 攻撃行動/行動/ビスフェノールA/マウス/性成熟/テストステロン

Environmental Health Perspectives 111: 175-178 (2003)

 いくつかの野生生物群で生殖能発達の正常な様式の変化が観察され, 性ホルモンに似た作用を有する内分泌かく乱化学物質の曝露と関連していると考えられている. 性ホルモンは, 神経内分泌や行動の発達時期に神経系に影響を与えているが, 内分泌かく乱化学物質の神経発達に及ぼす影響については, あまり調べられて来なかった. ジエチルスチルベストロールの出生前曝露により攻撃性が増加すること, エストロゲン受容体を欠乏させた遺伝子操作マウスでは攻撃行動が起こらないことが報告されている. マウスのように集団生活をする種では, 攻撃行動の発現による集団内順位の決定が, 繁殖の成功や環境に適合した個体密度の調節に重要である. この研究では, エストロゲン様活性を有するビスフェノールAを胎児期に投与し, 雄マウスの攻撃行動やホルモン分泌の変化に及ぼす影響を評価している.
 CD-1 マウスを用いて妊娠11日から妊娠17日まで, 環境中に存在し, ヒトが曝露を受ける可能性がある濃度に見合うごく低用量のビスフェノールA (体重あたり 2 ng/g または 20 ng/g) を, 一日一回与えた. 児動物は, 生後21日に母親から離乳させた.
児動物の攻撃性の評価は, 8, 12および16週齢で行った. 攻撃行動の検査をする際に使用した敵対動物には, 対照群の9ケージから無作為に15匹を選抜した. 攻撃行動の観察は, 透明なプラスチックケージに観察動物を先に入れ, 5分後に敵対動物を入れてから, 7分間行い, 観察マウスが敵対マウスの体に触れた (鼻で臭いをかぐ, 取っ組み合うなど) 時間を測った. 攻撃性を検査した動物は, 検査の一週間後に致死させ, 血液を採取し, テストステロン濃度を測定した. また, その時の体重および精巣重量を測定した.
 攻撃性の指標とした接触時間は, 8週齢では,ビスフェノールAを与えた群は 2 ng/g および 20 ng/g のいずれも対照群と比較して有意に増加したが, 12週齢以降では対照群との違いはみられなかった. 精巣の相対重量(体重比)は 2 ng/g, 20 ng/g 投与群とも12週齢時に対照群より有意に低下した. 雄マウスの血中テストステロン濃度には, 対照群と比較して違いは認められなかった.
 今回の実験では, 胎生期ビスフェノールA曝露によって (1) 行動 (攻撃性) に変化を来たした. (2) 発育のごく早い時期にビスフェノールAを投与すると精巣重量が低下した. (3) ビスフェノールAは, 20 ng/g より低い用量で, 精巣重量により大きな変化をもたらした (用量に依存しない変化である). しかし, この攻撃性の増加や精巣発育の抑制には, 血中テストステロン濃度の変化を伴っていなかった.

Kawai K1,2, Nozaki T1, Nishikata H1,2, Aou S2,3, Takii M1,2, Kudo C1,2
(1 九州大学大学院 医学研究科 心療内科, 福岡, 2 科学技術振興事業団, 戦略的基礎研究推進事業, 川口, 3 九州大学大学院 医学研究科 統合生理学分野, 福岡)



日本人における臭素化ダイオキシンおよび臭素化ジフェニルエーテルの曝露レベル
Polybrominated dibenzo-p-dixins, dibenzofurans, and diphenyl ethers in Japanese human adipose tissue

Key Words : 日本人/脂肪組織/臭素化ダイオキシン/臭素化ジフェニルエーテル

Environmental Science & Technology 37: 817-821(2003)

 臭素系難燃剤 (BFRs) は, 1992年には全世界で生産される難燃剤の25%を占め, その主なものはポリ臭素化ジフェニルエーテル (PBDEs) および四臭素化ビスフェノールA (TBBPA) である. PBDEs はプラスチック, 繊維, 塗料, 電気製品などに汎用されており, 1992年の全世界での消費量は40,000トンであった. 日本での需要は1986年の20,000トンから2000年の67,250トンに増加しており, また, 主要な BFRs であるTBBPA の2000年の国内生産量は32,300トンであった.
 PBDEs の環境中への放出は, それらの生産, 使用, 一連の廃棄過程や PBDE 含有製品の解体などに由来している. PBDEs は脂溶性が高いため, 食物連鎖により生体内に濃縮されると考えられており, 弱いダイオキシン様作用を示す. 近年, 欧米諸国での PBDEs のヒト体内レベルは増加しているとの報告がある. 本研究は, 1970年および2000年に東京在住の40〜50歳代女性の脂肪組織中臭素化ダイオキシン (ポリ臭素化ジオキシンおよびポリ臭素化ジベンゾフラン; PBDD/Fs) および PBDEs をガスクロマトグラフィ/マススペクトロメトリーにより測定し, PBDD/Fs と PBDEs との関連を調べた. これは日本人を対象とした最初の報告である.
 1970年および2000年の脂肪中 PBDD/Fs は2,3,7,8-TeBDD, 2,3,7,8,-TeBDF および2,3,4,7,8-PeBDF の3種が検出され, 1,2,3,7,8-PeBDD は検出限界以下であった. これら3種の合計はそれぞれ 3.4〜8.3 および1.9〜5.3 pg/g fat であり, ほぼ同レベルであった. また, 塩素化ダイオキシン (PCDD/Fs) レベルは2000年と比較して1970年の方が高かった. PBDEs については, 1970年では BDE-28, BDE-47, BDE-99, BDE-100 の4種が, 2000年ではこの他に BDE-153, BDE-154, BDE-183 を加えた7種が検出され, その合計はそれぞれ 6.8〜78.4 および 466〜2,753 pg/g fat であった. この結果は過去30年間の日本における BFRs 曝露量が増加していることを示唆している. 両年とも BDE-47 が全 PBDEs 中で最も多く, それぞれ56.2%および35.6%を占めていた. この2000年の日本人脂肪組織中 PBDEs レベルは, 2000年の日本や1994〜1998年のフィンランドの母乳中レベルと同等で, 1992〜1999年のドイツや米国の血中・母乳中レベルに比べ低かった.
 PBDD/Fs は, PBDEs や TBBPA など BFRs の熱分解により発生すると考えられており, 煤煙, 飛灰, ゴミ焼却残渣, 自動車の排気ガスなどに検出されている. 1970年および2000年ともPBDD/Fs レベルと PBDEs レベルとに相関性は認められず, 日本における両年の BFRs 使用量からはヒト脂肪中 PBDD/Fs レベルの変化を説明できなかった. これらの結果から汚染源の変遷が示唆されるが, PCDD/Fs と PBDD/Fs の環境中での動態が異なる可能性もあり, ヒトへの曝露経路は不明である. PBDD/Fs は PCDD/Fs と同等の毒性があるとされているが, 環境中の汚染実態やヒトでの曝露状況の報告は少なく, 今後の詳細な調査が期待される.

Choi JW, Fujimaki S, Kitamura K, Hashimoto S, Ito H, Suzuki N, Sakai S, Morita M
(国立環境研究所, つくば)



ディーゼル排気吸入によるスギ花粉症の悪化には,ガス成分と微粒子の両方とも関与する
Effects of the inhalation of diesel exhaust, Kanto loam dust, or diesel exhaust without particles on immune responses in mice exposed to Japanese cedar (Cryptomeria japonica) pollen

Key Words : ディーゼル排気/スギ花粉/免疫/マウス/IgE

Inhalation Toxicology 13: 1047-1063 (2001)

 現在, 花粉症患者の増加は世界的な問題である. 日本でも1964年にスギ花粉症が最初に報告されて以来, 患者数が急速に増加していることから, 深刻な健康問題として関心を集めている. 現在, 日本でのスギ花粉症の罹患率は, 成人で10〜20%, 子供で5〜10%と報告されている. スギ花粉症は, くしゃみ, 鼻漏, 鼻鬱血および流涙を症状とする典型的な即時型アレルギー疾患である. 発症には, スギ花粉抗原特異的 IgE 抗体が関与する.
 疫学研究や動物を用いた研究から, ディーゼル排気微粒子がスギ花粉症を悪化させることが知られている. 例えば, マウスを用いた実験では, スギ花粉抗原あるいは卵白アルブミンとディーゼル排気粒子を鼻腔あるいは腹腔に投与すると, 抗原特異的 IgE 抗体産生が起こったという報告がある. しかし, これがディーゼル排気微粒子曝露に限ったものであるのか, あるいは他の吸入大気汚染物質も同じ作用を有するのかについては, ほとんど報告されていない.
そこで, 著者らはディーゼル排気に含まれる微粒子およびガス成分がどのようにスギ花粉症の発症に関与するのかを調べるために, ディーゼル排気, 関東ローム粉あるいは微粒子除去ディーゼル排ガスをマウスに吸入させる際に, 同時にスギ花粉も吸入させる実験を行った. なお, 関東地方の大気中に存在する細かい土埃である関東ローム粉は, ディーゼル排気微粒子に対する比較微粒子として用いた.
 実験では, アレルゲン特異的免疫グロブリンE (IgE) 抗体産生を指標として, 大気汚染によるマウスの免疫応答の増強を評価した. 5週齢の雌性 BDF マウスを1群60匹, 5群に分けた. ディーゼル排気 (DE, 粒子 3.24 mg/m3;二酸化窒素 1.0 ppm) 群, 関東ローム粉 (KLD, 粒子 3.29 mg/m3;二酸化窒素 0.01 ppm) 群, 粒子除去ディーセル排気 (DEG, 粒子 0.01 mg/m3;二酸化窒素 1.1 ppm) 群および清浄空気 (花粉単独) 群の4群は, 1日16時間の曝露を1週間に5日間, 24週間行い, 曝露期間中, スギ花粉 (日本スギ花粉, 約 550,000 粒/m3) を週に2回曝露した. スギ花粉は千葉および山梨県で1995〜1998年の間に採取した. 吸入時間外は, 清浄空気中で飼育した. 残りの1群は, スギ花粉を曝露しない清浄空気対照群とした. マウス血清中のスギ花粉アレルゲン特異的 IgE 抗体価を ELISA 法で測定した. 曝露第12週および24週の DE, KLD および DEG 群の平均力価は花粉単独群よりも高かったが, 有意ではなかった. スギ花粉特異的 IgE 抗体陽性を示した動物の割合は, 曝露12週では DE 群および花粉単独群で22%, KLD 群および DEG 群で27%であり, 群間差は認められなかった. しかし, 曝露24週には, DE 群, KLD 群および DEG 群で,それぞれ73, 63および67%となり, 花粉単独群の33%よりも有意に増加した. また, スギ花粉に対するマウス頸部リンパ節細胞の増殖応答は, DE 群および KLD 群で用量依存的な増加がわずかに認められたが, DEG 群ではみられなかった. 一方, サイトカイン産生に対する影響を調べるため, 鼻洗浄液中のサイトカイン (インターフェロン-γおよびインターロイキン-4) 量を測定した. DE 群および DEG 群では, インターフェロン-γの減少とインターロイキン-4の増加がみられたが, KLD 群では認められなかった. 以上の結果から, 本実験で検討した大気汚染物質である DE, KLD および DEG は全て, マウスの IgE 抗体産生を増大させ, それぞれ類似した免疫応答調節活性を持つことが示唆された. しかしマウスでは, 花粉, 微粒子およびガス成分曝露による感作の早期には, これらは異なった機序で IgE 抗体産生を促進すると考えられた. 大気汚染物質中の微粒子はTリンパ球の活性を介して, また, ガス成分はTリンパ球にはほとんど作用せず, サイトカインネットワークの異常を誘発して, それぞれ IgE 抗体産生を促進することが明らかとなった.

Maejima K1, Tamura K1, Nakajima T1, Taniguchi Y2, Saito S3, Takenaka, H4
(1 日本自動車研究所, 茨城, 2 林原生物化学研究所, 岡山, 3 東京慈恵会医科大学, DNA 医学研究所, 東京, 4 大阪医科大学 耳鼻咽喉科, 大阪)



アレルゲンに繰り返し曝露したときのラット気管のコラーゲンの変化
Repeated allergen exposure changes collagen composition in airways of sensitised Brown Norway rats

Key Words : 気道/気管/アレルギー/喘息/コラーゲン/ラット

European Respiratory Journal 20: 280-285 (2002)

 正常な気管の組織には各種細胞外基質が存在する. 気管上皮の下の基底膜に「型コラーゲン, プロテオグリカン, ラミニン, フィブロネクチンが存在し, さらにその下層は沍^, 。型, 」型の各コラーゲン, エラスチン, プロテオグリカン, フィブロネクチンとラミニンで構成されている. 沍^コラーゲンは気管壁全域に気管上皮と平行に束をなして存在し, 。型コラーゲンおよび、型コラーゲンは気管の粘膜および外膜のいたる所に存在する. 」型コラーゲンは気管壁の外側から平滑筋や血管に近接して存在し, 「型コラーゲンは上皮と血管を取り囲む下方の基底膜と平滑筋束内に存在する.
 喘息患者の気管の特徴の一つとして, 粘膜下組織の細胞外物質の変化と血管新生による基底膜下層の肥厚が認められ, この肥厚は, 主に沍^, 。型, 」型の各コラーゲンとフィブロネクチンおよびテネイシンの沈着の増加によるものである. さらに, 慢性の喘息患者では, 気管支の粘膜下組織に。型, 」型, 、型の各コラーゲンの沈着の増加が認められる. しかし, これらの現象がなぜ起こり, その役割が何なのかが不明であるため, それを解明する手段として動物実験モデルの作製は有用である. そこで今回, Brown Norway ラットにアレルゲンとして卵白アルブミン (OVA) 1 mgとアジュバントとして 200 _g の Al(OH)3 を第0および7日に腹腔内投与した後, 第14〜28日 (2週) または第14〜98日 (12週) まで連続的に1% OVA を吸入曝露させた. 対照には OVA の代わりに PBS を用いた.
 その結果, 気管の各型のコラーゲンの分布のパターンには, 対照動物とアレルゲンの曝露期間の異なる動物との間に差は認められなかった. 2週の OVA 曝露群と PBS 曝露群では, 気管に沈着したコラーゲンの量的変化および栄養血管の占める面積に差は認められなかった. 12週曝露の結果では, OVA 曝露群において, 沍^コラーゲンと、型コラーゲンの気管壁における沈着の総量が増加し, 沍^コラーゲンでは気管壁の内・外側共, 、型コラーゲンでは主に外側で増加した. 」型コラーゲンでは沈着の総量の増加は示さなかったが, 外側で増加した. 。型コラーゲンと「型コラーゲンには変化は認められなかった. さらに, 沍^コラーゲンの増加量と気管支周辺の好酸球数の増加との間に相関関係 (rs = 0.72) が認められ, 、型コラーゲンの増加と気管壁の好酸球数の間にも相関 (rs = 0.86) が認められた. しかし, 」型コラーゲンではこの関係は認められなかった. また, 全気管壁に占める栄養血管域の増加が認められた.
 この12週曝露で認められた各種コラーゲンの沈着は, アレルゲンの刺激によって上皮細胞や好酸球から遊離される各種の成長因子による線維芽細胞や筋線維芽細胞由来であると考えられる. このコラーゲンの沈着は, アレルゲンの継続的な感作による炎症性細胞の持続的な存在によって, 組織の繰り返しの修復およびその再生過程で産生されるもので, 沍^コラーゲンおよび「型コラーゲンなどが増加することにより, 細胞間物質の結合, 癒着を強めるなど気管壁の硬直化を増加させることにより気管の過敏反応を防御するために起こる現象であると考えられた.

Palmans E, Pauwels RA, Kips JC
(Ghent 大学病院 呼吸器病科, Ghent, Belgium)



職業病としてのゴム手袋アレルギー
―1995〜2001年の皮膚科情報ネットワークからの調査結果―

Occupational rubber glove allergy: results of the Information Network of Departments of Dermatology (IVDK), 1995-2001

Key Words : ゴム手袋/職業病/接触性アレルギー/加硫促進剤

Contact Dermatitis 48: 39-44 (2003)

 保護用ゴム手袋は, 危険性, 毒性, 感染性, 刺激性, または感作性物質等の接触から手指皮膚を守るために使われ, ゴム (エラストマー) を材料としているが, その製造のため現在までのところ感作性を有する加硫促進剤を使用せざるを得ない. ここ10年以上, 加硫促進剤であるチウラム類が医療用手袋における主要なアレルゲンであったが, 最近, 多くの製造業者はチウラム類からジチオカルバミン酸塩類あるいはメルカプトベンゾチアゾール (MBT) とその誘導体に置き換えている. 英国での調査結果では, チウラム類感作症例の出現頻度が減少していると報告されている. 今回, 著者らは皮膚科情報ネットワークからデータを集め, さらに, 加硫促進剤に対するパッチテストを実施し, 製造業者が加硫促進剤を変更したことの影響を解析した.
 1995〜2001年の累計では, ゴム手袋接触皮膚炎は2,047名あり, パッチテストの結果, 調べた加硫促進剤のうちチウラム類化合物が合計陽性率15.1%と最も高率を示した. なかでもテトラエチルチウラムジスルフィド (TETD) が10.3%と高い陽性率を示した. 年次をおってみると1997〜2000年にかけて有意ではないがチウラム類陽性率は減少傾向を示し, また, 2001年に再び増加傾向を示したが, これも有意な変化ではなかった. ジチオカルバミン酸塩類は合計陽性率が3.4%で, 陽性となったのはほとんどの場合ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛であった. MBT 誘導体のなかではモルホリニルメルカプトベンゾチアゾールが陽性率2.5%と, MBT の2.0%より高かった. チオ尿素類は陽性率0.5%であった. 1,3-ジフェニルグアニジンは陽性率1.9%であったが, ほとんどの場合反応は弱かった. チウラム類とジチオカルバミン酸塩類の交差反応性は検査された1,975例のうち63例 (3.2%) でみられた. この場合, ジチオカルバミン酸塩類に反応した人の92.7%がチウラム類にも反応したが, 逆は21.1%であった.
 チウラム類のなかで TETD が最強のアレルゲンであったという結果は他の報告とも一致した. 一方, チウラム類アレルギー患者の多くは TETD のみでなく他のチウラム類にも反応したとの報告があり, 実際にゴム製造業者はチウラム類の混合物を繁用している. 調査結果では有意ではないものの2000年と比較して2001年に陽性率が増加した. 今後の推移を慎重に見守る必要がある. 陽性率の反転理由として, 多くの病院で安価な無名メーカーのゴム手袋が大量に使用され, これらの製造工程においてチウラム類による加硫促進過程が採用されているのではないかと推測される.
 ジチオカルバミン酸塩類と MBT 誘導体の陽性率は高くなく, 商品の成分リストではこれらの加硫促進剤の使用頻度が増しているにもかかわらず, 年次増加傾向も示されなかった. これらの化合物がゴムから遊離し難いか, 本当に感作惹起能が低いかのいずれかであろう. 最近行われたマウス局所リンパ節アッセイ (LLNA) およびマキシミゼィション試験では, これら2つの化合物グループに属する種々の物質の感作惹起能は多岐にわたっていることがわかった.
 著者らの結果から, ゴムアレルゲンの構造活性関係を検討することが可能かもしれない. チウラム類のなかではテトラブチルチウラム二硫化物が, ジチオカルバミン酸塩類のなかではジブチルジチオカルバミン酸亜鉛がアレルゲン活性が低い. これらは長いあるいは大きい鎖を有しており, この構造特性が影響しているからかもしれない.

Geier J1, Lessmann H1, Uter W2, Schnuch A1
(1 Göttingen 大学 皮膚科学科情報ネットワーク, 2 Erlangen-Nuremberg 大学 医療情報科学, 生物統計学, 疫学科, Erlangen, Germany)



環境化学物質と自己免疫疾患: 原因と影響
―1995〜2001年の皮膚科情報ネットワークからの調査結果―

Environmental chemicals and autoimmune disease: cause and effect

Key Words : 自己免疫/薬物/環境

Toxicology 181-182: 65-70 (2002)

 自己免疫異常との関係が考えられている薬剤は多数あり, エリテマトーデスと関連するものは70種以上ある. WHO は, ほかの環境要因と自己免疫異常との問題をまとめている (WHO Guideline Document, 2000).
 芳香族アミンおよびヒドラジン:薬物関連エリテマトーデス (DRL) の原因とされている薬物の多くは, 芳香族アミンやヒドラジンである. ヒドラジンとその誘導体は, 農工業用製品やタバコなどに含まれ, 喫煙者における全身性エリテマトーデス (SLE) の高リスクや, 硫酸ヒドラジンを扱っていた研究技術者がエリテマトーデス様の疾患を患った事例がある. タートラジン (FD&C 黄色5号) は, 多くの食物や薬剤に含まれるアゾ色素で, 喘息, 蕁麻疹, 血管性浮腫や免疫疾患の一因であると指摘されており, タートラジンを投与された患者にエリテマトーデス様の疾患が認められた. 毛髪染料基材である芳香族アミン類のパラフェニレンジアミンは, 動物実験で結合組織の異常を引き起こし, 高用量または長期間曝露では, 強皮症様障害を引き起こす. この物質とヒトの SLE の関連には論争があり, 未決着である.
シリカ:シリカ塵曝露は, SLE や強皮症などの危険因子である. シリカ曝露による結合組織疾患での自己抗体発生が多数報告されており, シリカ塵の非特異的なアジュバント効果によると思われる. また, シリカによる微小血管内皮細胞や末梢血単核細胞, 皮膚線維芽細胞の活性化が, 強皮症発生に関係すると思われる. 塩化ビニル:塩化ビニル [モノマー] に曝露された人に強皮症, さらに肢端骨溶解が発生している. ヌクレオチドと結合した塩化ビニル酸化代謝物は, より高い反応性を示すことが知られている.
 有機溶剤:有機溶剤である芳香族と塩素系溶剤は, 強皮症のような結合組織の疾患と, トリクロロエチレンは, 強皮症や好酸球性筋膜炎との関連が報告されている. ヘキサクロロベンゼンは, 好酸球と単核細胞の一部に炎症性の脂肪化を起こし, 1950年代には約4,000人が肝性ポリフィリン症になったことが知られている. 可塑剤:エポキシ樹脂の重合に使用する新しいタイプの可塑剤であるシクロヘキシルアミンが原因であると考えられるモルフェアと呼ばれる限局性強皮症が誘発されたとの報告がある.
 その他の薬剤:プロカインアミド, d-ペニシラミン, クロロプロマジンおよびイソニアジドが強皮症を起こすことが知られている. また, ベリリウム曝露により免疫関連性肺疾患になることが知られており, コカインの乱用では, 強皮症や皮膚アレルギー性血管炎のような結合組織の疾患と似たような症状を呈し, コルヒチンは筋症の原因となり, エオジンは光感受性発疹や接触皮膚炎の原因となる.
 金属:一部の金属への慢性的な曝露は, ヒトおよび動物に対して免疫複合体腎疾患を引き起こす. 金は, 腎臓疾患の他, 好中球, 単球およびリンパ球の機能に影響を及ぼし, カドミウムをラットに長期投与すると膜性糸球体腎炎を引き起こし, これも免疫系複合体によるものである. また, マウスでは, 抗核抗体が産生されるとの報告もある. 水銀は, マクロファージ, 多形核白血球およびT-リンパ球に影響を及ぼすことが動物実験において報告されており, 高感受性ラットでは, さまざまな免疫複合体が糸球体腎炎を引き起こすこと, マウスおよびラットにおいて認められるこれらの自己抗原は, ラミニン1, フィブラリンまたは核ヒストンであることが示唆されている. 水銀は, 体内タンパクのメルカプト基に作用してタンパクの分子そして抗原特性を修飾する.
プリスタンは, しばしば天然油中の夾雑物として認められ, 近交系マウスに対して自己抗体を産生しエリテマトーデス様疾患や腎疾患を引き起こす. これはまた, 免疫系を非特異的に活性化する.
 これら多くの化学物質は, ヒトおよび動物の免疫系にさまざまな方法で影響することが多くの研究によって明らかにされてきたが, その主な作用機序は大きく分けて以下の6種を挙げることが出来る. 1. 薬物がポリクローナルなB細胞を活性化することによって自己抗体を産生し, 抗原特異的な免疫反応が誘発される. 2. 薬物が, 免疫または他の細胞に直接毒性を示すことにより免疫機能を障害するか細胞内物質が放出され, それに対する自己抗体が産生される. 3. 薬物と細胞成分間に相似構造があるとき, おそらく薬物と生体分子の抗原決定の共有化によって交差反応が起る. 4. 薬物が遺伝子活性を変更する調節因子に直接作用する. 環境物質によってT細胞の DNA メチル化を妨害することが報告されており, これによって自己攻撃T細胞や自己免疫疾患が誘発される. 5. 薬物が自己タンパクと結合することによって抗原構造と機能を変化させ, 自己免疫反応を誘導する潜在性抗原決定基が顕在化する. 6. 薬物がフリーラジカルを発生させることによって炎症性反応を起こす.
 なお, 今後の自己免疫疾患調査に関する課題は, 自己免疫疾患をより記述的でより正確に同定および定義すること, また各症例が環境物質の曝露に関連した疾患である可能性が示唆された場合は, その関連性について疫学的, 医学的さらに学術学的に調査研究する必要があり, さらに, その基準や分類には常に新しい情報を追加, 見直しおよび再評価をしていく必要がある.

Hess EV
(Cincinnati 大学 医学部 免疫部門, Cincinnati, USA)